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sapphism_no_gensou:2651

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[Narration] 杏里の落ち込んだ様子に、イライザはすぐ気がついた。

[Narration] ──が、あえてそれを口にはしない。

[Narration] 理由がわからない以上、慰めるにも、ヘタに聞き出そうとすれば逆効果にもなりかねない。

[Narration] ひとまずここは、気がつかないふりをしておこう……と心に決める。

[Narration] ──それに。

[Narration] 正直、ここまでショックを受けている杏里を見るのは初めてで、イライザにもどうしていいかわからなかったのだ。

[Eliza] ……ご注文は?

[Anri] うん……。

[Narration] 腕を組んで難しい顔をしたまま、杏里はイライザを見た。

[Anri] キミから預かったものがあるよね?

[Eliza] はい……天京院様のものですね?

[Anri] あれ……本当に、かなえさんの?

[Eliza] ええ……間違いございません。何かございましたか?

[Anri] いや……。

[Narration] あいまいな答えをして、また考え込む。

[Anri] ねえ、イライザ。

[Eliza] ──はい。

[Anri] ちょっと、これだけだと雲をつかむような話なんだけど……。

[Anri] 尋ねていいかな?

[Eliza] ……まさしく、なんとも答えに困る質問ですけれど……。

[Eliza] 私にお答えできるものでしたら。

[Anri] うん……。

[Narration] 珍しく、歯切れの悪い調子で、杏里が口を開いた。

[Anri] かなえさんがね。

[Eliza] ……はい。

[Anri] なんか、おかしいんだ。……どう思う?

[Narration] イライザはしばらく真面目に考え込んだ。

[Eliza] おかしい……というのは、あの、社会的に不健全だとか、そういう意味でしょうか?

[Anri] あ、いや──。最近、妙なんだよ。何か原因を知らないかな?

[Eliza] 天京院様が、ですか……。

[Narration] イライザは悩んでいるようだった。

[Narration] それを見て取って、杏里が意気込む。

[Anri] なにか心当たりがあるのかい?だったら、ぜひ教えてくれ。

[Eliza] ……心当たりというか……。

[Anri] いうか?

[Eliza] ……杏里様、私は心から杏里様にお仕えしております。

[Narration] イライザはいきなり話題をかえた。

[Anri] ──なんだい、いきなり?

[Eliza] ですから、これも……本来なら私が口出しすべき事ではないと知りながら、あえて申し上げます。

[Narration] えらくあらたまった調子に、杏里は怪訝な顔をした。

[Eliza] 杏里様、天京院様は、おそらく杏里様のことを……。

[Narration] イライザは静かに告げた。

[Narration] 天京院は、杏里のことを、友人としてではなく……愛していると。

[Eliza] ……いえ、これは、ただの私の勘です。

[Eliza] でも、おそらく間違いはないと思います。

[Narration] それは、杏里との関係さえ自ら客観視してきた、イライザだからこそ見えた想いだった。

[Eliza] 杏里様、杏里様のような方は誰かを救うのと同じぐらい、誰かを苦しめずにはおかないのだと思います。

[Eliza] どうか、それを忘れないでください。

[Narration] そこまで一気にしゃべって、イライザは深々と頭を下げた。

[Narration] そして、その場から立ち去る。

[Narration] あとには、呆然とする杏里だけが取り残された。

[Anri] かなえさんが……。え?

sapphism_no_gensou/2651.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)