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sapphism_no_gensou:3062

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[Helena] それで? 杏里、何を聞きたいんですって?あなたの捜査に関係あること?

[Anri] おや、ヘレナ、ボクがこの難事件への解決に乗り出したことを知ってるんだね。

[Helena] 解決するのは天京院さんですってね。あなたはその助手なんでしょう? ランカスターさんから聞いたわ。それから、クローエからも。

[Anri] ……それじゃ、騙しようがなさそうだな。

[Helena] バカなこと考えてないで、早く用件をおっしゃい!

[Anri] はーい。

[Anri] まあ、つまりね、ヘレナにも謎解きにつきあってほしくって。

[Helena] 謎解きですって? 手がかり集めではなくて?

[Nicolle] そうなんだ、このバカ、なんだか知らないけど、犯人捜しそっちのけ、全然別のことばっか調べてるんだ。

[Nicolle] 出だしに居合わせたおかげで、あたしなんか、杏里に会うたびにこうして付き合わされちまう。ああもう! そろそろやってらんなくなるぞ!

[Helena] ……話がよくわからないんだけど……、杏里、あなたまさか、捜査に関係なく遊び歩いてるんじゃないでしょうね!?

[Helena] 謹慎中であるのに、出歩いているのを大目に見てるのよ? 少しは真面目に……。

[Anri] やってる、やってるってば!

[Narration] 詰めよらんとするヘレナを、杏里は声をあげながら両手で制止する。

[Anri] これもボクの使命の一つだよ! かなえさんが目星をつけた被害者候補の中から、一人を選んで彼女の身をまもる!

[Anri] そのために必要な情報を集めるのも、立派な捜査活動じゃないかな?

[Helena] それは……、まあ、そうね、確かに。

[Anri] そうだろう! それで、ヘレナに聞きたいことができたんだってば!

[Helena] そういうわけなら、最初からそうおっしゃい! 私にわかることだったら、ちゃんと教えてあげるんだから。

[Anri] ありがたい。だから好きだよ、ヘレナ。でね、聞きたかったのはアイーシャ・スカーレット・ヤンって子のことなんだ。

[Helena] ……ヤンさん? 確か、サードクラスの?その方がどうしたの?

[Anri] いや、その子をまもろうって決めたんだけどね。

[Helena] ……ええ!?

[Narration] 言葉の意味の理解に時間を要したヘレナは、声をあげるのにわずかに時間をあけた。

[Helena] 杏里がサードクラスの方を!? どうしたの、杏里! 改宗でもしたの?

[Nicolle] どっかで見た反応を……。

[Anri] そういう質問はもういいってば。ヘレナも彼女のことを知ってるの?

[Helena] え、ええ。そうね、だいたいの学生の名前は憶えてるはずだけど。あ、それに……、確かヤンさんは……。

[Narration] 語尾を小さくしながら、ヘレナは立てた人差し指を顎の先に当てる。

[Anri] ん? どうしたの?

[Helena] あ、いえ、何でもないわ。それで、ヤンさんがどうしたのかしら?

[Anri] あ、うん。だからね、彼女をまもるためには、彼女自身のことをよく知らなきゃと思ったんだ。少しでも彼女の危険を取り除かなければならないからね。

[Nicolle] よく言ったもんだ。

[Anri] お静かに、ニコル。それで、あちこちでちょっと調べてみたんだけど、彼女について疑問が浮かんできたんだ。

[Helena] ……何かしら?

[Anri] ボクには、彼女がサードクラスである確信が今ひとつ、持てないでいるんだ。

[Helena] ……あ、あら、そうかしら? ええ、でも、彼女は確かにサードクラスだけど。

[Anri] 本当に?

[Helena] え、ええ。

[Anri] ………………。

[Helena] ………………。

[Narration] 杏里はヘレナを見つめる。その、自分の内側をのぞき込んでくるかのような視線に、ヘレナはわずかにたじろぐ。

[Anri] ……ヘレナ。

[Helena] な、なにかしら、杏里。

[Anri] なにか、思い当たることがあるんだね?

[Helena] な、何もないけれど。あ、私、そろそろ授業にいかなくちゃ……。

[Narration] 身をひるがえしたヘレナの向く先に、いつの間にかニコルが立っている。

[Nicolle] やれやれ、丸わかりだよ、ヘレナ。賭事には向かないねぇ。

[Anri] ねぇ、ヘレナ、ボクらのあいだで、隠し事はなしにしようよ。

[Helena] わ、私は別に隠し事なんて……。

[Anri] してない?

[Helena] ……してません。

[Anri] 神に誓って?

[Helena] ……う。

[Narration] 杏里とニコル、二対の視線を向けられながら、ヘレナは押し黙る。そう時間をかけずに、その抵抗は終わった。

[Helena] ……これよ。

[Narration] 観念したように、ヘレナはファイルの中から、一束の書類を取り出す。

[Anri] なにこれ?

