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sapphism_no_gensou:1392

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[Narration] レイチェル・フォックスは静まり返った部屋から悠然と歩み去った。

[Narration] パーティ会場は低いざわめきに包まれる。

[Narration] 反応はさまざまだ。泣き崩れる者、呆然と立ちつくす者、じっと耐える者、笑うしかない者、とりあえずクスリを飲む者。そして───

[Narration] ───決して絶望しない者たち。

[Narration] 杏里と天京院のそばには、ヘレナやクローエをはじめとする、杏里の子猫ちゃんたちが集結した。

[Coe] コーたちもだよ!

[Anri] やっぱり、レイチェル先生が真犯人だったんだね!?

[Anri] やったぁー!!これでボクは本当に、晴れて自由の身だよ!

[Tenkyouin] すまん。

[Anri] かなえさん、ありがとう!ボクは退学しなくて済むんだ!……って、アレ?

[Tenkyouin] ごめん、杏里。

[Anri] どうしたの?

[Tenkyouin] あたしの過失だ。

[Tenkyouin] ……よもやレイチェルがあんな大胆な手に出るとは!

[Helena] どういうことなの、天京院さん。爆弾なんて、嘘でしょう?この船に持ち込めるはず無いわ!

[Tenkyouin] 確かに、銃器や爆発物に関しては恐ろしくチェックが厳重で持ち込めはしないが……

[Anri] あ……

[Eliza] ……船内で作ることは出来る。そうでございますね? 天京院様。

[Narration] 天京院はこくりと頷いた。

[Anri] かなえさん……自分の発明品が幾つか見つからないって言ってなかった……?

[Narration] 天京院はこくこくこくと頷いた。

[Helena] それって、つまり爆弾は……元は天京院さんの発明品だって言うの?

[Helena] な、なんてものを作っているんですかっ!このマッドサイエンティスト!

[Tenkyouin] …………うううっ

[Tenkyouin] み、ミ、ミキサーはっ!使う者の心の持ち方次第でっ平和利用もできるし、恐ろしい兵器にもなるんだっ!!

[Tenkyouin] あたしが悪いんじゃなァーいっ!

[Nicolle] あーあ、逆ギレだよ。

[Eliza] 天京院様のお部屋から盗まれたのですね……

[Tenkyouin] ちくしょーっ、いったいどうやって……

[Anri] あの部品屋が買収されてたのかっ、それともあの宅配業者か……

[Clare] ちょっと、先輩たち!

[Clare] そんなことより、ソヨンちゃんでしょ!

[Mirriela] そうだ!ソヨンちゃんは助かる、助からない?どうなるんだ!

[Anri] ……そうだ。ソヨン。一刻も早くソヨンを見つけださないと!時間が無い!

[Chloe] ええ、あの子の命を第一に考えてよ!あと30分……いえ、27分30秒で最初の爆発よ? 最後は57分後!

[Tenkyouin] わかってる!

[Tenkyouin] わかっているが……ソヨンの近くに爆弾があるというほのめかしは脅しじゃない。本気だ!

[Tenkyouin] 逆に言えば、爆弾を探すことがソヨンを捜すことになる。

[Anri] 元はかなえさんの発明品なんだ!なんとか外側から爆発しないように、起爆装置を無効化できない?

[Tenkyouin] 簡単に言ってくれるが、盗まれた発明品、──ええいっ──すなわち爆弾の種類は、8個全部異なる。

[Tenkyouin] もし、間違った解除方法を選んでしまった時には爆発するだろう。

[Tenkyouin] だからっ……ああ、整理するとだな。

[Tenkyouin] まずは、残る7個の爆弾の場所を特定。

[Tenkyouin] 次に、それぞれの爆弾の形状・型番をあたしに伝える。折り返し、あたしが解除方法を教える。

[Tenkyouin] その場で発見者が爆弾を解除する。解除そのものは比較的簡単な作業だ。───以上!

[Narration] 天京院は目安になるように、爆弾のそれぞれの形状を、おおまかに伝えた。

[Chloe] すぐ捜しに行くわ。何か、これはしてはいけないという事は?

[Tenkyouin] あたしがOKと言うまで、決して爆弾には触らないでくれ。

[Chloe] わかったわ。

[Anne Shirley] ねえ?

[Anne Shirley] …………どうやって爆弾をさがすのかしら?

[Tenkyouin] ………………え?

[Anri] …………いや。「え?」じゃなくて。

[Tenkyouin] し……しらみつぶし……?

[Narration] 誰もがあんぐりと口を開ける。

[Anri] そ、そんなの無理だよ!この巨大なポーラースターをあと1時間たらずで捜索するだなんて……

[Nicolle] 砂漠に落ちた針をなんとやら?杏里の幸運が、全員にあればなあ。

[Helena] 天京院さん? でも……この船が沈むほどの大爆発なんて、不可能でしょう?

[Tenkyouin] ああ、さすがにあたしの発明品でそれほどの爆発を起こせるはずはないが……

[Tenkyouin] 人の乗れない船にすることは出来るとも。場合によっては、本当に沈めることも可能かもな。

[Tenkyouin] ……大きな声じゃ言えないがなんてったって、この船の原動力は

[Tenkyouin] 『原子力』

[Tenkyouin] ……だからな。

[Nicolle] アハハハハ!またまた、こんな時に冗談キツイよ!カナエー。

[Chloe] ………………

[Helena] ク、クローエさんどうして目をそむけるの!

