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sapphism_no_gensou:3251

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[Anri] おはよ〜。

[Narration] 眠い目をこすりながら、杏里は待ち合わせ場所に先に来ていたアイーシャに声をかける。

[Aisha] おはよう、杏里。……眠そうね?

[Anri] こんなに早起きしなきゃならないなんて思わなかった……。

[Aisha] 杏里ったら。そんなに早い時間でもないのよ?

[Narration] 時間は学園の一時限目授業が始まる少し前。しかし、最近、謹慎で生活のリズムが一定ではなくなった杏里には、タイミングによっては起きるのが辛い時間だった。

[Narration] そして、この朝はタイミングが悪い方のようだった。

[Aisha] さ、行きましょう。

[Anri] うん〜。

[Narration] やはり、少し時間が遅かったようだった。

[Narration] 温室に入って、木々の世話を申し出た二人に対して、園丁は本日の朝の仕事は半ば以上終わっていることを告げた。

[Narration] もともと、熱意で申し出たわけではなかったので、杏里にはそれほどショックはなかった。

[Anri] ちょっと楽しみにしてたんだけどな。

[Aisha] そうね。

[Narration] 仕方なく、温室の散歩へと杏里は目的を切り換えていた。

[Anri] 散水はこれからだって言ってたから、虹は見ることができるよね。

[Aisha] そうね。

[Narration] 杏里の隣で、アイーシャが穏やかに笑いながら答える。

[Aisha] あ……。

[Anri] どうしたの?

[Narration] 小さく声をあげたアイーシャが見つめる方向に杏里も視線を向ける。

[Narration] そこには、周囲の木々に埋もれるようにではあるが、熱帯の樹木が葉を広げていた。

[Aisha] この樹……。

[Narration] 高さは葉の先までで三メートルほどの樹に、アイーシャは歩み寄って、その幹に手を当てた。

[Anri] 椰子……なのかな?

[Aisha] 私も、よくわからないの。ここって雑多に樹を植えているみたいだから。

[Anri] この樹が、どうかしたの?

[Aisha] うん……、この樹ね、私が初めてここでお水をあげた樹なの。

[Anri] へぇ……。よく憶えてるね。

[Aisha] うん。他に、することがなかったから……。

[Narration] 少しうつむいて、そうつぶやくアイーシャ。しかし、すぐに杏里へ向けて顔をあげる。

[Aisha] この樹、もうちょっと背が低かったのよ。たぶん、一メートル近く伸びたんじゃないかしら。

[Anri] ふぅん、アイーシャが大きくしたんだね。

[Aisha] ちがうわ。私が毎日世話したわけじゃないもの。……でも、この樹が伸びていることに気づいた時は、嬉しかったな。

[Narration] アイーシャは樹の幹に額をつけて、微笑む。愛おしげなその顔に杏里の視線は吸いつけられる。

[Aisha] どうしたの? 杏里。

[Narration] 自分を見つめる視線に気づいて、アイーシャが尋ねる。

[Anri] あ、うん、びっくりしちゃって。

[Aisha] え?

[Anri] アイーシャがなんかどんどん素敵に、綺麗になっていく気がして。ううん、ごめん、気のせいじゃないよね。

[Aisha] え、なに、それ……。

[Anri] ほんとにそう思ってるよ。なんて言うのかな、キミが内側から花開いていくのがわかる。

[Anri] それを見てしまったから。

[Aisha] ……なんて答えればいいのよ。

[Narration] 困惑の表情とかすかに紅くそまった頬で、アイーシャが答える。

[Anri] なんでもいいよ。

[Narration] 自然に顔が笑う。

[Aisha] ……きっと、杏里に影響されたんだわ、私。

[Anri] 輝きはキミ自身のものだよ。ボクが手伝えたのなら、それは嬉しいんだけどね。

[Aisha] ……輝き、なんて……。

[Anri] どうしたの?

[Aisha] ……ううん、なんでもない。

[Anri] ねえ、アイーシャ、気づいてる?

[Aisha] え? 何に……?

[Anri] この樹を大きくしたのは、紛れもなくキミの力なんだよ。

[Anri] それが今、キミ自身を輝かせてる。ほんとだよ。まぶしくてしょうがないんだ。

[Aisha] ………………。

[Narration] 言葉を失ってアイーシャは立ちつくす。

[Anri] ねぇ、アイーシャ。

[Aisha] あ、はい……。

[Anri] もっと、ゆっくりたくさん、アイーシャが見たいな。一緒にすごす時間がほしい。ね、日曜日にデートしよう。

[Aisha] え……。

[Anri] ね、デートしよう?

[Aisha] ……もう、なんかすっかり騙されているみたい。

[Aisha] でも、ありがとう。私も杏里に会いたい。

[Aisha] 日曜日、楽しみにしてるから……。

[Anri] うん。ボクもすごく楽しみにしてるよ。

sapphism_no_gensou/3251.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)