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sapphism_no_gensou:2591

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[Narration] 教員室など、本来なら杏里が好んで訪れる所ではない。

[Narration] しかも頭の固い──あるいは職務に忠実な──教師や職員に見つかって、通報される危険もある。

[Narration] だからといって、敬遠してばかりいられないのが、現在の杏里の状況だった。

[Rachel] ──学生データの閲覧、ですって?

[Narration] 杏里の頼みを聞いたレイチェルは、明らかに困った表情を浮かべていた。

[Anri] ダメですか?

[Rachel] いいわよ──と、答えられるはずもないでしょう?

[Rachel] あれは個人情報の固まりよ。教師だって、許可なく全ファイルの閲覧はできないんだから。

[Narration] 入学の判断材料となる学生ファイルには、本人のみならず親類の情報も含まれる。

[Narration] そこには寄付金の額から、学園長に贈られた賄賂の額まで記されているという噂だが、真実は定かではない。

[Anri] 学業成績と技術検定の情報だけでいいんですけど。

[Rachel] だから、そういう問題じゃないの……。ねえ、これも、あの事件を調べるためなのかしら?

[Anri] もちろんですよ……なにしろ、期限切れまで1週間もないんですから。

[Rachel] そうね……。でも、やっぱりデータを見せるわけにはいかないわ。

[Narration] レイチェルは断固として言った。

[Anri] ダメですか、やっぱり……。

[Narration] 杏里の方も、実はそれほど期待していたわけではないので、嘆息しつつ諦める。

[Narration] いまの杏里の立場からすれば、たとえ担任とはいえ、話を聞いてくれただけでも温情措置といえるだろう。

[Anri] すいません、レイチェル先生。無理を言って……。

[Rachel] いえ……。

[Narration] ふと、レイチェルは周囲に人影がないのを確かめると、杏里の耳元に囁いた。

[Rachel] けどね……以前、学生データを管理コンピューターの中からごっそり持ち出した学生がいるでしょう?

[Anri] ──えっ!?

[Rachel] ……知らないの、1年ぐらい前よ?

[Anri] いえ、まったく。

[Rachel] あの時も箝口令はしかれたけど、結局噂は面白おかしく広まって、ずいぶん騒ぎになったんだけど……。

[Anri] おそらく自分には関係ない情報として、脳裏からしめだしていたんですね。

[Narration] 身も蓋もない自己分析をする。

[Narration] レイチェルは情けなさそうにため息をついた。

[Rachel] あの時も、PSは犯人を見つけられなかったんだけど……。

[Rachel] 学生たちの間では、誰が犯人か公然の秘密だったという噂が流れていたわ。

[Anri] ──なるほど、その人物を見つけだしてまた盗み出してもらえば……!

[Rachel] こら、先生は悪いことをそそのかすつもりはないんですからね。

[Rachel] いまのは、あくまで杏里さんのために手がかりを……というつもりで教えてあげたのよ。

[Anri] なるほど──メルシー、レイチェル先生!

[Narration] 杏里は礼を言って、すぐさま踵を返した。

[Narration] あら、と更に何か言おうとしていたレイチェルは、背中を見送ってつぶやく。

[Rachel] 本当に……元気というか、浅慮というか……はぁ。

sapphism_no_gensou/2591.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)