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sapphism_no_gensou:2261

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[Alma] ──杏里様!

[Narration] 天京院の部屋に向かっていた杏里をアルマが呼び止めた。

[Anri] ボンジュール、アルマ。

[Alma] これから杏里様の所へ伺おうと思っていたのですけれど……お忙しいでしょうか?

[Anri] 忙しいと言えば常に忙しいし、そうでないとも言えるし……。

[Anri] 幸い、今はそれほど忙しくないかな。これから、かなえさんの所へ行こうと思ってね。

[Alma] かなえさん……?

[Anri] 天京院鼎。

[Alma] ああ、天京院様ですね。

[Alma] あの……ご一緒してもよろしいですか?

[Alma] 事件の話でしたら、やはり気になりますし……。もちろん、お邪魔でなければですけど……。

[Anri] 邪魔なんてとんでもない。いいよ、紹介しよう。

[Alma] はい、お願いします。

[Anri] ──で、連れてきたんだけど。

[Tenkyouin] ……まあ、いいけどね。

[Tenkyouin] よろしく、アルマ・ハミルトン。自己紹介はいらないよ。

[Alma] よろしくお願いします、天京院様。

[Narration] 優雅に一礼するアルマを、天京院は無遠慮にジロジロと眺めた。

[Narration] アルマが小首を傾げる。

[Alma] あの、何か……?

[Tenkyouin] いや。データベースの情報や杏里の集めてきたうわさ話でよく知っているけど、本人に会うのは初めてだからね。

[Alma] はあ……。

[Tenkyouin] 第一印象は、だいたいイメージ通りだ。誤差も予想範囲内だな。

[Anri] ね、かなえさんってヘンな人でしょ?

[Tenkyouin] 君らに言われたくはないね。さて、アルマ・ハミルトン。

[Alma] あ、はい……?

[Tenkyouin] 杏里から聞いていると思うけれど、君は現在、連続レイプ事件の被害者候補筆頭だというのが、あたしの推理だ。

[Alma] はい……聞いております。

[Tenkyouin] ファン・ソヨンもそうだった。

[Alma] ……はい。

[Tenkyouin] それを踏まえた上で聞きたいのだけど……。

[Tenkyouin] 君は、杏里を信用しているかね?

[Alma] え……!?

[Narration] 明らかに予想外の質問だったらしく、アルマは一瞬絶句した。

[Anri] アルマは、もちろんボクを信じてくれているとも。

[Tenkyouin] 容疑者候補はしばらく黙っているように。──それで、アルマ?

[Narration] 天京院は真剣そのものの口調で再度尋ねた。

[Alma] それは……。

[Tenkyouin] ………………。

[Alma] 少し前まで、疑いの心もありました。いえ……。

[Alma] きっと、ソヨンさんが襲われるまで、真剣には考えていなかったんだと思います。

[Alma] どっちでも、あまり自分には関係ないことだと……今では、愚かな考えだと思いますけれど。

[Alma] ソヨンさんが襲われて、ビックリして、その時に……少し、杏里様をお疑いしました。

[Alma] けど、それから杏里様に会って、考えを変えました。やはり、杏里様は絶対に犯人ではない──と。

[Tenkyouin] ふむ……それは、何故?

[Alma] それは……。

[Narration] しばらく、アルマは言葉を探すように押し黙った。

[Narration] やがて、彼女が口にしたのは、意外な言葉だった。

[Alma] それは……わたしが、杏里様を信じると決めたからです。

[Anri] アルマ……。

[Tenkyouin] ……そうか。

[Narration] 天京院は、どこか満足そうに頷いた。

[Tenkyouin] 試すような質問をして悪かったね。……が、収穫だったよ。

[Tenkyouin] 思っていたより、ずっと明晰な思考を持っているようだ。

[Alma] そう……ですか?

[Tenkyouin] うん。予想を大幅に修正しないといけないな。

[Anri] ……そうなの?アルマが信じてくれるのは嬉しいけど、ボクにはよくわからなかったな?

[Tenkyouin] 大丈夫、君の論理的な理解力については検証の必要もないぐらい良く知っている。

[Anri] ……褒められた気がしないよ。

[Tenkyouin] そもそも褒めてない。

[Narration] ふたりの様子を見て、アルマがクスリと微笑んだ。

[Alma] おふたりとも、とても仲がよろしいのですね。

[Alma] 息もピッタリで……うらやましいぐらいに。

[Anri] なにしろ、ボクとかなえさんは親友だからね。

[Tenkyouin] 本人を前にして口にすると、途端に胡散臭くなる言葉だぞ、それは。

[Narration] 微笑ましそうにやり取りを見ていたアルマは、ふと表情を引き締めた。

[Alma] あの、天京院様……。

[Tenkyouin] ん……いや、言いたいことはわかってる。

[Tenkyouin] 君も、何か手伝いたいと言うのだろう?

[Alma] はい。

[Tenkyouin] なら、気がついたことがあれば、杏里に報告するようにすればいい。

[Tenkyouin] いまのところ、杏里が情報収集、あたしが分析という分担だから。

[Tenkyouin] ただ……君は、さっきも言ったとおり被害者候補でもある。

[Tenkyouin] 本当は、あまり危険な真似はしない方がいいな。君が動きすぎると、今度はそれを心配した杏里の捜査が鈍るかもしれない。

[Alma] ……ごもっともです。十分に注意いたします。

[Anri] いっそボクの部屋に引っ越してくればいいのに。

[Tenkyouin] そうすると、君も自分の部屋に入り浸りになるだろうから、ダメだ。

[Narration] 天京院は、ぱんぱんと手を打ち鳴らした。

[Tenkyouin] さて、あたしは自分の研究もあって忙しい。杏里もここで油を売ってる場合じゃあるまい?

[Anri] うん、行こうか、アルマ。

[Alma] はい。本当に、お邪魔しました。

[Tenkyouin] いや、何のおかまいもなく。

[Narration] じゃあね、と杏里とアルマが退室すると、天京院はコーヒーポットからカップに新しい一杯を注いだ。

[Narration] ふう、とため息をつく。

[Tenkyouin] そう、第一印象、人柄、人格──そんなものは、すべて心的要因でしかない。

[Tenkyouin] だったら、後は……自分が信じるしかないんだ。

sapphism_no_gensou/2261.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)