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sapphism_no_gensou:2171

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[Narration] 夜のカリヨン広場は、暗くなるに従って、急に寂しい場所になる。

[Narration] 夕方までは学生で賑わうのに、闇の中では噴水や鐘楼といった仕掛けが不気味に思えるらしい。

[Narration] 消灯時間が近づくとあまり人が通らなくなるのだ。

[Narration] 希に通り抜ける者も、わざわざ足を止めようとすることは少ない。

[Narration] 杏里はそんな場所を、特に足早に通り抜けるでもなく歩いていた。

[Narration] 船倉賭博に誘われたのを断って、部屋に戻るところである。

[Alma] あの、杏里様……?

[Narration] 自分を呼び止める声に振り返った杏里は、すぐに破顔した。

[Anri] ボンソワール、おふたりさん。こんな時間にどうしたの?

[Narration] まだそれほど遅い時間ではないが、レイプ事件が騒ぎになっているいまは、用心すべき時間帯といえる。

[Alma] ちょっと忘れ物をしてしまって……ソヨンさんにつき合っていただいたんです。

[Soyeon] ううん、あたしも取りに行きたい物があったから。

[Anri] ウェルズさんは?

[Alma] お出かけになってます。

[Anri] なら、いいところで邪魔が入る心配もないわけだね。

[Alma] ──?

[Anri] なんでもないよ、こっちの話。

[Narration] 天敵の不在に浮かれていた杏里は、ソヨンの自分を見つめる目つきに気がついて、ちょっと黙った。

[Narration] 敵意ではない。不審……というほど強くはない。

[Narration] だが、どこか気を許していない、品定めをするような目つきだ。

[Narration] 幸か不幸か、彼女はそうした心中を面に出さずにいられるタイプではないらしい。

[Narration] あからさまな疑いのまなざしに、杏里は密かに嘆息した。

[Anri] ねぇソヨン、そんなに緊張しないでくれないかな?

[Soyeon] ──えっ!? き、緊張なんてしてませんよっ!

[Anri] じゃあ、警戒してるのかな?

[Soyeon] あっ! いえ、その……。

[Narration] 言葉に詰まるソヨンを、アルマが不思議そうに見る。

[Alma] ソヨンさん、杏里様が怖いんですか?

[Soyeon] あ〜、う〜……。

[Anri] アルマ……そういうことは本人を前にして訊ねない方がいいよ。

[Soyeon] そ、そうですよ。答えづらいですから。

[Anri] ……やめよう。

[Anri] ボクらは三人とも、何というか……こういった、腹に一物ある会話は苦手みたいだ。

[Soyeon] ……はい……。

[Alma] ……?

[Anri] やっぱり、ボクのことを疑ってる?

[Soyeon] いえ……。

[Soyeon] 証拠もないですし、こうしてお話ししていても、悪い人には見えません……。

[Soyeon] でも、やっぱり、一番の容疑者が杏里さんなのは確かですから。

[Anri] ハッキリ言うなあ……。

そういう言い方は……

好きだよ

[Anri] 無理に誤魔化されるより、こっちも気が楽だ。

[Soyeon] すいません、生意気なこと言って。

[Anri] いいんだ。なにしろ、退学予定の身だもの。

[Anri] 疑いを晴らそうにも、まだ何の証拠も見つかってないしね。

[Soyeon] そうですか……。

[Narration] ソヨンは言葉を切ると、真剣な眼差しで杏里を見た。

[Soyeon] あの、杏里さんを信じ切れないあたしが言うのは、ヘンですけど……。

[Soyeon] 真犯人捜し、本当に頑張ってくださいね。

[Anri] ああ、ありがとう……。

好きじゃないな

[Soyeon] す、すいません……。

[Anri] 身に覚えのない罪で退学確定……。

[Anri] これでも、ボクだって結構傷ついてるんだよ。

[Soyeon] そう……ですね。あたし、考えなしにひどいこと言ってしまって……。

[Anri] 学園側は一方的にボクを犯人として告発してるし、ほとんどの学生はそれを信じてる。

[Anri] こんな状況じゃあ、ソヨンに疑われるのも仕方ないとは思うけどね。

[Soyeon] ………………。

[Alma] ──ああ!

[Narration] いきなりアルマが手を打ち鳴らしたので、杏里とソヨンはびっくりして彼女を見た。

[Soyeon] ど、どうしたの、アルマさん?

[Alma] いえ、ソヨンさんは、杏里様が連続レイプ事件の犯人だと疑っていらっしゃるんですね?

[Alma] わたし、さっきからよくお話が見えなくて……これでわかりました!

[Anri] そ、そう……良かったね。

[Alma] ソヨンさん、大丈夫ですよ。杏里様は犯人なんかじゃありませんから。

[Soyeon] そ、そうなの……?

[Alma] はい。だって、杏里様ご本人が違うと言っておられましたもの。

[Soyeon] いや、それは……。

[Anri] あんまり証拠にならないんじゃ……?

[Narration] アルマのあまりに脳天気な台詞に、思わず杏里は自分でもツッコミを入れてしまった。

[Alma] そうですか……?でも、わたしは杏里様のお言葉を信じています。

[Anri] う、うん……ありがとう、アルマ。

[Anri] (とても嬉しい台詞なのに、そこはかとなく不安を感じるのは、何故だろう……)

[Rachel] あら……あなた達……。

[Rachel] こんな時間にどうしたの?

[Anri] ボンソワール、ええと……レイチェル先生。

[Anri] ……でしたよね?

[Rachel] ……杏里さん、いつになったら担任の名前を覚えてくれるのかしら。

[Anri] すいません、どうも年上の名前は覚えにくくて。

[Rachel] 名前と年齢は関係ないでしょう。

[Narration] 呆れたように言って、レイチェルはアルマとソヨンに眼を向けた。

[Rachel] あまり遅い時間に、この辺りを歩き回らない方がいいわよ。

[Rachel] PSが巡回を強化しているから、ちょっとした事でも反省室に連れていかれるわ。

[Soyeon] は、はい。すいません。

[Alma] 教室に忘れ物をしてしまったんです。もう、部屋に戻りますわ。

[Rachel] そう?じゃあ、気をつけてね。

[Alma] それでは、杏里様。おやすみなさい……。

[Soyeon] おやすみなさい、杏里さん。

[Anri] ボンソワール、またね。

[Rachel] さ、杏里さんも部屋に帰りなさい。

[Rachel] こんなところをウロウロしていていい立場じゃないでしょう?

[Anri] そうですね。

[Narration] あっさり首肯して、杏里は自分の部屋へ戻ることにした。

[Anri] それじゃあ、レイチェル先生。

[Rachel] ええ、おやすみなさい。

[Anri] ………………。

[Anri] やっぱり、容疑者の身は辛いなあ……。

sapphism_no_gensou/2171.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)