User Tools

Site Tools


sapphism_no_gensou:2481

Place translations on the >s

[Anri] ボンジュール、かなえさん。

[Narration] 約束の時間通りやって来た杏里を、天京院はいつものように静かに迎えた。

[Anri] 今回は、少し整理してみたつもりなんだけどね。

[Tenkyouin] ……その分量じゃあ、焼け石に水という気がするけど、まあいいか。

[Tenkyouin] 時間が惜しい。すぐに始めよう。

[Anri] ウィー。

[Narration] 何度かの休憩をいれながら、ひと通り資料に目を通し終わった天京院は、じっと考え込んでいた。

[Narration] 思考の邪魔をしないよう、杏里も口は開かず、まったりとした時間だけが流れていく。

[Tenkyouin] ……脅迫、か。

[Narration] ようやく天京院がポツリと呟くまで、けっこうな間があった。

[Tenkyouin] 情報から判断するに、脅迫が行われているのは事実だな。

[Tenkyouin] ただ、脅迫の対象は、いまだ被害者個人のようだ。保護者を巻き込んだ大規模な脅迫事件に発展した様子は、まだない。

[Anri] 被害者の女の子に、脅迫状が送られているということ?

[Tenkyouin] ──とはいえ、この学園の学生である以上、動かせる金額は決して小さくないとは思うがね。

[Tenkyouin] 百万ドルという単位には、少なくとも達していない気配だな。

[Anri] 金が目的のレイプだっていうのか……卑劣な……。

[Tenkyouin] いや……。

[Narration] 天京院の瞳がかげった。

[Tenkyouin] それにしては被害者の選ばれ方がそぐわない。

[Tenkyouin] 始めから金銭目的なら、もっと狙われてしかるべき学生が他にいる。

[Anri] どういうことだ?

[Tenkyouin] ………………。

[Narration] 押し黙ったまま首を振る。

[Tenkyouin] ……とりあえず、杏里は当面、脅迫についてあまり意識せず捜査を続けた方がいいだろう。

[Anri] どうして?

[Tenkyouin] 金が目的だとすると、そもそもあたしが最初に選んだ3人の被害者候補……あの前提さえ崩れてしまうんだ。

[Tenkyouin] ファン・ソヨンが襲われたのは事実。つまり、あたしの推理は間違っていなかった。

[Anri] けど、脅迫は予想していなかったんだよね?

[Tenkyouin] そこに……何かあるんだ。何か、イレギュラーが……。

[Tenkyouin] それから……。

[Tenkyouin] 犯行目的が、暴力行為そのもの、あるいは恨みや憎しみによるものではないかというものだが……。

[Anri] いきなり、さっきの脅迫と矛盾するな。

[Tenkyouin] そうでもない。脅迫が金銭目的ではなく、被害者を更に追いつめるための方便だとしたら……。

[Anri] そんな──あんまりだ!

[Tenkyouin] 脅迫された時点で、目的が金でもそうでなくても、被害者にとっては一緒だろう。

[Anri] ………………。

[Tenkyouin] 被害者の発見された時の状況からして、動機としては金よりこっちの方が可能性が高い。

[Anri] なんで……。

[Tenkyouin] それを予想するには、判断材料が足りないよ。

[Tenkyouin] さて……。

[Tenkyouin] 犯人が知能犯で、しかもそれを誇示していることは間違いないね。

[Anri] 犯罪そのものを楽しんでいる……?

[Tenkyouin] それはどうだか……。ただ、犯罪を隠すつもりはまったくないようだ。

[Tenkyouin] これだけ周到に計画するなら、被害者の口封じまでして、犯行を包み隠すことだってできるだろうに。

[Anri] ……犯行を見せつけている?

[Tenkyouin] あるいは、被害者をね。

[Narration] ひと通り検討を終えた天京院の顔は、暗く沈んでいた。

[Tenkyouin] この脅迫の事実で、PSは犯人への道しるべをまったく失うかもしれない。

[Anri] ……かなえさんは、脅迫事件を調べても犯人にたどり着けないと思うのかい?

[Tenkyouin] うん……。動機を金に絞るのは危険だ。

[Tenkyouin] 方針はこのまま。杏里、ここからが勝負だよ。

[Anri] ……わかってる。

[Narration] これからの捜査のアドバイスをいくつかもらって、杏里は部屋を後にした。

[Narration] 残された天京院は散らばった情報メモを拾いながら、ふとため息をついた。

[Tenkyouin] あと……1週間か……。

[Tenkyouin] ……ふう……。

[Narration] 沈黙すること十分間。ようやく室内に響いたのは、天京院の低いため息だった。

[Narration] 杏里もその間、まったく言葉を発していない。

[Tenkyouin] ……杏里……。

[Anri] うん?

[Tenkyouin] 君はこの1週間、何をやってたんだ?

[Anri] あれ、えーと……?

[Tenkyouin] こんなクズ情報ばかりじゃ、何もわからないよ!

[Anri] ──ええっ!?

[Tenkyouin] はぁ……もう面倒見切れないな。

[Anri] そ、そんな、かなえさん……!

sapphism_no_gensou/2481.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)