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sapphism_no_gensou:2711

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[Alma] ──おはようございます、杏里様。

[Narration] 土曜日。杏里はまず、アルマと自分の部屋で待ち合わせをした。

[Narration] これまで集めた情報を、天京院の力を借りず、まず自分で分析してみたかったのだ。

[Narration] アルマは、そのお手伝いである。

[Anri] それでは、始めようか……。

[Narration] ──数時間後。

[Narration] 膨大な情報を検証し終えた杏里とアルマは、ティータイムを取りながらまとめにはいっていた。

[Anri] ……もう、認めるしかない。やっぱり、かなえさんは怪しい。

[Alma] そうですね……犯人であるとは断定できませんが、何かわたし達にお隠しになっているのは確かでしょう。

[Anri] なによりまず、このデジタルカメラのメモリースティックだ。

[Anri] アイーシャ・スカーレット・ヤンが襲われた直後を撮影したものが記録されているメモリー。

[Alma] それが、少なくとも天京院様の持ち物の中に紛れ込んでいた。

[Anri] ……これだけでも、疑う理由は十分なほどだ。

[Anri] ……そして。

[Anri] これまた確証をとったわけじゃないけど、かなえさんは以前、学園のメインシステムに侵入したことがあるらしい。

[Alma] 同じように、今回も好きなように情報を引き出した可能性があるわけですね?

[Anri] 考えてみれば、そういう事に強い、最も身近な天才だったんだよな……かなえさんは……。

[Anri] ……そして。

[Anri] イライザの言っていたこと……。

[Alma] 天京院様が、杏里様を好きだという話ですか?

[Anri] これは……なんだか、ボクには信じられないよ。

[Anri] だいいち、今度の事件ではボクだって半分は被害者だ。

[Anri] かなえさんがボクを好きだとしたら、なんでそんなことをする必要がある?

[Alma] ………………。

[Narration] アルマはあえて何も言わなかった。

[Narration] 彼女には──今の、杏里に対する気持ちがあるアルマには、理解できたのだ。

[Narration] もし、そこに理由があるのなら、それは「嫉妬」という感情だろうと。

[Anri] ……そして。

[Anri] 一番わからないのが、これだ。

[Anri] どうして脅迫なんか、する必要があったのか?

[Alma] 天京院様は、別にお金に困っていらっしゃらないんですね。

[Alma] むしろお金が必要なのは、イライザさんと……あら、ウェルズさん?

[Alma] なんでしょう、この船倉賭博というのは?

[Anri] ギャンブルだよ。ウェルズさん、実はそうとうアツクなるタチらしいね。

[Alma] まあ、こんな趣味がおありだったなんて知りませんでしたわ。

[Anri] なんにせよ、かなえさんが脅迫する理由はやはり見当たらない。

[Anri] ……どういうことだろう?

[Narration] そろえた情報の検討を終えた頃には、もう陽が暮れ始めていた。

[Narration] 杏里は決心を固めて、アルマを見た。

[Anri] ……もう、これ以上はボクらがどう考えたところで、何も進まない。

[Alma] ……はい。

[Anri] ──始めよう。

[Narration] ──どこか悲壮な覚悟を決めて、杏里とアルマは天京院を部屋に呼び出した。

[Narration] 何もなかったかのように、天京院は杏里の部屋を訪れた。

[Tenkyouin] ……遅かったね。

[Narration] アルマの姿を見ても、天京院は眉根ひとつ動かさなかった。

[Narration] もとより、それも予想済みであるかのように……。

[Anri] かなえさん……。ボクとアルマは、今度の事件についてあらためて検討してきた。

[Tenkyouin] ……ほう。

[Anri] それを聞いてくれるかな?

[Narration] 杏里はすがるような、挑戦するような視線を天京院に送った。

[Narration] ──が、天京院の方は視線を避けたまま、目をあわせようとしない。

[Narration] 杏里の後ろに、そっと寄り添うようにアルマが立った。

[Tenkyouin] ……聞こう。

[Anri] うん……。

[Anri] まず、この事件は、最初からえらく難しいものだった。

[Anri] ボクはずいぶんPSの無能を嘆いたけど、逆にいえばそれほどまでPSが追い詰められるぐらい、手がかりがなかったんだ。

[Anri] 特にPSは警備が本職で、捜査する組織じゃないからね。

[Anri] 被害者が出るたび警備の裏をかかれるだけで、お手上げになってしまっていた。

[Anri] コンピューターから情報を引き出したともPSの読みを逆手に取ったとも言われているけれど……。

[Anri] ここから推論できるのは、犯人がえらく頭のいい奴だってことさ。

[Narration] 杏里は一気に言って、ここで天京院の方を伺った。

[Narration] 天京院は相変わらずの姿勢のまま、視線をさ迷わせている。

[Tenkyouin] ……続けて。

[Narration] 杏里は何か言いたそうにしたが、首を振って先を続けた。

[Anri] 次は、被害者の共通点だ。

[Anri] 被害者はファーストクラスからサードクラスまで広がっていて、学生であるという以外、共通点はないように見える。

[Anri] ……でもここにも、PSには理解できない共通点があったんだ。

[Anri] 被害者はみんな、ボクより年下で……。

[Anri] はっきり言ってしまえばボク好みの、然るべき出会いがあれば、ボクが好きになってしまいそうな女の子ばかりだった!

