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sapphism_no_gensou:2723

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[Narration] 中を覗きこんだとたん乱暴に背中を押されたアルマは、よろめくように電算室の中へ入り込んだ。

[Alma] な、何をするんですか、ウェルズさん!?

[Narration] 振り向いたアルマは、すでに見慣れたはずの目付け役が、これまで見たことのない表情を浮かべていることに戦慄した。

[Alma] ウェルズさん……貴女……?

[Wells] ふん、バレたのか。天京院も天才とか呼ばれてて、たいしたことはないじゃないか!

[Alma] な、何を言っているの?

[Wells] うるさいっ! あの馬鹿のことだ、自分が捕まるとなったら、あたしも道連れにするだろう。

[Wells] そうなる前にトンズラするんだ。グズグズしてるヒマなんか、ないんだよっ!

[Narration] アルマは呆然とした。

[Narration] これが、厳格なことで父の信頼を勝ち得ていたクインシー・ウェルズだろうか?

[Narration] まるで別人のようだ。

[Wells] おや、驚いたのかいアルマ?

[Narration] ひっひっひっ、と笑って、ウェルズが近づく。

[Wells] あんたの前じゃ優等生をやってたからね。なんてストレスがたまったことか!

[Wells] おぉ、おぉ、その鳩が豆鉄砲をくらったような顔──胸がすぅっとするさ!

[Wells] イ───ッヒッヒッヒィ──ッ!!

[Alma] ど……どいうことです?道連れって、いったい?

[Wells] 教えてやるよクソガキ!何を隠そう、ガキどもを脅迫していたのは、このあたしなのさっ!

[Alma] えぇっ──!

[Wells] あたしゃたまたま、あの天京院って女がガキを襲うのを目撃してね!

[Wells] アイツが行っちまったあと、それを写真に撮って脅迫に使ってたのさ!

[Alma] ええぇっ──!

[Wells] けどこの前、アイツに見つかっちまってね、カメラを取り上げられちまった。

[Wells] だから、そろそろ潮時だとは思ってたのさ!

[Wells] 船が陸に接近してる今夜のうちに、逃げちまおうってさ!

[Alma] な……なんてことを……。

[Wells] さて、知られた以上はただじゃおかないよ……。

[Narration] 勝手にベラベラしゃべったあげく、ウェルズは狂気の眼でアルマを睨み付けた。

[Wells] ……なんたって、アンタの親父にゃ恨みがあるからね。娘としちゃ、親のした事に責任も感じるだろう!?

[Narration] 父親、と聞いてアルマの心臓が跳ねた。

[Narration] すでにアルマは、自分の父親が世間では悪党、金の亡者などと呼ばれている事を知っている。

[Narration] そうして多くの人間を不幸にし、恨みをかっていることも知っている。

[Narration] なら、このウェルズは──。

[Wells] いいかい、よーくお聞き。

[Alma] は、はい……。

[Wells] あたしはね、あんたの父親が持ってる馬に金を賭けて、有り金を無くしちまったのさ!

[Alma] ………………。

[Alma] ……え?

[Alma] すいません、よくわからなかったんですけれど……。

[Wells] ギャ────ッ!!!なんて頭の悪いガキだっ!

[Wells] だから、あたしが有り金スッた馬の持ち主を調べたら、あんたの親父だったんだよっ!

[Alma] ……それは、父の責任なのですか?

[Wells] そんなことぁ、どうでもいいんだよっ!問題は誰があたしに金を返してくれるかだろうがっ!!!

[Narration] とことん理不尽なことを絶叫し、ウェルズは髪を振り乱した。

[Wells] いいから、とっとと脱ぎな!

[Alma] ……え?

[Narration] また理解不能なことを言われ、アルマは混乱する。

[Narration] ウェルズは偏執的に狂笑した。

[Wells] あんたの写真を撮って、あんたの親父を脅迫するんだよ。娘の恥ずかしい写真をばら撒かれたくなければ──ってな!

[Alma] な……なんということを!

[Wells] いーだろっ! どーせあの杏里とかいうガキの前じゃ平気で股を広げてんだろうがよっ!

[Wells] とっととここで同じ事をしろって言ってんのさ、あたしはっ!

[Alma] お断りします!

[Wells] ……へ?

[Alma] 傷ついた少女をさらに追い詰める、悪魔のごとき所行、恥を知りなさい!

[Alma] そのような脅迫で、わたしに言うことを聞かせられると思わないで!

[Alma] 天京院様の告発を待つまでもありません。

[Alma] わたしが、貴女を告発します!

[Wells] な……な……な……!?

[Narration] ウェルズは予想外の展開に、言葉が出なくなっていた。

[Alma] わたしは、辱めや脅迫に屈するつもりはありません!

[Wells] な……なにぃっ!?

[Narration] 蝶よ花よと育てられ、苦労も知らない箱入りのお嬢様。アルマをそうとしか思っていなかったウェルズは、彼女の毅然とした物腰に完全に面食らった。

[Wells] あんた……あんたも恥をかくんだよっ!

[Alma] そうですね……けれど、それはあなたを信じていたわたしが負うべき、責任でしょう。

[Narration] 杏里と天京院の姿が脳裏をかすめたが、アルマはそれさえ振り払った。

[Alma] 悪事に対しては、責任を取らなければいけないんです!

[Alma] わたしは、確かに何も知らない……でも、あなたのしたことが悪いことだというのはわかります!

[Alma] 法が定めているからとか、そういうことではありません。あなたのしたことで、泣いている人がいるから。

[Alma] だから、わたしはそれが悪いことだと断言することができます!

