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sapphism_no_gensou:3082

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[Narration] 杏里とアイーシャから始まったお茶会の輪は、今や総勢6名の談笑の場となっていた。

[Narration] ともすれば堅苦しいだけのヘレナの時事の話題をニコルがまぜかえす。時折、それに応じて高くなるヘレナの声に、お茶を口に運ぶクローエの眉があがる。

[Narration] 杏里はアイーシャとソヨンをテーブルに迎えて、かいがいしくホスト役を務めている。お茶を注ぎ、菓子やパンをとりわける。

[Narration] そのあいだも話題を放り込んで、ソヨンから笑い声を、そしてアイーシャから少しでも多くの言葉を引き出そうとしていた。

[Nicolle] しかし、あのまめさだけは杏里の美点とも言えるね。

[Helena] ……そうね、社交的であるのは悪いことではないわね。

[Chloe] 杏里の場合、少し騒々しいのだけど。

[Narration] 杏里のいるテーブルを三人は見やる。杏里が大仰に身振り手振りで話している。ソヨンの笑い声がはじけると同時に、アイーシャもためらいがちな笑みを浮かべている。

[Nicolle] ……カナエも大したもんだね。ソヨンといい、アイーシャといいああも杏里の好みを見抜いているんだからね。

[Helena] ……杏里の不道徳を助長してるだけの気もするけど……。今は、状況が状況だから仕方ない……、のかしら?

[Aisha] あの……。

[Narration] アイーシャがニコル達のテーブルを向いて声をかける。ヘレナが知らずにアイーシャに向けていた視線が気になったようだ。

[Aisha] なにか……?

[Helena] あ、いえ、ごめんなさい。なんでもないの。

[Chloe] ばか……。

[Narration] 立ち上がって否定したヘレナを見て、クローエがつぶやく。ニコルが陽気な口調でアイーシャに声をかける。

[Nicolle] ご愁傷様って言ってたんだ。杏里は当分、あんたにまとわりついて離れそうにないからね。

[Aisha] え……?

[Nicolle] 自分の退学がかかってるんだ、いつも以上に必死のはずだよ。もう飢えた獣そこのけ。目をそらすと襲いかかってくるぞ?

[Aisha] え……。

[Narration] ニコルの言葉に、アイーシャは怯えの色を浮かべて、杏里を見上げる。

[Anri] こら、こらこら!

[Narration] 見上げられた杏里が声をあげる。

[Anri] 人聞きの悪い言い方はやめてほしいな! ボクは純粋にこの時間を楽しんでいるし、アイーシャに対しても変な下心は……、ないよ!

[Nicolle] その不自然な間はなんだ?

[Anri] 間なんてない!

[Soyeon] 退学……、そうですね、杏里さん、大変な状況だったんでしたよね。

[Helena] ……自業自得よ、半分以上は。

[Aisha] あの……、どういうことなんですか……?

[Narration] そう声をかけたアイーシャに、全員の視線が集中した。

[Nicolle] あれ、知らない? 杏里が連続レイプ犯の疑いかけられて、退学処分になったの。

[Anri] まだ退学じゃない! 今は謹慎処分だ!

[Chloe] ……学園長から伝えられる前に、杏里以外の全学生が知ってるかと思ったけど……、例外もいたのね。

[Nicolle] この話はすごいスピードで広まったんだけどな。友達から聞かなかった?

[Aisha] あ、いえ……。

[Nicolle] あれま。ひょっとして友達いないのかい?

[Helena] ニコル! 失礼よ!

[Anri] ま、疑いをかけられているのは事実なんだ。不愉快だよ、よりにもよって連続レイプ犯だと疑われるなんて。

[Aisha] ………………。

[Anri] あの、アイーシャ? ボクは潔白だよ?

[Aisha] ……あ、は、はい。

[Nicolle] 信じてもらえてないみたいだね。

[Aisha] あ、いえ、そんな……。……信じます。

[Anri] ありがとう、アイーシャ。キミのその言葉で、この難事件に立ち向かう勇気がボクの胸にわいてくるよ。

[Chloe] 必要なのは勇気ではなくて、知能ではなくて?

[Unknown] 勇気も時には必要よ。暗き真昼の国への扉を開けるキーワードは勇気を持つものにしか送られないんですもの。

[Narration] 声とともに、赤毛の頭がテーブルの下から生えてくる。

[Anri] ……やあ、アンシャーリー。

[Narration] 杏里に声をかけられた少女はテーブルの端に手をかけて、顔半分だけをのぞかせたまま、それに応えた。

[Anne Shirley] ごきげんよう、杏里。辛い旅へと向かうようね。はなむけの宴は花に彩られているわ。それは出会いであり分岐よ。あなたは運命を選択する。

[Anne Shirley] 勇者への祝福の品として、このボゲードンを従者として授けましょう。

[Anri] いや、ありがたいけど遠慮するよ。

[Anne Shirley] あら、そう。

[Narration] いつの間にか自分の前に、専用のティーセットを展開させて、アンシャーリーはお茶を注ぐ。

[Anne Shirley] いる? そうそう杏里、剣は手に入れた?

