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sapphism_no_gensou:2381

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[Narration] 図書館にやってきた杏里は、いくつかの不審の目を受けながら、怖れることなく深部に踏み込んでいった。

[Narration] 英知の園たる書棚の摩天楼も、此度の事件を紐解く鍵になるとは思われない。

[Narration] 杏里の目指すものは書物に非ず──人物であった。

[Anri] あっ──!

[Anri] ──────!!!

[Narration] 杏里の網膜に大銀河がとんだ。

[Narration] ………………。

[Narration] …………。

[Anri] う……うん……?

[Chloe] ……目は覚めた、杏里?

[Narration] 図書館の最深部、薄暗い書棚の影に杏里は寝かされていた。

[Narration] 痛む頭頂部をさすりながら、身を起こす。

[Anri] ああ……クローエ?ひどい夢を見たよ。何千羽というキツツキがボクの頭を大樹と勘違いしてつつくんだ。

[Chloe] ……キツツキ?

[Anri] おかげでまだガンガンしている……ほら、こぶまで……こぶ?

[Narration] ハッと杏里は面を上げた。

[Anri] いきなりひどいじゃないかクローエ!?

[Chloe] 悪かったわ、だから大声を出さないで、杏里。

[Narration] 不機嫌が制服を着たような少女は、用心深く周囲を見回した。

[Chloe] いきなり蹴り倒したのは謝るけれど、そうしなければあなた、大声で挨拶していたでしょう?

[Chloe] ……ねえ、自分が謹慎の身だと、どこまで理解しているのかしら?

[Anri] 拷問の塔に捕らえられた罪人のごとく、よく理解しているつもりだよ。

[Anri] 確かに……喜ばしい出会いに気をとられて忘却することも、ないではないけどね?

[Chloe] あなたって人は……。

[Narration] クローエは身を起こす杏里に手を貸した。

[Chloe] ここは静謐をモットーとする憩いの空間よ?騒がしくすれば、それだけでPSだって呼ばれる。

[Anri] PSはいま忙しいよ。みんなだって、騒がしいガチョウの1匹ぐらい大目に見てくれるんじゃないかな?

[Chloe] 少なくとも、わたしは通報するわ。

[Anri] ……静かなる掟に殉じよう。

[Narration] 杏里は書棚に体重を預け、できるだけ小さな声で訊いた。

[Anri] ボクがここに来た理由なんて、賢いクローエにはとっくに分かっていると思うけど……。

[Anri] 例の事件の手がかりになりそうな情報って、何かあった?

[Chloe] 単刀直入な物言いね。

[Anri] カッコつけてる余裕もないんだ。なにしろ残された時間は2週間を切ってる。

[Chloe] ……情報といえるほどのものかどうかわからないけど、あるわ。それで、わたしもあなたを捜していたのよ。

[Anri] いまはどんな些細な話でも聞かせて欲しいね。

[Chloe] そう……。実は、PSが図書館のコンピューターを調べに来たのよ。

[Anri] ははあ……犯人の使用した体位が一般にはもう幻となっている『五月雨反屈位』だと知って、室町体位集77手を探しに来たというわけだね?

[Chloe] ……なにそれ、そんな情報があったの?

[Anri] ううん、冗談。

[Anri] さあクローエ、そんな般若のような顔はやめて、話の続きを。

[Chloe] 時間がないと言ったのはあなたでしょうに……。

[Chloe] 調査目的は秘密……だったんだけど、図書委員の子がひそひそ話を聞き止めちゃったらしくてね。

[Anri] 人の口に戸は立てられぬ。噂は千里を走るというからね。

[Chloe] どうやら、PSのメインシステムに、ここから侵入したらしいって……。

[Anri] ──なんと!?じゃあ、犯人は図書委員である可能性がある、と……?

[Chloe] いいえ、最後まで聞いて。

[Chloe] PSもその可能性を考えたらしいけど、結局ここは中継点に使われたに過ぎないと判明したそうよ。

[Anri] ……中継点?

[Chloe] そう……ここを使用したという形跡そのものも、ダミーだったって。

[Anri] じゃあ、結局、何もわからないのと同じじゃないか。

[Chloe] そうなんだけど……あと、気になる話があってね。

[Chloe] どうも、これまでのハッキングもかなり手の込んだもので……不必要なぐらい、世界中を中継してるって。

[Chloe] まるで技術を見せつけてるみたいで……それが気にくわないって、PSはかなり頭に来てたようね。

[Anri] 犯人が頭がいいってのは、もう十分にわかってるからなぁ……。

[Anri] 少なくとも、ボクよりは。

[Chloe] あなたは天才だと思うけどね。……使いどころが極端なだけで。

[Anri] 頭の良さを見せつける犯人か……。何かの挑戦なんだろうか?

[Anri] けど、そんなもの気取るなら、挑戦状のひとつぐらい残していってもいいのに。

[Chloe] こんな大騒ぎを好んで起こす輩が考える事なんて、わかりたくもないわ。

[Narration] クローエはしかめ面を崩さずに言い切った。

[Chloe] 役に立つかどうかわからないけど、わたしの聞いた話はそれだけよ。

[Anri] ありがとう、役に立つかどうかは、かなえさんに判断してもらうよ。

[Chloe] 天京院さん……?

[Chloe] そうね、あの人も変人だけど頭はいいものね。案外、犯人の気持ちがわかるかも……。

[Narration] 杏里はクローエに礼を言って、図書室を立ち去った。

sapphism_no_gensou/2381.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)