User Tools

Site Tools


sapphism_no_gensou:2431

Place translations on the >s

[Narration] ──その夜。

[Narration] 自室のベッドに寝ころび、杏里は珍しく難しい顔で悩んでいた。

[Anri] 困ったな……。

[Anri] 明らかにみんな、ボクへの疑いは強くなってるし、ソヨンに会うことも出来ない。

[Anri] 状況はだんだん悪くなっているのに、残された時間はあと2週間か……。

[Narration] つい数日前に会ったソヨンの顔を思い出し、杏里は表情を引き締めた。

[Anri] そうだ……ボクの退学だけの問題じゃない。

[Anri] これまで被害にあった女の子のためにもなんとかして犯人を……。

[Narration] そこへ、誰かの訪問を告げるチャイムが鳴った。

[Anri] はーい、ちょっと待ってね。

[Narration] いつもならこの時間に鍵などかけないのだが、今は謹慎の名目を守るため常に施錠している。

[Narration] 特に誰が訪ねてきたかも気にせず扉を開いた杏里は、廊下にぽつんと立っているアルマの姿に驚いた。

[Anri] アルマ……。どうしたの?

[Alma] 杏里様……少し、お時間をよろしいでしょうか。

[Anri] もちろん!さ、入ってよ。

[Narration] 促され、入室したアルマは、明らかに落ち込んだ様子だった。

[Anri] ……アルマ、そんなどしゃ降りにうちひしがれた子猫みたいにしていないで、さあ、そこに座ってよ。

[Anri] いまお茶でも……紅茶と珈琲、どっちがいいかな。それとも何か甘いものにするかい?

[Alma] いえ、おかまいなく……。

[Anri] ………………。

[Narration] 態度以上に精彩を欠いた声に、杏里はまじまじとアルマを見つめた。

[Anri] ……ひとりなの?ウェルズさんは?

[Alma] あの……ウェルズさんには内緒で来ました。

[Alma] ウェルズさんは、わたしが杏里様と会うのをよく思っていませんので。

[Anri] それでも会いに来てくれたんだね。嬉しいよ。

[Narration] 本心から言って、杏里はコップに注いだオレンジジュースを応接テーブルの上に置いた。

[Narration] のろのろした動作で、ようやくアルマも腰を落ち着ける。

[Alma] ………………。

[Narration] そのまま、また口を閉ざしてしまう。

[Anri] アルマ……ソヨンが襲われた話は聞いたよね?

[Narration] 仕方なく杏里が核心の話題を出すと、ビクッとしたアルマはややあって頷いた。

[Anri] ボクもショックだった。その……ソヨンに、会えた?

[Alma] はい……少しだけ……。

[Alma] あんなに元気なソヨンさんが、とても落ち込んでいらして……とても、痛々しくて……。

[Alma] わたし……見ているのが辛くて……何も言ってあげられなくて……。

[Anri] あぁ、アルマ。そんなに悲しそうな顔をしないでくれ。

[Anri] キミまでそんな風になったら、ボクの胸は今度こそ張り裂けてしまう!

[Alma] ……はい、でも……。

[Narration] 杏里の派手な身振りにも心を動かされた様子はなく、アルマは俯いたままだった。

[Alma] ……わたし、これまで、事件のことも良くわかっていなかったんです。

[Alma] 無理矢理セックスさせられるということがどうしても理解できなくて……。

[Anri] うん、そうだね……。

[Narration] アルマの偏った知識を思い返し、杏里はあいまいに頷いた。

[Alma] でも、ソヨンさんの様子を見ていたら、胸が苦しくなって……。

[Alma] 今日はずっと、考えていたんです。無理矢理されるって、どういう気持ちなんだろう……って。

[Narration] それは、これまでの彼女からすれば大いなる進歩といえた。

[Narration] 何よりアルマの優しさに触れた気がして、杏里はこれまで以上に彼女を愛しく感じたが、それを口に出す雰囲気ではなかった。

[Alma] ……きっと、それは着替えや入浴の手伝いで裸を見られるのとは、ぜんぜん違うのでしょうし……。

[Alma] その……自分でも恥ずかしいと思う場所に触れられるのは、やはり悲しいと思うのです。

[Narration] まだどこかピントはずれていたが、杏里はあえて口出しをせずアルマの話を聞いた。

[Narration] アルマ自身、杏里に語りながら自分の考えを整理しているように見えたのだ。

[Alma] まして、身体の自由を奪われて……。どんなにか、怖い思いをなさったか……。

[Alma] クラスメートの方が、セックスには不安や痛みが伴うけれど、それでも心の充足感がある、と言っておられました。

[Alma] でも、無理矢理されるものには……それはないのですね。

[Anri] うん……そうだね。

[Anri] 愛し合って肌を触れあうのはとても素敵なことだけど……いま起きている事件は、そうじゃない。

[Anri] これは……どうあっても、この事件は、許せるものじゃない……。

[Alma] ……杏里様……。

[Narration] 意を決したように、アルマが顔をあげた。

[Alma] どうか、犯人を見つけてください。こんなこと、これ以上、続けさせてはいけませんわ。

[Anri] ──ああ、もちろん。もう、ボクの退学だけの問題じゃない。

[Anri] ボクがこのまま学園を辞めさせられたら犯人の思うままだ。

[Anri] 絶対に、捕まえないと……!

[Alma] ……良かった……。

[Alma] みんな、犯人は杏里様だから、杏里様が学園を去れば事件は起きないと思っているんです。

[Alma] 真犯人が他にいるなんて、考えてもいないんですよ。

[Anri] ボクは大丈夫だよ、信じてくれる人もいるからね。

[Anri] アルマもこうして信用してくれているわけだし……。

[Alma] え……?

[Anri] 違うの?

[Narration] アルマは困ったように視線をさまよわせた。

[Alma] あの、いまは信じています……絶対に、杏里様は犯人じゃないと……。

[Anri] ……ひょっとして、さっきまでは疑っていた?

[Alma] え……その……。

[Alma] ……はい。

[Narration] 悲しむより先に、杏里は呆れ顔になった。

[Anri] 疑っていたのに、ひとりでボクのところへ来たの?

[Alma] あの、それは……。

[Alma] もし杏里様が犯人でしたら、わたしが自首するように説得しようと……。

[Anri] ──おお、アルマ!キミの勇気は尊敬するけれど、そういう無謀な行為はやめてくれ!

[Narration] 思わず杏里は叫んでいた。

[Anri] いいね、これから、もし事件に関係あると思えることがあったら、真っ先にボクに相談してくれ。

[Alma] はい、わかりました。

[Anri] それじゃ、ボンソワール、アルマ。……いい夢を。

[Alma] はい、わざわざ送っていただいて、ありがとうございます。

[Alma] あの……杏里様、ひとつお願いしてよろしいですか?

[Anri] もちろん。アルマの頼みならひとつと言わず、いくつでも。

[Alma] 今度、わたしも天京院様に会わせていただけませんか?

[Anri] かなえさんに?それはいいけど……。

[Alma] 差し出がましいとは思いますけれど、わたしもこの事件は一刻も早く解決してほしくて……。

[Alma] 杏里様をお助けしてくださるという、天京院様とも、ぜひ一度お話をしたいのです。

[Anri] そういうことなら、わかった。今度、都合のいい時にでも。

[Alma] はい、おやすみなさいませ。

[Narration] 自室に戻っていくアルマを見送り、杏里は気を引き締めた。

[Anri] よし……明日から頑張ろう。

sapphism_no_gensou/2431.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)