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sapphism_no_gensou:2181

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[Anri] ボンジュール、かなえさん。

[Narration] 約束の時間通りやってきた杏里を迎えて、天京院は開口一番に尋ねた。

[Tenkyouin] ……杏里、それ、なに?

[Anri] え? 集めた情報なんだけど?

[Narration] スポーツバッグからあふれんばかりになっている『情報』を見て、天京院は無表情に杏里の顔を見た。

[Tenkyouin] ……それ、全部?

[Anri] うん。何が大事かって判断はかなえさんがするって言ってたから。

[Anri] とりあえず、この一週間で見聞きした事のメモと見つけたもの、全部もってきたよ。

[Tenkyouin] ………………。

[Anri] かなえさん?

[Tenkyouin] ……いや、始めようか。

[Narration] 結局、杏里の持参した『情報』の選り分けだけで、午前中がつぶれた。

[Tenkyouin] ……ふう……。

[Narration] 沈黙すること十分間。ようやく室内に響いたのは、天京院の低いため息だった。

[Narration] 杏里もその間、まったく言葉を発していない。

[Tenkyouin] だいたい了解した。では、始めようか。

[Anri] うん、いいよ。

[Narration] 天京院は杏里の用意した大量のメモ類の中から、アルマに関するものを適当に取り上げた。

[Tenkyouin] アルマ・ハミルトンという人物は、なかなか変わっているようだな。

[Anri] まあ、ちょっと……知識が偏っているかな?

[Tenkyouin] 『ちょっと』ではなく、『だいぶ』だろう?

[Narration] 杏里は控えめにコメントしたが、天京院はズバリと言いきった。

[Tenkyouin] 生粋のお嬢様だな。そのせいで、この学園ではむしろ目立つ方じゃない。

[Tenkyouin] おかげで、こんなバカとは知らなかった。

[Anri] ダメだよかなえさん。バカって言う人がバカなんだから。

[Tenkyouin] ……それ以外にどう評価しろというんだ。

[Narration] 杏里がイライザの協力で集めてきた情報の中には、アルマについての級友のコメントも混じっていた。

[Narration] あまり多くない親しい友人たちの間では、アルマは「見ていて飽きない娘」と思われているらしい。

[Narration] あのボケっぷりが、少女たちにとって丁度いい娯楽になっているのだろう。

[Tenkyouin] ここには、それこそ絵に描いたような世間知らずもよく入学してくるがね……。

[Tenkyouin] あんな歩くコントみたいな娘は、さすがに珍しいよ。

[Anri] いつになく厳しいね、かなえさん。でも……。

[Narration] 杏里はアルマの名誉のために弁護しようと口を開きかけ……。

[Anri] でも……まあ、当たってるかな。

[Narration] 無慈悲にも同意した。

[Anri] けど、いい娘だよ。

[Tenkyouin] 君が、下級生を悪人だと評したのを聞いたことはないな。

[Tenkyouin] ……まあいい。これを見る限り、アルマ・ハミルトンの周辺に変わったことはないわけだね。

[Tenkyouin] 注目すべき怪しげな人物、事件の痕跡はないな。どれも許容範囲内だ。

[Anri] そもそも、ひとりで行動することが滅多にないんだよ。

[Anri] どこへ行くにも、大抵ウェルズさんが一緒だし、夜は自分の部屋で過ごしていることが多いから。

[Tenkyouin] 本人の警戒心の薄さを、生活習慣が補っているわけだな。

[Anri] うん……それと、他の候補者だけど。

[Tenkyouin] なにかあったかね?

[Anri] 何も。というより、ほとんど会うことすらなかった。

[Anri] アルマにかかりっきりだったせいもあるけどね。

[Tenkyouin] ふむ、君はあまり器用な方ではないし、ヘタに気を散らさない方がいいだろう。

[Tenkyouin] 当面、アルマのことだけで手一杯だろう。目付役も難敵のようだし。

[Anri] そうだね。……ああ、でもファン・ソヨンとは昨日の夜に会ったよ。

[Anri] アルマと一緒に居たんだ。教室に忘れ物があったとかで。

[Tenkyouin] ほう。

[Anri] ボクを疑ってるのが悲しかったけど、彼女もいい子だね。

[Anri] 正義感もあるし……なにより、とてもまっすぐに人を見るんだ。

[Anri] アルマとはまた違った魅力にあふれてる。事件が片づいたら、ぜひお近づきになりたいなぁ。

[Tenkyouin] ……まず目の前の問題に、もっと真剣に取り組んでくれ。

[Anri] 真剣だよ?

