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sapphism_no_gensou:3221

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[Narration] トントンと、包丁がまな板を叩く軽快な音が響く。コトコトと鍋の蓋が踊る音も同時に。時折、パタパタと板敷きの台所を走るまだ初々しい新妻の足音。

[Anri] ああ、これぞ、日本の伝統……。

[Anri] わび〜さび〜わさび〜。

[Aisha] あなた、ご飯にする? それとも先にお風呂?

[Anri] ああ、これだよこれ……。答えは決まってるよ。もちろん、いちばんおいしいキミをいただくのさ〜! なんたってエプロンの下ははだか……。

[Anne Shirley] ああ、いけません、いけません、主人が帰ってきたら……! ああ、そんな、そんな……!

[Anri] わ、わ、うあわぁ!

[Anri] あれ? ぼくの……部屋?

[Aisha] ランカスターさん、ソーセージ、炒め上がったみたいです。

[Eliza] それじゃ、小麦粉を入れてください。ひとしきりあえたら、お湯を注ぎます。

[Aisha] は、はい!

[Eliza] 緊張しなくても平気ですよ。

[Aisha] は、はい!

[Narration] 杏里の部屋のキッチンで、エプロン姿のアイーシャが、イライザと一緒になにやらフライパン、鍋、オーブンを相手に奮闘している。

[Anri] あれ? あれ?

[Anne Shirley] どうしたの、杏里。

[Anri] うわぁ!

[Anne Shirley] 素敵なリアクションね、杏里。

[Anri] そうか、さっきの妙な夢はキミにやられたんだな。

[Narration] 杏里は、自分の前に置かれた飲みさしの紅茶とアンシャーリーを見比べながら言う。

[Anne Shirley] よい夢は見れて? あたしはバッドトリップよ。あなたの夢に行けやしない。やっぱり量が少なかったのかしら。それとも、純度?

[Anri] いや、来てたよ、しっかりとね。

[Narration] 杏里は再びキッチンへと視線を戻す。

[Aisha] あの、料理酒ってどんなお酒なんですか?

[Eliza] ……どんなお酒でもいいんですけどね。

[Narration] 何事かと言えば、アイーシャの特訓だった。イライザに協力を頼んで、料理を教わることになった。

[Narration] なぜか、始めてみればアンシャーリーがこの場でお茶を飲んでいるのが不思議と言えば不思議だ。

[Anne Shirley] 料理の分量は四人分が基本だからちょうどいいのよ。ああ、ボゲードンはそんなに食べないから心配しなくていいわ。

[Anri] ……そりゃ、どうも。

[Narration] キッチンの方はどうやら佳境に入っているようだ。杏里は視線を戻す。忙しく動き回るエプロン姿とメイド服を見てると、自然に口元が弛む。

[Anri] 世界でこれほど、後ろ姿がそそるのってそうはないだろうなぁ……。

[Eliza] 胡椒をもう少し……、はい、これでこっちはOKです。

[Aisha] あ……。

[Narration] 緊張し通しだったアイーシャの顔が安堵の笑みで弛む。

[Aisha] あ、スープの方は……? 確か、これからオーブンで煮るんですよね?

[Eliza] はい。でも、それは、これから二時間以上かかりますから……。

[Narration] イライザはアルミホイルで覆われた深鍋をオーブンの前まで持っていく。オーブンの蓋を開けて……。

[Eliza] すでに、こちらに完成したものが用意されております。

[Narration] 焼け焦げのついた同じ鍋を中から取り出す。

[Anri] 料理番組……?

[Anri] おいしいよ、アイーシャ! 初めて料理に挑戦したなんて信じられないよ!

[Aisha] あ、ありがとう……。

[Eliza] ソーセージ料理の方はキャセロール、シチューの方はランカシャー・ホットポットと言います。

[Anne Shirley] ……ちょっとハーブが足りないわね。

[Eliza] アンシャーリー様、味付けの変更は、ご自分のお皿だけにお願いします。

[Narration] 申し分なく完成された料理を中心にテーブルを囲む。

[Eliza] 器用なのでしょうね。私が初めて厨房に入った時には、ジャガイモの皮さえ満足に剥けませんでしたから。

[Aisha] あ、そんな……。

[Anri] アイーシャ、イライザはキミのことをすごいってほめてくれてるんだよ。

[Aisha] あ……、ありがとうございます。

[Narration] アイーシャははにかみながら、賛辞を受け取る。

[Anri] 料理の上手な女の子っていいよね。アイーシャ、いつでも幸せなお嫁さんになれるよ。

[Aisha] 幸せなんて……。

[Aisha] そんな……。

[Eliza] 杏里様はお料理はなさらないんですか?

[Anri] ボクはいいの。幸せなお婿さんになって、花嫁さんをもらうんだから。

[Eliza] 最近は、お婿さんも家事のできた方がよろしいとか。

[Anne Shirley] いいでしょう!

[Narration] 唐突にアンシャーリーが立ち上がる。

[Anne Shirley] アイーシャ。罪深き迷える子羊。あなたが闇の中で光を探すために、あたしも手を貸しましょう。

[Anne Shirley] これは不思議なお茶よ。入れ方さえ間違えなければ、相手は二時間は夢の世界に旅立ち、そのあいだの出来事は何も憶えていないわ。

[Anne Shirley] いざとなったら、直接かがせてもOKよ。

[Aisha] え? え……?

[Anri] こらこら、アンシャーリー。

[Eliza] では皆様、食後のお茶はいかがですか?

[Anri] お願いするよ、イライザ。できれば、アンシャーリーのお茶より早く。

[Eliza] かしこまりました。

sapphism_no_gensou/3221.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)