[Helena] 就学規約よ。その中の特例進級制度というのがあるの。

[Narration] 杏里とニコルは顔を寄せ合って書面をのぞき込む。

[Helena] 入学後、学業において優秀な成績を残し、より上級の課程を履修しえると判断された者には、所属する課程の期間を短縮して、上級に進級することを認める。

[Anri] ……どうして、こういう文章って無闇に難しいんだろうね。

[Nicolle] さては杏里、意味がわかってないな?

[Helena] つまり、ヤンさんはここに入学した直後に、この制度で一気にサードクラスまで進級したのよ。

[Anri] ……なんだって?

[Helena] 珍しいケースだったから、名前まで憶えてたのよ。その、すぐには思い出せなかったけど。

[Nicolle] 考えてみりゃ、そんな制度、普通使わないよな。たいていのやつやその親にとっちゃ、ここっているだけでいいとこだもんな。わざわざ急いで出ていく必要ないもの。

[Anri] ………………。

[Nicolle] ま、これであたしの記憶が間違ってたわけじゃないことが証明されたわけだ! 彼女、確かに最初は一緒にファーストクラスにいたわけだな。

[Helena] そういうことね。

[Anri] ………………。

[Nicolle] しかし、こんな制度があったなんて、ちっとも知らなかったな。

[Helena] 入学手続きの書類の中にあったはずよ。目を通してないの?

[Nicolle] その入学手続き自体、見たことない。ほとんどのやつがそんなもん、自分でするもんか。

[Anri] ………………。

[Helena] なんてこと! 自分の入る学園を決めるのよ。人生における重大な決定の一つだわ。そんなおざなりに……。

[Nicolle] そんなふうに考えるのなんて、ヘレナだけだよ。なぁ、杏里? ……杏里?

[Narration] 問いかけても返事のない杏里を、ヘレナとニコルが同時に見やる。杏里は就学規約の書類に目を落としたまま、微動だにしていなかった。

[Helena] 杏里……? どうしたの?

[Anri] ………………。

[Nicolle] どうしたのさ、杏里。

[Anri] ………………。

[Anri] ワオ! ト・レ・ビ・ア〜〜〜〜〜ン!!

[Narration] 叫ぶと同時に、杏里は書類を宙に投げあげ、クルクルとその場でステップを踏む。両手を広げて踊る杏里の目の前に、アイーシャの姿が浮かび上がる。

[Aisha] 杏里……私、本当はあなたより年下だったのよ。

[Aisha] ごめんなさい、騙していて。でも、杏里ったらずっと気がついてくれないんだもの。ひどいわ。

[Aisha] でも、いいわ。ねえ、これからはいつでも私のところに来て。私、杏里のことを待ってるから。

[Aisha] いいの。杏里にだったら、私の身も心も捧げちゃう。好きにして。一緒にごはん食べて、一緒にお風呂に入って、一緒に寝ましょうね?

[Aisha] 大好きな……杏里。

[Anri] いやぁ、さすがのボクも照れるな。

[Nicolle] 妄想にしたって、ずいぶん勝手なもんだな。

[Helena] はしたない真似はやめなさい!

[Anri] おっと二人とも、人の空想を覗くなんて野暮ってものだよ。

[Nicolle] 無理言うなって。口に出してたじゃないか。

[Helena] よだれをふきなさい、みっともない!

[Anri] おっと、ボクとしたことが、ほとばしる熱情を抑えきれなかったようだ。

[Helena] 抑えきれなかったのはよだれです!

[Anri] ボクの舌が熱情を生み出すってことは、二人ならわかるだろ?

[Nicolle] なるほど、うまい!

[Helena] な、何を言ってるのよ!

[Anri] ともあれ、そうと知ったらこうしちゃいられない。二人ともとても素晴らしい情報をありがとう!

[Helena] ……どこへ行くつもり?

[Anri] 決まってるじゃないか、彼女の元へさ! ボクは今、使命に目覚めた! このクエストを成し遂げるために、彼女のもとへとはせ参じるのさ!

[Anri] ああ、なんて素敵なシチュエーションなんだ! 鬱蒼と繁るイバラの森の奥深く! 自らに迫る危機を知らずに眠るプリンセス!

[Anri] 今行くよ、アイーシャ! ナイトたるこのボクが!

[Narration] そう言い切ると、杏里はそれこそ羽根がはえたように、二人の前から走り去った。

[Narration] …………

[Nicolle] ……やっぱさぁ、教えたのまずかったんじゃない? どう見てもあれは、使命を果たすナイトじゃなくて子羊を見つけた狼だよ。

[Helena] ……言わないでちょうだい……。

sapphism_no_gensou/3062.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)