[Tenkyouin] はいはい。

[Tenkyouin] では、次だけど……。

[Tenkyouin] 犯人が高い知能を持っているというのは、どうやら確かみたいだね。

[Tenkyouin] けど、実はこれは、あまり有益な情報でもないな。

[Tenkyouin] 手口だけなら、その程度のことができる人間は船内に相当いるだろうし。

[Anri] ……すごいすごいと聞いてはいたけど、この船に乗ってるのって、そんなに頭のいい人が多いのかい?

[Tenkyouin] その一面はある……けど、実は問題は別の部分にあってね。

[Tenkyouin] この船の乗船資格を得るための審査はとても厳しいし、外部からの侵入に対して非常に神経質なんだが……。

[Tenkyouin] 内部からの工作には、意外ともろいんだよ。

[Anri] そうなの?

[Tenkyouin] 警戒心が外へ向きすぎているんだな。PSだって、警備員というより風紀委員に毛が生えたようなものだし。

[Anri] じゃあ、内部の犯行であるかぎり、誰でもこれぐらいはできるってことかい?

[Tenkyouin] そこまでは言わないさ。コンピューターにある程度は詳しくないと駄目だからね。

[Tenkyouin] けど、そうした調べ方は船員のプライベートファイルを持ってるPSの方が専門だろう?

[Tenkyouin] それで犯人が特定できていない以上、あたし達は違うアプローチで進んでいかないといけないよ。

[Anri] なるほど、PSと同じ事をしても駄目か。

[Tenkyouin] では、次だけど……。

[Tenkyouin] これまでの被害者が、みんな君の好みの女の子だというのは、確かなんだね、杏里?

[Anri] ……うん。

[Narration] どこか苦い表情で、杏里が頷いた。

[Anri] 特に親しい女の子はいなかったけど、そのうち声をかけようと思っていた娘ばかりだったよ。

[Narration] 悪びれずに告白する。

[Tenkyouin] 杏里の好みには、年齢という要素が大きくあるからな……。

[Narration] 手元の珈琲の湯気を睨みつつ、天京院は思案した。

[Tenkyouin] それを考えると、これまでの4人がすべて杏里の好みというのは、ちょっと無視できない確率だね。

[Narration] 職員、船員まで含めれば、船内の者で杏里の好みに合う人間の数は、極めて少数といえる。

[Tenkyouin] ……この事件には、杏里が深く関わっているのかもしれないよ。

[Anri] ──え?

[Tenkyouin] 杏里が犯人ではないにしても、杏里の存在が事件に関わっている可能性を否定できない。

[Anri] ……それって、どういうこと?

[Narration] わからない、という意思表示に、天京院は首を振った。

[Tenkyouin] 取るに足らないと思われる小さな接点が、当人にとっては運命的な関わりということもあるだろうな。

[Tenkyouin] いまはまだ、この事件が杏里にも関わりがあるかもしれないと……それぐらいの事しか言えないよ。

[Anri] かなえさんの言うことにしては、曖昧だなあ……。

[Narration] 杏里の用意した情報を検討し終えた天京院は、心なしか沈んだ顔を見せた。

[Tenkyouin] 残念だけど、これといって決定的な手がかりはないね。

[Tenkyouin] おそらくこれでは、PSが非公開にしている情報にも及ばない。

[Anri] うーん……どうすればいいだろう?

[Tenkyouin] 事件との関係にこだわらず、少しでも多くの人から話を聞くこと。

[Tenkyouin] 杏里がPSより先をいけるのは、学生からの情報集めぐらいだからね。

[Anri] なんだか、まだまだ雲を掴むような話だ。

[Tenkyouin] 焦ったら負けさ。根気の勝負だよ、杏里。

[Anri] うん……。

[Narration] これからの捜査のアドバイスをいくつかもらって、杏里は部屋を後にした。

[Narration] 残された天京院は散らばった情報メモを拾いながら、ふとため息をついた。

[Tenkyouin] あと……2週間か……。

[Tenkyouin] ……ふう……。

[Narration] 沈黙すること十分間。ようやく室内に響いたのは、天京院の低いため息だった。

[Narration] 杏里もその間、まったく言葉を発していない。

[Tenkyouin] ……杏里……。

[Anri] うん?

[Tenkyouin] 君はこの1週間、何をやってたんだ?

[Anri] あれ、えーと……?

[Tenkyouin] こんなクズ情報ばかりじゃ、何もわからないよ!

[Anri] ──ええっ!?

[Tenkyouin] はぁ……もう面倒見切れないな。

[Anri] そ、そんな、かなえさん……!

sapphism_no_gensou/2181.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)