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sapphism_no_gensou:2091

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[Anri] やあコローネ、今日もふかふかしてるね。

[Nicolle] おいコラ。

[Narration] 開口一番の挨拶が自分でなく犬のコローネへ向けられたものであることに、ニコルは隠すことなく不満を述べた。

[Nicolle] あんた、人の顔見てニッコリ笑って、最初に声かけるのがコローネってのはどういう了見だ、ああん!?

[Anri] ニコル、そんな言葉遣いしていると、国の親御さんが悲しむよ。

[Nicolle] そんな海のむこうの事まで気ぃ配っていられるか。あたしはここで本当の自由を見つけたんだ!

[Anri] 昔は不自由だったみたいな台詞だね。

[Nicolle] やかまし。……で、何の用?

[Narration] にやっとした笑顔を貼り付けて笑うニコル・ジラルド。

[Narration] 口は悪いが気はいいやつ──というご多分に漏れず、いまの諍いも単なる遊び、じゃれあいだ。

[Narration] その辺は、杏里にも重々わかっている。

[Anri] この前の話……面白くなるって話は、覚えてるだろう?

[Nicolle] そりゃあ……ね。

[Narration] あまり興味の無さそうな様子で応えたニコルだったが、前髪をかきあげてやれば好奇心に輝く目が見えたことだろう。

[Nicolle] へへえ、船倉賭博の申し子とまで言われた杏里さんが、このイカサマ博徒の力を借りたいってわけだ。

[Narration] さすがに人通りが皆無というわけではない。やや声をひそめて、ニコルは杏里を覗き込むようにした。

[Nicolle] よしよし、何がして欲しい?なにしろ杏里にゃ、もう六千ニコルから負けがこんじゃあいるからね。

[Nicolle] ほんとだったら生涯の伴侶に連れ添って、墓の中までお供したって、人生一回じゃとても足りないぐらいの大負けだ。

[Nicolle] 少しでも返すあてがあるっていうなら、いくらでも頼ってくれ。

[Narration] そう語るニコルが、別に杏里への借金を気にしているわけでないのは一目瞭然だった。

[Narration] つまりニコルも、杏里の悪企み──とはニコルの弁だが──に参加したくて、たまらなかったのである。

[Nicolle] ええ、どうだい杏里?

[Anri] そーんな大した事じゃ、ないない。

[Narration] いたって気楽に杏里は答えた。

[Anri] まだ、何か仕掛けるほどわかってるわけじゃないからね。

[Anri] それより、ファーストクラスのアルマに会いたいんだ。手だてはないかな?

[Nicolle] アルマ? あ、いや……。

[Narration] 思わず硬い声が出たのを誤魔化すように咳払いして、ニコルは再び杏里に問いただした。

[Nicolle] アルマ・ハミルトン?なんで?

[Anri] いや、それがね……。

[Nicolle] あっ、やっぱいい!聞きたくない。

[Narration] さっきまでの上機嫌を吹き飛ばして、ニコルは杏里の様子を伺った。

[Narration] が、とにかくニコニコ──あるいはニヘラニヘラ──とする表情からは何も読みとれず、ニコルの不機嫌はいっそう強くなった。

[Nicolle] どうせまた、新しい女にコナかけようって魂胆だろ!

[Nicolle] 実際、あんたのキューピットがいったい何本の矢をつがえてるもんだか、ぜひとも知りたいもんだ!

[Anri] どうしたのニコル、人聞きの悪い。

[Nicolle] よく言うよ。他人の耳なんざ気にするタマじゃねえだろ。

[Anri] ──?

[Narration] ますます不審を募らせる杏里を見て、ニコルはまだ何か言いたげにして──黙った。

[Nicolle] やーめた。そうだよな。杏里はそういう奴だったよな。

[Anri] どうしたのさ、ニコル。

[Nicolle] なんでもない。あたしひとり騒いでも馬鹿みたいじゃないか。

[Narration] ぶるぶると首を振ると、さっきまでの激情はどこへやら、ニコルは耳元で囁いた。

[Nicolle] ……で、アルマだって?

[Anri] うん。彼女と直接話をしたいんだけど、邪魔者が居てねぇ。

[Anri] あのウェルズさんをどうにかしないことには、明日の天気の話だってできやしない。

[Nicolle] ま、杏里みたいなのを近づけないのは賢明な判断だろうな。

[Nicolle] ふーむ、あたしはアルマとは特に親しいってこともないんだけど。

[Nicolle] あのウェルズってばーさんなら、ちょっと知ってるよ。

[Anri] へえ、なんでまた?

[Nicolle] これだよ、これ。

[Narration] ニコルは手先でサイ振りの真似をして見せた。

[Anri] バクチ? まさか、あの人船倉賭博に来てるのか?

