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sapphism_no_gensou:2571

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[Narration] 基本的に「自室でお風呂」派の杏里ではあるが、たまにサウナを利用することもある。

[Narration] 健康のためとかそういった理由ではない。裸のスキンシップができる場所だからだ。

[Narration] 捜査、捜査で疲れているのは確かだが、どちらかというとアルマとの中途半端に終わった逢瀬の続きがしたくて、杏里は彼女を誘った。

[Narration] 別に疑うでもなくアルマも了解して、杏里はひと足先に、ここへ来ているわけだ。

[Narration] 小さめの個室をひとつ予約して、すぐにのぼせないよう、温度もやや低く設定してもらう。

[Narration] 準備は完璧だ。

[Narration] ──が。

[Anri] なぜイライザが?

[Eliza] なぜ、と申されましても……。

[Narration] 困ったようにイライザが答える。

[Eliza] 今日はこちらの当番なので。

[Anri] ううん、そうかぁ……。

[Narration] 杏里は難しい顔をした。

[Narration] 別に、アルマとイライザの鉢合わせに動揺しているわけではない。

[Narration] たとえるなら、御馳走のためにお腹を空かせておこうと思ったのに、好物の前菜が出てきてしまった──というところだろうか。

[Narration] そんなことを悪気なく考えてしまうのも、杏里の杏里らしい部分ではあった。

[Eliza] ……ひょっとして、誰か他の方と待ち合わせですか?

[Anri] うん、アルマと。

[Narration] 悪びれない返答に、イライザは聞こえないよう小さくため息をついた。

[Eliza] 杏里様のデートをお邪魔する気はありませんわ。

[Eliza] しばらく、ご用を聞きに参るのも遠慮しておきますね。

[Anri] いや、何もそこまで気を使ってくれなくていいよ。

[Anri] ボクとイライザの仲じゃないか。

[Eliza] (──この人は、ご自分が誰か他の人と愛し合う姿を私が見て、嫉妬するとか思わないんだろうか?)

[Eliza] (いえ……きっと、思わないのね)

[Anri] どうかした?

[Eliza] いいえ。それでは、後でご用を聞きに参ります。

[Anri] ありがとう、イライザ。

[Narration] アルマは、ほとんどイライザと入れ違いに入ってきた。

[Alma] お待たせしましたか?

[Anri] いや、まだ体を温め始めたばかりだよ──さ、隣りにどうぞ。

[Narration] アルマは誘われるまま、杏里の隣りに腰をおろした。

[Narration] しかし、その視線は宙をさまよい、落ち着かない。

[Narration] 杏里がタオルも巻かず、しなやかなプロポーションを惜しげもなく披露しているせいだ。

[Anri] サウナルームはよく使うのかい?

[Alma] ええ、たびたび……。

[Anri] 失敗したよ、ならもっと早くに誘えば良かった!

[Alma] 杏里様も、よく……?

[Anri] あぁ、うん。

[Narration] 杏里は何かを思い出すように微笑んだ。

[Anri] よく我慢比べをやってるよ。勝った方が負けた方を介抱できるんだ。

[Anri] アルマも、もしのぼせたら介抱はボクにまかせておくれ。

[Anri] 手取り足取り人工呼吸まで、しっかりケアしてあげるから!

[Alma] はい、よろしくお願いします。

[Narration] 屈託なく笑うアルマのタオルを、杏里は前触れなくヒョイと引っ張り、中を覗き込んだ。

[Anri] トレビアーン、いいね!

[Alma] え……あの?

[Anri] ……この前、ゴルフ場でも思ったけど、アルマって意外と着やせするタイプなんだね?

[Narration] 洋服のうえからはわからなかった、ふくよかなふくらみに、杏里が賞賛を浴びせる。

[Narration] アルマは恥ずかしそうに身を縮めた。

[Alma] そんな……杏里様こそ、すらっとしていて、とても素敵です。

[Alma] なんと言ったらいいのかしら……かっこいいと思います。

[Anri] メルシー、けど、あまり女らしいとは言えないかな。

[Alma] そんな……かっこいいだけでなく、とても綺麗で……。

[Narration] と、そこで自分がまじまじと杏里の裸を見ていたことに気がつき、慌てて目をそらす。

[Anri] アルマ、ここにはボクらしかいないのだから、それも取ってしまったら?

