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sapphism_no_gensou:2131

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[Narration] 杏里はカフェテラスの片隅に座って、しばらく待った。

[Narration] かいがいしく働く女給のひとりが、すぐに彼女に気がつく。

[Eliza] ご注文は何でしょうか、杏里様。

[Anri] キミを。

[Narration] イライザは頬ひと筋とて動かさず、肩をすくめたきりだった。杏里の軽口にはすっかりなれている。

[Eliza] 謹慎の身ですのに、いくらなんでも堂々としすぎではありませんか?

[Anri] こそこそしてたら、そっちの方が目立つよ。

[Eliza] ……そうですね。それで、ご注文は?

[Anri] うん。

[Narration] 杏里はやや声をひそめた。

[Anri] 事件のこと、何かわかったかな。

[Eliza] いえ、まだ。

[Narration] あくまで注文を聞き取っている風を装いながら、イライザは短く返事をした。

[Eliza] これといって、お耳にいれて面白い話はございません。

[Anri] そっか、まあいいや。そっちはまた、何かあったら頼むよ。

[Anri] 実は、他にちょっと聞きたいことがあるんだけどね。

[Eliza] なんでございましょう?

[Anri] ファーストクラスのアルマに会いたいんだ。どうしたらいいかな?

[Eliza] アルマ?アルマ・ハミルトン様ですか?

[Narration] イライザはかすかに愁眉を曇らせた。

[Eliza] どうして……とは、無用の詮索ですわね。

[Anri] 恐いお目付役がついてるだろ。

[Eliza] ウェルズ様ですね。

[Eliza] 確かに、まるで誰もアルマ様に近づけないかのごとく振る舞っていらっしゃいますけれど……。

[Eliza] 私の知るかぎり、アルマ様にも普通にお友達はいらっしゃいますし、まったく誰も通していないという事はないと思います。

[Anri] けど、ボクは間違いなく嫌われているだろうから。

[Anri] 彼女がウェルズさんと別行動を取るようなことはないのかな?

[Eliza] 化粧室の、個室の前までついてくると聞いておりますが……。

[Narration] 平静ではあるが、イライザの口調にはどこか呆れた気配が混じっていた。

[Eliza] 忠節も度を過ぎれば愚臣を生みましょう。私には理解できない熱心さですわ。

[Anri] 手厳しいね。別にウェルズさんを嫌いなわけじゃないけど、邪魔でさぁ。

[Eliza] でしたら……。

[Narration] イライザはあくまで物静かに進言した。

[Eliza] 調べておきましょうか、ウェルズ様について?

[Anri] 実はその言葉を待ってたんだ。助かるよ。

[Anri] けど、目的はあくまでアルマに会うことなんだ。

[Anri] その方法さえわかれば、ウェルズさんの事は──まあ、どっちでもいいや。

[Eliza] かしこまりました。

[Narration] 優雅に一礼し、あくまで注文を取り終えたのだという様子で、イライザは杏里から離れようとした。

[Narration] なんとなくイタズラ心を出して、そのヒップを杏里の手が撫でる。

[Narration] ──が、息を呑む気配も一瞬。

[Narration] そんなことにはまったく表情を動かされず、イライザはテーブルを後にした。

[Narration] 杏里にだけわかるような、かすかな咎める視線を送ったイライザを苦笑しつつ見送った。

[Anri] ちぇ、やっぱ手強いや。

[Narration] ……しばらくして届けられたシナモンティーには、大量の塩が入っていた。

sapphism_no_gensou/2131.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)