[Narration] いつものとぼけた雰囲気さえ吹き散らし、火のようにアルマは言い切った。

[Narration] それは、自分が裏切られたショックなどではない。ウェルズの被害にあった、ソヨンを始めとする女の子たち、

[Narration] そして、あるいは天京院さえ苦しめたことに対する怒りだった。

[Wells] な……なまいきなっ!何の苦労も知らないガキのくせにっ!

[Narration] 予想外の迫力にウェルズは完全に押されていた。先ほどまでの狂ったような情炎も、アルマに吹き消されてしまったかのようだ。

[Alma] 確かに何も知らない子供だったけれど、いまは違う。少なくとも、変わりたいと思っています。

[Narration] それを証明するように、更に勢いにのったアルマにウェルズはたじろいだ。

[Alma] ウェルズさん……いえ、クインシー・ウェルズ!

[Alma] わたしは、貴女を許しません!

[Narration] もはや攻守は逆転した。ウェルズは蒼白になって自分の主人であった少女を見た。

[Narration] もとよりウェルズの方とて、腕っぷしに自信などあるわけもない。アルマならちょっと脅せば言うことをきくだろうという、甘い考えがあったのだ。

[Narration] しかしこうなれば、本当に力ずくで屈服させるしかない。

[Narration] 調子に乗って、いらんことまでペラペラと喋ってしまった。このままでは、ウェルズは身の破滅どころの騒ぎではない。

[Wells] クソガキ……地獄で後悔しなっ!

[Alma] ──はっ!?

[Narration] スカートの下からアルマの胴回りほどもありそうな棍棒を引き出し、ウェルズは大きく振りかぶった。

[Alma] な、なぜそのようなものを──!?

[Wells] 備えあれば憂い無しじゃ!往生せいやーーーっ!!

[Alma] ──きゃあっ!

[Narration] いかに勇気を振り絞ろうと、こんな物で殴られてはたまらない。というより、ヘタすれば死ぬだろう。

[Narration] アルマは反射的に身をかがめたが、とても避けられる状況ではなかった。

[Alma] (──杏里様っ──!)

[Anri] アルマーっ!

[Narration] 鈍い音に続きどさっ、という音がして、ウェルズは倒れた。

[Anri] 大丈夫かい、アルマ!?

[Narration] おそるおそる目をあけたアルマは、つい先ほどの声が幻聴でないことを確かめ、飛びつくように立ち上がった。

[Alma] 杏里様! よかった、無事でしたのね。

[Anri] うん……ちゃんと、かなえさんと話し合ったよ。

[Anri] アルマのおかげだ。

[Alma] いえ……そんな、わたしなんて。

[Narration] 否定の言葉を口にしながらも、杏里の元気になった様子を見て、アルマの顔に輝きと誇らしさが浮かんだ。

[Narration] そこへ、すっと影が割り込んだ。

[Tenkyouin] アルマ・ハミルトン……。

[Alma] ……天京院様。

[Narration] 杏里と同じように、天京院の顔も昨日とは違った。

[Narration] 罪悪感からか、どこか疲れた様子は残っているものの、吹っ切れたような雰囲気がある。

[Tenkyouin] あたしは、あんたに……いや、あんただけじゃなくて、たくさんの人に謝らないといけない。

[Narration] 素直に頭を下げる。アルマはびっくりしてその様子を見た。

[Tenkyouin] そしてたぶん、あんたには……礼を言わなければいけないんだろうな。

[Narration] その声は穏やかだった。それが、アルマに微笑む余裕をもたらした。

[Alma] いいえ、天京院様。わたしは、何もできなかった。

[Alma] わたしが何かできたのだとしたら、それはみんな杏里様のおかげですわ。

[Anri] ご謙遜だよ、アルマ。ボクこそ、キミがいなければ何もできなかったさ。

[Narration] 天京院はふたりの姿に眩しそうに目を細めたが、納得したように笑った。

[Tenkyouin] 悔しいことに、手当たり次第というわけでもないんだよな……杏里の言い寄る相手は……。

[Narration] その呟きは、杏里達には聞こえなかった。

[Anri] ねえ、ところでさ。これ、どうしようか?

[Narration] 杏里が床を指さした。

[Narration] そこには、のびたウェルズと棒状のモノが転がっていた。

[Narration] それはつい先ほど杏里の純潔を奪い──更にアルマの危機を救うべく杏里が投げつけたものであったのだが、

[Narration] 救われた当人にはそれが何なのかさっぱり理解できず、ただの棒きれにしか見えなかった。

[Tenkyouin] どうしようか……って……。

[Alma] PSを呼びますか?

[Narration] それが最も妥当ではあったのだが、天京院は首を振った。

[Tenkyouin] いや、あたしが連れていくよ。どうせ、行かなくちゃならないんだ。

[Narration] ハッとしたようにアルマが見る。

[Narration] それが自首を意味することに思い当たったのだ。

[Alma] ですが……そんな、いきなり……。

[Tenkyouin] いきなりも何もないさ……それに、杏里のタイムリミットまでも、もう時間がない。

[Narration] 明日には、杏里は退船処分になる。それを思い出して、アルマも言葉に詰まった。

[Tenkyouin] あたしのことはいいんだ。自業自得なんだから……。

[Narration] むしろ清々しく言う。……が、そこへ杏里が口を出した。

[Anri] ねえ、ちょっと待ってくれない?

[Narration] その表情に、悪いことを思いついたイタズラっ子のような笑いを浮かべて、杏里はふたりに言った。

[Anri] ボク、いいこと考えたんだけどな……!

sapphism_no_gensou/2723.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)