[Anri] いいや、まだ。それとあと、お茶はいらない。

[Anne Shirley] 剣は意思を具現化する道具よ。それは、これから戦いにおもむくあなたに必要なものになるでしょう。

[Anri] アンシャーリー、昨日寝る前に読んだ本は指輪物語かなにか?

[Anne Shirley] いいえ、スポックの育児書よ。

[Anri] ……それはまた。

[Anne Shirley] わかってないのね、杏里。占い師のアンシャーリー・バンクロフトは時としてすべてをお見通しなのよ。そう、この事件の犯人は……。

[Narration] 言葉を続けるアンシャーリーの指先が、テーブルを囲む面々をさして泳ぐ。

[Anne Shirley] あなたよ、アルマ・ハミルトン!

[Anri] ……!

[Unknown] あの……。

[Narration] アンシャーリーの指さされた人物が、不安げに声をあげる。

[Soyeon] あたし、アルマさんじゃないんですけど……。

[Anne Shirley] あら? ……あなた、誰?

[Soyeon] 同じクラスのファン・ソヨンです!

[Anne Shirley] 名前なんて小さな問題よ。そうね、犯人はヘレナでもクローエでもいいけど、この際。

[Helena] そんな決め方がありますか!

[Chloe] 迷惑だわ!

[Narration] 名指しされた二人は同時に、言葉と一緒にテーブルを叩く。

[Anri] ああ、アンシャーリー、ごく普通にお茶を楽しむ気はないかな? そのための用意ならこうして万全なんだけど。犯人当ては週末のかなえさんにまかせておこうよ。

[Anne Shirley] そのつもりよ。そのためにここに呼ばれたんだから。

[Anri] ……だれに?

[Anne Shirley] 誰だったかしらね。

[Narration] すまして答えると、アンシャーリーは自分のお茶をすする。そんな彼女を見て、杏里は息をついて肩をすくめた。

[Eliza] 杏里様、お茶のおかわりはいかがですか?

[Anri] ……ありがとう、いただくよ、イライザ。

[Narration] それから十分すぎるほどの時間を、少女達はお茶と談笑に費やした。

[Narration] 店を出していたイライザ達メイドが、仕事が繁忙する夕方にあわせて片づけを始めたのを機に、そのお茶会はようやく散会となった。

[Anri] あー、面白かった!

[Narration] 杏里は大きく背伸びをしながら、そう言う。隣を歩くアイーシャが微かに笑う。

[Anri] 楽しかった?

[Aisha] ええ……。こんな大勢でのお茶の時間って、……久しぶりで……。あの、いつも、みなさんでああいう風にお茶を……?

[Anri] いつも……、うーん、今日みたいに大人数になっちゃうったのはたまたまだけど、お茶を飲むのは好きだよ。

[Aisha] そうなんですか……。

[Anri] もちろんね。

[Narration] やや、うつむき気味のアイーシャの顔を杏里はのぞき込む。

[Anri] 誰かと一緒だから楽しいんだ。それが好きな子だったら、それはもう至福の時間さ。

[Aisha] え……?

[Anri] ボクは今日、とても楽しかったよ、アイーシャ。大好きなキミといられたんだからね。

[Aisha] え……。

[Aisha] あの、それは……。

[Soyeon] 杏里せんぱーい! アイーシャせんぱーい!

[Anri] やあ、ソヨン。

[Narration] 遠く、広場の端から駆け寄ってきたソヨンに杏里は声をかける。

[Anri] あれ? どうしてたんだい?

[Narration] お茶会は終了と同時に解散となった。それぞれが、自室に戻ったり、購買部通りに買い物に向かったりとバラバラに広場を後にしたばずだった。

[Soyeon] 片づけの手伝いをしてたら、少し時間がかかってしまったんです。

[Anri] へぇ、そうだったんだ、えらいな。

[Aisha] あ、私、そのまま出てしまって……。

[Soyeon] あ、いえ! あたしが勝手にお手伝いしてきちゃったんです。

[Soyeon] 杏里先輩! 今日はとっても楽しかったです! また、よろしかったらご一緒させてくださいね!

[Anri] ああ、キミなら大歓迎だよ、ソヨン。

[Soyeon] はい、ありがとうございます! それじゃ、失礼しますね、杏里先輩、アイーシャ先輩!

[Anri] うん、じゃあね!

[Aisha] あ、さよなら……。

[Narration] ソヨンは勢いよく頭をさげると、元気に駆け去っていく。

[Anri] あはは、元気な子だな。

[Aisha] ええ。……うらやましいな……。

[Anri] さてと、ボクもそろそろ部屋に戻らなくちゃ。これでも謹慎中だからね。可能な限り、コソコソと。

[Narration] まったく悪びれずに杏里はそう言う。

[Anri] さて、アイーシャ。今度の約束は日曜日、素敵な一日にしようね。

[Aisha] あ、は、はい……。

[Anri] うん。じゃあね、アイーシャ。今夜はキミの夢を見るよ。約束する!

[Aisha] あ、さ、さよなら……。

[Narration] 半ば小走りに去っていく杏里。それを見送ったアイーシャは、しばらく呆然とした面もちで、杏里の去った方向を見つめていた。

sapphism_no_gensou/3082.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)