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sapphism_no_gensou:2401

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[Narration] 杏里は、イライザの姿を求めて購買部通りにやってきた。

[Narration] カフェテラスの、すいた一角に座り、しばらく待つ。

[Eliza] ご注文をどうぞ、お客様。

[Narration] すぐにイライザが現れた。

[Narration] 実際、杏里にも不思議なことだが、イライザは彼女が捜そうとすると、大抵は向こうから姿を見せてくれる。

[Narration] 必要なときに居る、というその能力は、にわかメイドのはずなのに、他の誰より抜きんでていた。

[Narration] もっとも本人いわく、相手が杏里の場合に限るのだそうだが。

[Anri] 調子はどうかな、我が優秀な諜報員殿?

[Eliza] ……ちょっと、嫌な話が御座います。

[Narration] 周囲を気にしてか、イライザはオーダーを取るふりをしながら小声で話し始めた。

[Anri] 嫌な話……?

[Eliza] はい、ちょっと……。

[Narration] 用心深げに辺りを見回す。

[Eliza] これについては、今までと比べ物にならないほど厳重な口止めがされていますので、学生の噂にはなっていないと思います。

[Anri] ──?

[Eliza] 以前の被害者からもそれらしき証言があったらしいのですが、ファン・ソヨン様の証言でより明確になりました。

[Eliza] 学園側はこれを由々しき事態と捉え、事は杏里様の退学だけではすまないだろうと考えているようです。

[Anri] 焦らさないでくれ。なんだっていうんだい?

[Eliza] はい……これは現在、最重要機密で……本当は私も知っていてはいけない情報なのですが……。

[Anri] ………………。

[Eliza] どうやら、事件の被害者は一様にその現場を写真に撮られ……脅迫されている方も居ると……。

[Anri] ──なんだって!?

[Eliza] ──シッ!……お静かに。

[Eliza] 被害者が脅迫について黙秘しているため捜査は進展していないようですが……。

[Eliza] 少なくとも、事件後、カメラのシャッター音らしきものを聞いた……というのは、被害者の証言に共通しています。

[Eliza] 全員が脅迫されているのかは、先ほど申しました通り、不明です。

[Anri] ……なんてことだ……。

[Eliza] 目的が脅迫となれば、事件の背景に別の要因が絡んでくる可能性は十分にあります。

[Eliza] なにしろ、この学園の学生は、ほとんどが「いいとこ」のお嬢様ですから。

[Anri] 冗談じゃない、国際政治や経済にまで影響の出る事件になるって?

[Anri] しかも、ボクが容疑者?

[Eliza] だとすれば、杏里様というスケープゴートのみで済む問題ではなくなります。

[Eliza] 学園としては、一般学生の意識を杏里様に向けさせたまま、事件は秘密裏に解決したい意向のようで……。

[Eliza] 退船後、即座に暗殺ぐらいは、覚悟しておいた方がよろしいかと。

[Anri] ──やれやれ。

[Narration] 深いため息をついた杏里は、しかし自分の危険とは別の部分で憤っていた。

[Anri] けれど、そうすると……犯人は被害者を暴行したうえ、それを写真にまで撮って……。

[Anri] それをネタに……脅迫しているっていうんだね?

[Eliza] まだ学園側もPSも確証は掴んでいないようですが……かなり信憑性のある情報と思われます。

[Anri] ──許せないな。

[Narration] 杏里の呟きを聞き止め、イライザは目を丸くしてから、にっこり笑った。

[Eliza] ご自分の身を心配される方が先だと思いますけれど?

[Anri] そんなのは、まあ……いざとなれば、どうにかなるよ。だってボクはやっていないもの。

[Narration] あくまで楽観的な意見を述べる。

[Anri] けど、その話は許せない。なんとしても犯人を見つけるぞ。

[Eliza] ……杏里様。

[Narration] イライザは穏やかな瞳で杏里を見つめた。

[Eliza] 私、杏里様と知り合えたことを、人生最大の喜びと思っております。

[Anri] なんか、前もそんなことを言ってたね。

[Eliza] ただいま、再び噛みしめておりました。

[Narration] それから、ちょっと口をつぐみ、静かに尋ねる。

[Eliza] 杏里様……これから、少しお時間はありますか?

[Anri] え……うん、まあ。

[Eliza] それでしたら……。

[Narration] イライザの瞳が妖しく揺れる。

[Eliza] ご褒美をいただけませんか?

[Anri] えっ、……すぐに?

[Narration] 杏里は少し驚いた。

[Anri] これまで、ボクから誘って断られたことはほとんどないけれど……。

[Anri] イライザの方から誘ってくれるのは、珍しいね。

[Eliza] どうでしょう?

[Narration] 杏里は逡巡せずに頷いた。

[Anri] もちろん、断る理由はないさ。可愛いイライザ……。

[Eliza] それでは、あちらの準備室の方へ……。

[Narration] すっ、と会釈して、イライザは離れた。

[Eliza] 先に行っておりますわ。

[Anri] ああ。

[Narration] イライザが離れるのを確認して、不自然でないぐらいの時間待ってから、杏里も席を立った。

[Narration] 内心のうきうきを隠して、杏里は何気ないように準備室の方へ向かった。

sapphism_no_gensou/2401.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)