[Narration] 杏里が驚くのも無理はない。

[Narration] 船内で人知れず、ありとあらゆる賭けを取り仕切る船倉博打と呼ばれる場が設けられている事を知る者は多くない。

[Narration] なかば学生たちの伝説になっているのだが、実在は固く秘密を守られてきたのだ。

[Narration] 見つけるには誰かの紹介を受けるか、でなければ、もともとそうした場を嗅ぎつける能力を必要とする。

[Narration] それはつまり、生粋の博打好きが集まる場所ということなのだが。

[Nicolle] その通り。

[Nicolle] アルマは見ての通り、世間知らずのお人形さんだけどね。

[Nicolle] あのばーさんは、どっちかってーとあたしらに近い嗜好の持ち主だよ。

[Anri] ……そりゃまた……。

[Anri] けど考えてみれば、決して品のいいタイプには見えないもんなあ。

[Narration] 自分の言動は棚に上げ、ウェルズが聞けば顔をどす黒くして怒りそうな台詞をさらっと言う。

[Anri] で、強いの?

[Nicolle] ぜーんぜん。

[Nicolle] ありゃ間違いなく、博打で身を滅ぼすタイプだね。

[Nicolle] あれの同類はともかく、あたしらみたいなのから見ればカモだよ。

[Anri] ずいぶん稼いだみたいだね。

[Narration] それには返事をせず、ニコルはにやっと笑った。

[Nicolle] ま、それが縁でちょっと知ってるわけだ。

[Nicolle] 弱みといえば弱みだな。人前──特にアルマの前じゃ、道徳教育の権化みたいな面してやがるから。

[Anri] なるほど……。

[Anri] いや、でもまずいな。

[Nicolle] なにが?

[Anri] だって考えてごらんよ、船倉博打に参加する人間は一蓮托生。

[Anri] あそこの事がおおやけになったら、指導されるのはウェルズさんだけじゃない。

[Anri] ボクの大事なニコルにまで指導の手が伸びたらと考えると──冗談じゃない、そんなことできるもんか。

[Nicolle] 杏里……。

[Narration] ニコルは面食らったように絶句し、ついでわざとらしく咳払いした。

[Nicolle] な、なんだってあんたはそう──天使と悪魔を使い分けるんだろうね!

[Nicolle] いや、杏里がまったく意識しないでやってるのは知ってるんだけどさ……。

[Narration] 最後はいくぶん尻すぼみになりながら、ニコルは諦め顔を見せた。

[Nicolle] けど、あたしのことはともかく、確かにあそこの事で脅すのは船倉博打の仁義に反してるね。

[Nicolle] しかも御大に睨まれでもしたら……ぶるる、PSを敵に回すどころの話じゃないや。

[Narration] 船倉博打すべてを取り仕切る御大の正体は、杏里やニコルも知らない。

[Narration] それでもひとかたならぬ噂を思い出し、ニコルは身を震わせた。

[Anri] だろう?

[Anri] ……なにか他に、手があればなぁ。

[Nicolle] ……ないこともない。

[Anri] えっ!?

[Narration] あまりに平然と言われたので、杏里はびっくりしてニコルを見た。

[Nicolle] 手は──ある、と思う。あたしも人から聞いた話だから、絶対とは言わないけど……。

[Anri] なに? なんでもいいよ、聞かせてくれ。

[Nicolle] アルマと親しいって奴の友達から聞いた話なんだけど……。

[Narration] いくぶん自信なさげにニコルは切り出した。

[Nicolle] もちろん、アルマがすでに心を許してる友人なら、部屋にだって通してもらえるんだけど、実はその時……。

[Anri] なんだい、歯切れが悪いな。ニコルらしくもない。

[Nicolle] 黙って聞けよ。……つまりその、所持品検査をされるらしいんだ。

[Anri] ……へ?

[Nicolle] 低俗な雑誌、コミック、ビデオに限らずゲームからなにから、アルマの部屋には持ち込ませないってことらしい。

[Anri] そんなことまでしてたのか……。けど、それが?

[Nicolle] ああ、そうやって表面上は厳しくしてるんだけど……実は、けっこうアルマの部屋にその辺の禁制品も持ち込まれてるらしい。

[Anri] ………………。

[Nicolle] 賄賂だよ、ワ・イ・ロ!あのばーさん、賄賂を受け取って、時々目をつぶってるらしいんだ。

[Anri] まさか!あ、いやしかし……。

[Nicolle] いくら給料もらってるかしらないけど、あれだけ船倉博打に手を出してたら、金なんかいくらあっても足りないって。

[Nicolle] 場(バ)が口(クチ)をあけて待ってるからバクチ──ってね。

[Nicolle] あたしの知ってるだけでもずいぶん呑まれてるよ。

[Anri] それで賄賂……か。そんなのが監視役とは、アルマもつくづく不幸な娘だな。

[Nicolle] それについちゃ同感だ。

[Anri] 賄賂か。

[Nicolle] 金はあるんだろ、杏里?

[Anri] 毎月の仕送りを、ほとんど使ってないからね。

[Anri] この船の中じゃ、お金のかかるデート場所なんて限られるし。使い道がないんだよな。

[Nicolle] ……あんまりモノに執着するタイプじゃないもんな、杏里は。

[Nicolle] 賄賂を試してみるんなら──忠告しておくけど、いきなり大金を掴ませるなよ?まずは小金で様子を見るんだ。

[Nicolle] 最初から金のあるところを見せると、調子に乗るからな。

[Anri] 了解。さっそく試してみるよ、ニコル。ありがとう。

[Nicolle] ちぇっ、感謝するんなら……まあいいや、とにかく頑張りな。

[Anri] うん、じゃあね、ニコル、コローネ。

sapphism_no_gensou/2091.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)