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sapphism_no_gensou:1394

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[Narration] 杏里は解除を試みようとして、釣り鐘に近づいた。

[Narration] ド ドドッ ドォ───ンッ!

[Narration] 何段かに別れた、くぐもった爆発音のわけは、それが直下から響いてきたものであったからだ。

[Narration] 杏里がとっさに吹き抜けを見おろすと、地上に向かったはずのエレベーターが火球となって、炎が今しも吹きあがっくるところだった。

[Anri] ソヨンッ!

[Narration] 駆け戻ろうとした杏里は、何者かに足をはらいのけられ転倒した。

[Narration] 超音速で駆けのぼった衝撃波は、鐘楼全体を大きく揺るがした。

[Soyeon] キャア───ッ!

[Narration] カリヨンは激しく振動し、猛烈にけたたましい音を立てる。

[Narration] その鐘の音をBGMに、杏里を見おろす者がいた。

[Narration] ───レイチェル・フォックスである。

[Anri] ……下に降りたんじゃなかったのか……

[Rachel] ええ。

[Rachel] ……どうなさったの?階段をのぼりきって、腰が抜けてしまったのかしら。

[Rachel] でも良かったわね? 間一髪、爆発に巻き込まれずに、五体満足でソヨンさんに会うことができて。

[Rachel] 先生、ちょっとだけタイミングを見誤ってしまったみたい。

[Narration] うずくまった杏里の、すぐ手の届く場所に手斧がある。

[Narration] またそれはレイチェルのヒールが用意に踏みつけることもできる場所だった。

[Narration] 杏里の視線の動きを、レイチェルは敏感に察知する。

[Rachel] どうぞ?その不格好な武器をとってくださって結構よ。邪魔はしないから。

[Narration] 逡巡しながらも、杏里は素早く手斧を掴み、立ち上がった。

[Narration] レイチェルは余裕たっぷりのまま、ソヨンと杏里のあいだに立ちはだかった。

[Narration] ソヨンは先ほどの衝撃で気を失っていた。怪我をした様子は無い。

[Narration] あたり一面には、きな臭い匂いが立ちこめているものの、炎や熱気までは届かなかったようだ。

[Anri] レイチェル……どうして、あなたなんだ。

[Anri] ボクはあなたを好きになりかけていたのに……。

[Rachel] あら、本当? 素晴らしいわ。

[Rachel] レイチェル・フォックスは、それなりに優秀で、でもすこうしおっちょこちょいで、人に騙されやすい、とても人のいい教師なのよ?

[Rachel] ただ……そうね。誰も知らない一面をこっそりと隠し持っていただけ……

[Anri] ……今からでも遅くない。自首してください。そして、あなたの罪をつぐなってください。

[Anri] ボクは、あなたをこれ以上憎んだりはしたくない。決して。

[Rachel] まあ……本気で言っているのね。ああ……いいわ……

[Narration] 『杏里!』

[Narration] 通信機から届いたのは、天京院の緊張した声だった。

[Anri] ……かなえさん!

[Narration] 杏里はレイチェルから目をそらさぬようにして、通信機に語りかける。

[Anri] いま、カリヨンにいる!

[Tenkyouin] 『無事なんだな! だが下は火の海だぞ』

[Tenkyouin] 『爆発のそばにいたビジターが 数名軽傷を負った』

[Tenkyouin] 『ソヨンもそこなのか? 彼女は───』

[Anri] 今のところは無事だ……

[Anri] ただ、レイチェルもここにいる。ボクの目の前に。

[Tenkyouin] 『…………!』

[Narration] レイチェルは通信機に語りかける杏里を、ニヤニヤしながら静観している。

[Anri] それに、かなえさん。ここにも爆弾がある。釣り鐘型のだ。

[Tenkyouin] 『なっ……何! 残る爆弾はそれ一つだ! あと10分足らずで爆発する!』

[Tenkyouin] 『たのむ杏里、マイクの感度を 最大にしてくれ!』

[Narration] 杏里は通信機に手を伸ばしながら叫んだ。

[Anri] いったい何を考えているんです。ボクとソヨンを道づれにして、ここで心中する気ですか?

[Rachel] ……どうかしら。

[Rachel] 最初は、ソヨンさんが犯されて、焼け死ぬところをじっくりと眺めていただこうと思っていたんだけど……

[Anri] なんだって!

