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sapphism_no_gensou:3031

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[Anri] (運命だ!)

[Anri] (天恵だ! これぞ配剤というものだ!)

[Narration] 人気のない右腕通路の真ん中で軽やかに踊る杏里の少し先に、銀髪の少女の姿がある。

[Anri] (この前はHはできたんだけど、いつの間にかうっかり、話を聞き損ねちゃってたからな)

[Anri] (ああ、愛しいヘレナ。今日こそは君の持つとっておきの情報を聞き出してあげるからね。それはもう、いろいろと)

[Narration] 満面に笑みを浮かべてなお、踊るようなステップを踏んで、杏里はヘレナの背後へと近づいていった。

[Anri] (ああ、愛しいヘレナ。この間はボクとしたことがつい、君への愛にブレーキをかけてしまったよ)

[Anri] (おかげでキミはご機嫌斜め。ボクは叱られてなんの情報を得られなかったという悲しいすれちがい……)

[Anri] (同じ過ちは繰り返さないよ、ヘレナ。今日こそは、キミの話をちゃんと聞かせてもらうよ)

[Anri] (その素敵な身体に、ね!)

[Narration] 杏里はなおステップを踏みながら、ヘレナの背後へと近づいていった。

[Anri] ヘレナ!

[Narration] 声と同時に背後からまわされてくる杏里の腕。ヘレナは、長年の経験によって培われた動きによって、見事にそれにつかまった。

[Helena] あ、杏里!

[Narration] 油断も隙も関係なく、その豊かな胸へと伸びようとする手の甲を、ヘレナは思い切りつねりあげる。

[Anri] あいたぁ!

[Narration] 緩んだ腕の間からすかさず抜けだし、ヘレナは杏里と向き合う。

[Helena] こんな往来でいきなり抱きついてくるんじゃありません!

[Anri] ひどいや、ヘレナ。これはヘレナへの愛情をそのままあらわした挨拶みたいなものなのに。

[Helena] そんな挨拶、私の国では聞いたことありません!

[Anri] 恋人同士は、不意の出会いをこうやって楽しむものだよ。

[Helena] 誰が恋人同士なのよ!

[Narration] ヘレナが声を張り上げる。それを見た杏里が、自分の口元で人差し指を立てる。

[Anri] しー、ヘレナ、往来では静かに。はしたないよ。

[Helena] え、あ、あ、私としたら……。

[Anri] なんてね! 心配いらないよ、ヘレナ。ここにはボクとキミの二人だけさ!

[Helena] ……もう、杏里!ふざけたことばかり言わないで!

[Narration] 再び声を張り上げるヘレナに、またも杏里は同じ仕草を繰り返す。ヘレナは顔を赤くしたまま口を閉ざし、一度、咳払いをする。

[Helena] ……コホン、ほんとにふざけてる場合じゃないでしょう、杏里。ちゃんと犯人捜しの方は進んでいるんでしょうね?

[Anri] 頑張ってるよ! でも、世界はボクが思ってるよりも難しくできてるみたいだ。

[Helena] 当たり前だわ。

[Anri] それでさ、ヘレナが知ってるって情報を教えてよ! ほら、この前、聞き損ねちゃったからさ!

[Helena] ……………………。

[Narration] どうやらこの前という単語に反応したのか、ヘレナが厳しい目つきで杏里をにらむ。

[Anri] ……あ、だ、ダメ?

[Helena] ……杏里、あなたね。

[Narration] 息を一つついてから、ヘレナは言葉を続ける。

[Helena] 私も、杏里の力になってあげたいのはほんとよ。でもね、いくら親しい友人でも礼儀は必要だわ。

[Helena] 杏里、あなたの今の態度は、親しい友人に助力を請うものとしても不適切だと思うのだけど。

[Anri] え、あ、えーと。

[Narration] ヘレナの静かな指摘に、杏里は一瞬、口ごもる。

[Anri] わかったよ、では。

[Anri] ああ、親愛なるヘレナ、ヘレナ・ブルリューカ。女神のごとき慈愛を携えし、我がかけがえなき人よ。

[Anri] 我、汝の憐れみを請う。どうか、わが急難をその叡知をもって救いたまえ!

