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sapphism_no_gensou:2581

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[Narration] いつもなら騒ぎ立てる杏里が静かにしているせいで、アルマの部屋は不自然なほど静かだった。

[Narration] もともと、アルマひとりで居る時は、この部屋は静かなものだ。

[Narration] しかし、杏里が訪ねてきた時だけは、にぎやかな喧騒につつまれていた。

[Narration] 杏里がいることと、その喧騒は、アルマの中で同じものだったのだ。

[Narration] なのにいまは、その杏里と向かい合っていながら、会話さえほとんどない。

[Alma] 杏里様……。

[Narration] 杏里はアルマの部屋を訪ね、やはり天京院が会ってくれなかったことを告げた後、ずっとこうだった。

[Narration] 何か考えているような、落ち込んでいるような、悲しんでいるような、とても一言ではあらわせない様子。

[Narration] 常に強く明るい──と杏里のことを評していたアルマにとっても、それは衝撃であった。

[Alma] 杏里様、まだわからないじゃありませんか……。

[Alma] 何かの間違いかもしれませんよ?

[Anri] ……けど、かなえさんは会ってくれない。

[Narration] ようやく返ってきた返事に、アルマはホッとした。

[Alma] わたし達にはわからない事情があるのかもしれませんし……。

[Alma] だいたい、写真が見つかっただけで、天京院様が犯人だという証拠があるわけじゃないのだし……。

[Anri] 証拠か……。

[Narration] 杏里は自嘲気味につぶやいた。

[Anri] なんだかこわいんだ。

[Anri] これ以上、捜査を続けると……かなえさんが犯人だって、決定的な証拠を見つけてしまいそうで。

[Alma] そんなこと……。

[Narration] しかし、アルマにも杏里を励ます言葉が見つからない。

[Narration] あの写真を持っていたからといって、天京院が犯人だとは断言できない。

[Narration] しかし、本人がそれを否定せず、閉じこもってしまっているのだ。

[Anri] ……すまないね、アルマ。わざわざ遊びに来て、こんな暗い顔を見せちゃってさ。

[Alma] いえ……わたしは別に平気です。

[Alma] (でも、杏里様は……?)

[Anri] ……そろそろ行くよ。

[Narration] 無理やりではあったが、ようやく笑顔を見せた杏里が立ちあがった。

[Alma] でも……。

[Anri] いや、かなえさんは土曜日に会おうと言ってるんだ。

[Anri] なら……それまで、捜査はしっかり続けないとね。

[Alma] そうですわ。

[Anri] よし、落ち込んでいる場合じゃない。行くぞ!

[Narration] 杏里はいつもの調子を取り戻したかのように歩き出したが、どこか無理している雰囲気は残っていた。

[Narration] それでも、去り際にアルマを振りかえる。

[Anri] アルマの顔を見ていたら、少し元気が出たよ。

[Anri] メルシー、アルマ。

[Alma] 杏里様……。

[Narration] アルマはその背を見ながら、じっと何かを考えていた……。

sapphism_no_gensou/2581.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)