[Rachel] まさか、登ってくるなんてね?

[Rachel] でも私、杏里さんが来てくれてとっても嬉しいの。股ぐらが、いきり立つほどに……

[Narration] レイチェルは隠し持っていたナイフを取り出した。

[Rachel] さあ……遊びましょう、杏里さん。

[Rachel] 船に来たあなたをずっと見ていたの。

[Rachel] 愛してるわ。あなたの純粋で、汚れのない心をね。

[Rachel] 今やその一部に私がいるだなんて……最高だわ…………

[Narration] 火の手のあがった鐘楼のもとに、爆弾捜しに奔走していた人々が少しずつ集まってきた。

[Narration] 杏里・アンリエットがレイチェルと上で戦っているという情報も、通信機を通じてすぐに周知のものとなる。

[Narration] 手近な噴水から水を汲んでは、あびせかけるが、火の勢いは一向に衰えない。

[Narration] 中央制御室の火災の対処に人手をとられていることが痛い。

[Narration] 周囲には強い揮発性の液体の匂いが立ちこめ、昨夜のうちに火勢を強めるなにか仕掛けが施されたのであろうことを伺わせる。

[Sophia] どうも彼女、パーティの準備に余念がないと思ったら、こんな大きな舞台を用意していたのね。

[Sophia] ご苦労さまだこと。

[Chloe] 先生、さがってください。危険です!

[Sophia] 大丈夫よ、本当の危険はちゃんと察知できるから。

[Chloe] 杏里に、爪の垢を煎じて飲ませたいわ!

[Niki] …………

[Narration] ニキは歯を噛いしばって、頭上を見上げている。

[Narration] 時折、鐘楼の影にちらりと白い制服がのぞくたびに、ニキはハッと息をのんだ。

[Narration] 間もなくして、広場にはヘッドセットに向かって叫びながら歩く、天京院鼎も姿を現した。

[Tenkyouin] 杏里!

[Tenkyouin] レイチェルは何か脱出手段を用意しているはずだ。それを奪って、ソヨンと脱出しろ!

[Tenkyouin] まともにぶつかって勝てる相手じゃない!

[Clare] ええっ、ソヨンちゃんが上にいるの?

[Narration] 爆発に巻き込まれ、耳をやられたクラスメートを介抱していた、ビジターズも、天京院のそばに集う。

[Tenkyouin] 爆発まで……残り8分!

[Tenkyouin] 間に合うか。

[Narration] レイチェルは俊敏な動きでナイフを閃かせ杏里に斬りかかるが、杏里はただ退がるばかりで、まともに切り結ぼうとしない。

[Rachel] アンリエット……!見損なったぞ!

[Narration] 表情の険しさに連れて、レイチェルの声は低く、男性的なものになっていく。

[Rachel] 今さら逃げ腰とはな───!

[Anri] レイチェルッ!

[Anri] あなたは……そんなにも、この世界が憎いのか……?どうして受け入れられないんだ!

[Rachel] 興の醒めるようなことを!貴様は俺を楽しませればいい!

[Anri] あなたは子供だ───!

[Anri] まるで、自分で作りあげた積み木の城を、壊して喜ぶ子供だ!

[Rachel] 子供だとォ……!

[Rachel] いいだろう、アンリエット。

[Rachel] 俺の作った舞台をコケにする。本当にいい度胸をしている!

[Rachel] フッ……観客がいなければ燃えないタイプのようだな。では望み通りにしてやる!

[Anri] 観客……?

[Narration] きびすを返したレイチェルは、吹き抜けに戻り、ソヨンを掴み起こした。

[Soyeon] ……うっ……ひあっ……!

[Rachel] 起きろ!この鍵で、その鎖をはずせ!おまえには人質になってもらう!

[Narration] 背後からつかみかかろうとした杏里を、レイチェルは刃を一閃して牽制する。

[Narration] 激しい火花をあげて斧がはじかれた。かろうじて身をかわし、斧で受けた杏里はその衝撃にたじろいだ。

[Anri] やめろっ、ソヨンを巻き込むな!

[Rachel] 巻き込んだのは貴様自身さ!俺を満足させる方法を、じっくりと教えてやる!

sapphism_no_gensou/1394.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)