[Narration] 杏里がピンク色のタオルを指さした。

[Alma] え……でも……。

[Narration] 場所からすればまったく普通の提案であったが、アルマは杏里の視線を感じてか、赤くなってしまう。

[Anri] いいじゃないか。

[Narration] あと、もうひと押し──という所でサウナのドアが開いた。

[Narration] 冷たい空気がさっと流れ込んでくる。

[Eliza] こちらは、何かご用はおありでしょうか?

[Narration] イライザは、そう言って後ろ手にドアを閉めた。

[Anri] 飲み物には、ちょっと早いかな?

[Alma] え、えぇ……。

[Narration] 第三者の闖入に、アルマは明らかにホッとした様子だった。

[Narration] それが、閉じた扉にカギをかけるイライザを見たとたん、目を見開く。

[Alma] あの……イライザさん?

[Anri] 平気だよアルマ、イライザはボクの味方だから。

[Alma] え……味方? あの、それは?

[Eliza] アルマ様、私は杏里様の冤罪を晴らすために協力している者です。

[Alma] ……ああ!

[Narration] ようやく納得いったという顔で、アルマが微笑んだ。

[Alma] では、杏里様に協力してくれている子猫ちゃんのひとりなのですね?

[Anri] その通り!

[Eliza] ………………。

[Narration] 子猫ちゃん……と呼ばれる少女が杏里とどういう関係にあるのか、アルマはまったく知らないわけだ。

[Narration] イライザは杏里の脳天気さに内心で嘆息し、アルマの愚かさに盛大なため息をついた。

[Anri] イライザはとても頭がいいし、とても気がつくんだ。

[Narration] 本人の葛藤も知らず、杏里はアルマを前にイライザを誉めまくっていた。

[Anri] まさにメイドの鑑なんだよ!

[Alma] イライザさんには、お世話になっているので、よく知っています。

[Narration] イライザはその経歴ゆえに、メイドの中では、ちょっとした有名人だったので、よく顔と名前を覚えられていた。

[Narration] 他の同僚に比べて、それが特別に良いこととも思えなかったが。

[Narration] メイドの仕事は持ち回りであるから、とうぜんイライザはアルマの世話をしたこともある。

[Anri] イライザも、アルマのことは知っているよね?

[Eliza] えぇ、お世話する学生の皆様のことは、もちろんひと通り……。

[Narration] 本当は杏里が興味を持った少女として特別に関心を持っていることなどおくびにも出さず、イライザはすまして答えた。

[Eliza] 近ごろ、杏里様と仲がよろしいようですわね。

[Alma] あ、いぇ、そんな……。

[Narration] アルマが赤くなる。先ほどまでの会話を思い出したらしい。

[Anri] アルマとは、愛を交わして肌を重ねたほどの仲だもの。

[Narration] 杏里が追い討ちをかけた。

[Narration] 完熟トマトのように赤くなって頬を押さえるアルマを見て、もう半ば手を出したな……とイライザも見当をつけた。

[Alma] 杏里様、そのようなこと……あの、あまり人様にお話するような事では……。

[Anri] なんで? どうして恥ずかしがるんだい?ボクは恥ずかしくないよ! だって、これは愛のゆえだもの!

[Anri] 愛する者が愛する者と快楽を分かち合うことに、どんな後ろめたさもあるものか!

[Alma] その……おっしゃることも、わかるのですけれど……。

[Eliza] アルマ様、杏里様はこういう御方です。差し出がましいとは思いますが、そう覚悟しておつきあいするしかない……と、ご忠告さしあげますわ。

[Alma] はい……そうですね……。

[Anri] ん?

[Narration] 自分の愛人と愛人候補が奇妙な心の交流を感じているのを、当の杏里だけが不思議そうに眺めていた。

sapphism_no_gensou/2571.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)