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sapphism_no_gensou:2061

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[Anri] 入るよ。

[Narration] ふらりと立ち寄った杏里を一べつだけして、天京院は研究用デスク──と本人の称する散らかった机──の上で行っていた作業を継続した。

[Narration] この気のおけない友人が、研究、実験と称して何かやっている時は、ほとんど周囲に気を配らない事を知っている杏里は、それ以上声をかけず、手近なイスに腰掛けた。

[Narration] ──ややあって、モーターの回転音らしきものが一回、二回……そして、何かがはじけるような音が響いた。

[Tenkyouin] ……失敗した。

[Narration] 続く小さな呟きもまたいつもの事だったので、杏里は友人が気分を切り換えるタイミングを見計らって声をかけた。

[Anri] ねえ、かなえさん?

[Tenkyouin] おはよう、杏里。

[Anri] 少なくとも、おはようと挨拶する時間じゃないよ、とっくに。

[Tenkyouin] ……そうか。どうも、夢中になると時間の感覚がずれるんだ。

[Tenkyouin] それで、何かわかったかい?

[Anri] いや。どっちにしろ、その辺りのことは週末にまとめて。

[Tenkyouin] そうだな。調子はどうなんだ?

[Anri] とりあえず、アルマに会ったよ。

[Tenkyouin] ほう。

[Anri] 思ってたよりかわいい娘だよ!ちょっと変わってるけど、そこがまた愛おしくて。

[Tenkyouin] それはそれは。

[Anri] 世間知らず……というのかな、いや、これが本当に箱入りでさ。信じられないような気分だよ!

[Tenkyouin] ……へいへい。

[Anri] なにしろ、女と女についても無知でねぇ。だからボクが少し教えてやったんだけど…。

[Tenkyouin] はー、どしたどした。

[Narration] 杏里は、ほとんど聞かず次の実験用意を進める天京院に、まったく頓着せず話し続けた。

[Narration] ……一時間後。

[Anri] おっと。もう、こんな時間か。

[Anri] じゃあかなえさん、またね。

[Narration] 喋りたいだけ喋って、杏里は意気揚々と引き上げていく。

[Narration] 天京院は杏里が退室したのを見届けると、深く深く嘆息した。

[Anri] それがねぇ……。

[Narration] 杏里はオーバーアクションで手を振り上げ、首を振る。

[Anri] なんというかまあ、とても進展しているとは思えないね、ボクには。

[Tenkyouin] だったら、こんなところで油なんか売ってる暇はないだろう。

[Narration] 苦笑しながら、天京院はコーヒーの用意を始めた。

[Tenkyouin] どうする?

[Anri] 薄いの。

[Narration] しばらくコーヒーを飲みつつ歓談した後、杏里は部屋から退室していった。

[Narration] 天京院は、その背をやや心配げに見送っていたが、やがて気を取り直したように研究用デスクに向かった。

sapphism_no_gensou/2061.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)