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sapphism_no_gensou:2121

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[Narration] アンシャーリーの部屋には、一種異様な……と言ってもよい、独特の匂いがあふれていた。

[Narration] 彼女の焚く香にはどうもくらくらとする成分が混じっているらしく、ここを訪れなれている杏里でさえ、この匂いだけは好きになれないでいたのだ。

[Anne Shirley] 杏里。あたし、調べたのだけど。

[Anri] 調べた……って、何を?

[Narration] 彼女の物言いはいつも突然で、杏里もそれは承知している。

[Anne Shirley] これまでの、事件の被害者。

[Anri] なんと、キミが調べてくれたのかい、アンシャーリー!?

[Narration] 本当に驚いて、杏里は思わず声を高くしてしまった。

[Narration] 正直なところ、この捉えどころのない少女がまっとうに手を貸してくれるとは思っていなかったのである。

[Anri] ああ、ボクはキミに幾万の感謝を捧げなければならないだろう!愛してるよアンシャーリー!

[Anne Shirley] もっとも、調べてくれたのは昏い炎のボゲードンだけど。

[Anri] ボゲ……なんだって?

[Anne Shirley] 昏い炎のボゲードンよ。まあ、それはいいんだわ。……聞いてる?

[Anri] もちろん。

[Anne Shirley] ううん、杏里じゃなくて。そこでうずくまってる人。

[Narration] ──と、天井の一角を指さす。杏里には何も見えなかったので肩をすくめた。

[Anri] 耳があればきっと聞いてるんじゃないかなぁ。それで、その……調べたことって?

[Anne Shirley] ……なにが?

[Anri] いや、だから昏い炎のボゲードンが調べてくれたことって……。

[Anne Shirley] まあ、杏里!なんでそれを知ってるの!?

[Anri] 彼とは懇意にしてるんだ。

[Narration] 杏里はぬけぬけと言った。

[Narration] こうした会話を直感だけで通じさせてしまうあたり、これも杏里の天性の才能と呼ぶべきだろうか。

[Anri] それで?

[Anne Shirley] ええ、これまでの被害者に共通点があるかしら、と調べてみたのだけど。

[Anri] うんうん。

[Anne Shirley] みんな女の子だったわ。

[Anri] そりゃそうだ。進水式以降、男はひとりも乗せてないってのがこの船の自慢らしいから。

[Anne Shirley] それと、ほとんどファーストクラスよ。あとひとりだけ、セカンドクラス。

[Anri] ふーん……。

[Narration] この情報ははじめて聞いたので、杏里は当然のように感心した。

[Anne Shirley] 生年月日で見る限り、みんな杏里より年下だわ。

[Anri] ………………。

[Anne Shirley] そして、みんな杏里好みの女の子よ。犯人は杏里かしら!?

[Anri] 冗談じゃないよ、ボクじゃないって!

[Narration] もう何度目になるかわからない台詞を叫んで、杏里は真面目な顔つきになった。

[Anri] みんな、ボク好みの女の子だって?

[Anne Shirley] ええ、そうよ。

[Narration] アンシャーリーのあげていく氏名を聞いて、さすがに杏里の表情がきつくなる。

[Narration] それはすべて、いずれ杏里が「お近づきになろう」と思っていた少女だった。

[Anri] ああ、なんてことだ。ひどいよ神さま!

[Narration] 杏里が天を仰ぐ。

[Narration] アンシャーリーはそんな杏里の様子を見て微笑んだ。

[Anne Shirley] お役にたったのかしら?

[Anri] あ……うん、これは何か意味のある情報のような気がする。かなえさんに聞いてみないとわからないけど。

[Anne Shirley] そう。

[Narration] つつ……と、アンシャーリーは杏里に近寄った。

[Anne Shirley] じゃあ、ご褒美をくれるとあたしもボゲードンも喜ぶわ。

[Anri] ……ん? そうだね。

[Narration] 無駄なことは口に出さず、杏里は立ち上がってアンシャーリーを抱き寄せた。

[Narration] ぐい、とその身体が、いったん押し戻される。

sapphism_no_gensou/2121.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)