[Narration] 杏里はわずかに震えながら、天京院を睨み付けていた。

[Narration] ふっ……と、天京院の口元がほころぶ。

[Tenkyouin] ……なら、こうも言えるね。

[Tenkyouin] その被害者たちは、たとえ襲われなくとも──いずれ、杏里の毒牙にかかる運命の者ばかりだった、と。

[Alma] そんなことはありません!

[Alma] 襲われた方たちのされた事と、杏里様に愛されることは、決して同じではありません!

[Alma] それは違います、天京院様。

[Narration] 天京院はこの剣幕にやや驚いたようだが、やがて深く嘆息した。

[Tenkyouin] ……君がそう言うのか、アルマ・ハミルトン。

[Tenkyouin] ならば……きっとそうなんだろう。少なくとも、犯人は本気ではなかったろうからね……。

[Anri] 犯人が、遊びで女の子を襲っていたということかい……?

[Tenkyouin] そういう意味じゃない……まあいい、続けてくれ。

[Narration] 杏里は釈然としないものを感じながら、促されるままに続けた。

[Anri] ……ここまで話しても、まったく犯人の全体像は見えてこない。

[Anri] まるで容疑者が絞り込めないんだ。なにしろ、動機さえわからないんだから。

[Tenkyouin] 動機……ね。

[Anri] 何をどうしていいのか、ボクにはまるでわからなかった。

[Anri] 退学のタイムリミットが近づいてくるのを、ただ待つことしかできないと……思ったよ。

[Alma] ………………。

[Anri] けど、偶然……本当に偶然に、とんでもない物が手に入った。

[Narration] 杏里の声が震えた。天京院は無言で立っているだけだ。

[Narration] 杏里はプリントアウトされた写真を差し出した。

[Narration] アイーシャの陵辱写真。

[Narration] 天京院はぴくっ、と眉を動かし、また目をそらせてしまった。

[Anri] これは、イライザがかなえさんのクリーニング品の中から発見した、メモリースティックに記録されていたものだ。

[Anri] 説明するまでもないと思う……犯人でなければ、とても写せないような写真なんだ、これは。

[Narration] 天京院と同じく、杏里もまた目をそらせたまま話しつづけた。

[Anri] どうしてこれを持っていたのか……説明してくれ、かなえさん。

[Narration] しん……と、場に静寂が訪れた。

[Narration] 杏里も、アルマも、自分の鼓動音だけが響き渡っているかのような、長い時間が過ぎた。

[Narration] それを破ったのは、天京院だった。

[Tenkyouin] まあ……合格かな。

[Anri] ……え?

[Narration] 天京院は杏里から視線をそらせたまま、表情をひきしめた。

[Tenkyouin] イレギュラーもあったけど、無事にたどりついて良かった。

[Tenkyouin] これで君も、退学はまぬがれるわけだ。

[Anri] かなえさん……?それって、どういう意味さ……。

[Narration] 背後で、アルマも硬直する気配が伝わってくる。

[Tenkyouin] 杏里、ここまできて、わからないふりはやめたまえ……。

[Anri] でも……だって、ボクは……かなえさんから、言い訳を聞こうと思っていただけで……。

[Tenkyouin] 言い訳なんかないよ。

[Narration] 静かに、そして冷たく、天京院は言い放った。

[Tenkyouin] そうだよ、杏里……。あたしが犯人だ。

[Narration] そのひと言が杏里とアルマに浸透するまで、しばらく時間がかかった。

[Narration] ようやく意味を理解したとき──杏里は、どさっ、とソファに座りこんでいた。

[Anri] ……かなえさん、どういうこと……。

[Tenkyouin] わからないふりはやめろ、と言っただろう。

[Tenkyouin] だから──そういうことだ。君は退学をまぬがれたんだよ、杏里。

[Alma] あ……あの……。

[Tenkyouin] 君の相手ができなかったのは残念だよ、アルマ・ハミルトン……。

[Narration] 天京院は酷薄な声で言った。

[Tenkyouin] さぞ、綺麗な声で鳴いたろうに。

[Anri] ──かなえさん!

[Narration] 杏里が顔をあげた時、天京院はすでに部屋から出て行こうとしているところだった。

[Tenkyouin] ………………。

[Anri] 待ってくれ、かなえさん!──なんで!?

[Narration] 返事はなかった。

[Narration] 天京院は、そのまま部屋から歩み去ってしまっていた。

[Narration] ──数時間後。

[Narration] 杏里とアルマは、真剣な顔をして互いを見つめあった。

[Anri] ……アルマ。

[Alma] ……杏里様。

[Anri] どうしよう?

[Alma] なんだか、ぜんぜんわかりませんわ?

[Anri] ああ、どうしよう、これじゃあ……。

[Alma] 退学決定……ですわね。

[Anri] なんてことだ、ここまできて……。

[Alma] 申し訳ありません杏里様、お役にたてなくて……。

[Anri] ああ……。

sapphism_no_gensou/2711.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)