[Helena] もういい、もういいわ!

[Narration] 朗々とした声で歌いだした杏里を、ヘレナは慌てて止める。

[Helena] 私が悪かったわよ! もう、ちょっともったいぶろうとしただけよ。

[Anri] なあんだ。

[Helena] この子は……。はぁ……、もういいわ。

[Narration] ため息と同時に、頭を左右に振る。それを見る杏里の表情は、好奇心と期待に満ちたものに変わる。

[Anri] それでさ、ヘレナ、その、情報のことだけど。

[Helena] はいはい……。と言っても……。

[Narration] ヘレナはわずかに眉をよせる。

[Helena] 前にも言ったけど、ほんとに話せないこともあるのよ。女性にとっては、誰にも知られたくないことでもあるんだし……。

[Anri] えー、そこをなんとか。ボクは秘密は守るし、二度と犯人にそんなことをさせないためでもあるんだから。

[Helena] 杏里の意気込みはわかるわよ。でもね……。

[Helena] ごめんなさい。何か、他にわかったことがあったら、杏里に必ず伝えるわ。

[Anri] えー!

[Helena] そんな声をあげないで。

[Anri] う〜〜……。

[Helena] そんな目で見てもダメです!

[Narration] ヘレナの言葉に、杏里はガクリと首を折り、うなだれる。ヘレナが言葉をかけあぐねているしばらくの時間の後、杏里は頭をあげた。

[Anri] ……わかった。

[Narration] 杏里の言葉に、ヘレナは安堵の息をつく。

[Helena] そ、そう……、よかった。ほんとにごめんなさい、杏里。他にわかったことがあったらあなたに伝えるから……。

[Narration] ヘレナの語尾が消える。その言葉の間に杏里がヘレナとの距離をつめ、なお壁際まで体を追い込んできたために。

[Anri] わかったよ、ヘレナ。

[Narration] 杏里の声はやけに優しく、ヘレナには不吉に響いた。

[Helena] あ、杏里……? あの、いったい何がわかったっていうのかしら……?

[Anri] ボクは、キミの心にかけられた鍵をはずさなくてはならない。

[Narration] 壁に手をつき、自らとの間にヘレナを挟む。そして、そう囁いた。

[Helena] あ、杏里……、あなた、いったい、何を考えてるの?

[Anri] ヘレナ、キミを素直にする方法さ。

[Helena] ……杏里、今すぐ私を放しなさ……、あ、んん!

[Narration] 言葉の途中で、杏里が耳元に息を吹きかけると、ヘレナは身をすくめる。しかし、すぐに杏里に気丈な視線を向ける。

[Helena] 杏里! 悪ふざけはやめなさい!さもないと……、あ、あん!

[Anri] さもないと……?どうなるのかな、ヘレナ……。

[Narration] 杏里の舌がヘレナの耳朶を這う。指先が首筋をなぞる。それだけで、ヘレナの身体は、防戦一方となってしまう。身をすくめ、耐えるだけになってしまう。

[Narration] 杏里の体を押しのけて逃げることなどたやすいはずなのに、それが不可能となる。その場に釘付けにされる、心と、身体。

[Helena] あ、杏里……、や、やめて……、お願い……。

[Anri] や・だ。

[Narration] 杏里の手が、ヘレナの胸元へのび、制服のボタンへとその指がかかる。

[Helena] あ、だめ、やめて……! 杏里、お願い……!話す、話すわ! 話しますから!

[Anri] 話す……? 何を……?

[Narration] 一番上のボタンが外れる。襟が開き、白い喉の付け根があらわになる。

[Helena] あ、いや……! だめ、私の知ってることをみんな話すから、話しますから……! お願い、杏里、やめて! お願いよ……。

[Anri] ……どうしよっかな……。

sapphism_no_gensou/3031.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)