[Helena] そ、それじゃ……総員の退船を考えるべきじゃないのかしら?

[Tenkyouin] …………それが現実か。

[Coe] だから、ソヨンちゃんはァ!

[Narration] そうやっている間にも貴重な時間は刻一刻と過ぎ去っていく。

[Niki] ………………だ………め……

[Anri] ……ニキ?

[Niki] ……ポォ……ラ……スタ……ァ…を…………沈め……た……ら……だめ………っ

[Niki] …………杏里……が………………戻……っ……て……来れ……ない……

[Niki] ……この……船……を………………沈……めちゃ………………だ……め……っ…………!

[Anri] ニキ……

[Eliza] ニキ様のおっしゃる通りですわ。私もこの職場が無くなっては困ります。

[Eliza] 私の同僚たちも、きっと同じ思いでしょう。限界まで爆弾の捜索をお手伝いいたしますわ。

[Clare] わたしたちも、やるわ!ビジター全員でソヨンちゃんを救いだすんだから!

[Narration] いつの間にか、周囲には60余名のビジターたちが集結していた。

[Clare] ねえ、みんな!

[Narration] オーッ、と一斉に歓声があがった。

[Coe] いざというときは、にげちゃえばいいし!

[Mirriela] コラッ! コー!?

[Anri] ボクらと、メイドたちと、ビジターたち。これで100人以上にはなる。

[Anri] やろう、かなえさん!ボクらだけでも!

[Tenkyouin] ハァ…………きみらは本当に楽天的だなあ。

[Narration] 天京院はフッと息をはいて、笑った。

[Principal] やーやー、話はバッチリ聞かせてもらったよ。

[Anri] 学園長……!?

[Principal] すまないんだけどさー

[Principal] さっきの爆発が思った以上に深刻らしくて、クルーもPSも人員を避けないんだわ。

[Principal] 一応、あたしも船長やってるもんだから、万が一のことは考えないといけない。SOS要請は出させてもらった。

[Principal] 退船の準備も進めてるしね。

[Helena] それが賢明よ。

[Nicolle] なんだよ、ヘレナは一人だけ降りちゃうのか?

[Helena] 馬鹿おっしゃい、私たちの学園(ふね)を、自分自身で救わなくてどうするの?

[Principal] その意気やよし!───というわけで、アンタたちに期待してるよん?

[Anri] よし! じゃあ、みんな頼んだよ!

[Anri] 爆弾らしきもの見つけたら、触れずに、かなえさんに連絡すること!

[Anri] レイチェルを発見しても、やはりすぐに連絡してくれ!

[Anri] 絶対にポーラースターを沈めたりなんかするもんか!

[Narration] オ───ッ!大講堂に、ひときわ大きな歓声が響き渡った。

[Narration] 少女たちは船内に散った。それぞれ小グループとなり、それぞれ無線機と工具を持っている。

[Narration] 『こちらランドリールーム 天京院様、それらしきものを 見つけました!』

[Narration] 最初に爆弾を発見したのは、日頃から船内を清潔に務め、船内の生活区画に明るい、メイドたちだった。

[Narration] 『見慣れない脱水機にミキサーが!』

[Narration] 天京院は、ヘッドセットを装着し、わざわざ大講堂まで運ばせた自分の椅子に座って、精神を集中している。

[Tenkyouin] よし。僥倖だ。まだ触れないように。コンセントを抜くのも駄目だ!

[Tenkyouin] 数字の点滅している部分があるはずだ。読み上げてくれ。

[Narration] 『ハイ! 脱水終了時間を示すメーターが点滅しています。残り時間29分20秒!』

[Helena] 脱水機なんてどうやって運んだのよ……

[Narration] とぶつぶつ言いながら、天京院の脇に控えたヘレナが、ホワイトボード上に記録していく。

[Narration] ──第三爆弾:ランドリー室にて発見

[Narration] 設置された電光掲示板によると、現在の経過時間は10分40秒。第一爆弾の爆発予定時刻は19分20秒後。

[Narration] 30分経過より5分置き、という予定爆発時間から逆算すると、この爆弾は三番目に爆発という計算になる。

[Tenkyouin] それは、一番シンプルな部類に入る。今から解除方法を説明する。

[Tenkyouin] 基本的には、ミキサーを取りはずして解除完了だ。しかし、そのままでは駄目だ。ミキサーに回転ボタンがある。

[Tenkyouin] 右と左の二つのボタンが見えるはずだ。この場合は左のボタンを押す。……いいぞ、押してくれ。

[Narration] おそるおそる、メイドの指がボタンに触れると、猛烈な音を立てて、脱水機とミキサーが回転を始めた。

[Narration] 『ひっ……ひ、左に凄い勢いで回転してます!』

[Tenkyouin] 音はすごいがそれだけだ!そのままドライバーで取りはずせ!ネジ穴がつぶしてあったら、バールでひきはがしても構わん!

[Helena] そんな荒っぽい……

[Tenkyouin] ちなみに右のボタンを押すと、ウンともスンとも言わずに、本体が白熱化して大爆発する。

[Helena] どうして、そんな機構が組み込んであるんですか!

[Tenkyouin] 急速乾燥モードなんだが……やりすぎた。

[Narration] メイドたちは泣きそうな顔で、ミキサーのネジをとりはずした。ゴトッと、ミキサーがはずれた。

[Narration] 『と……取れましたァ! メーターも停止!』

[Tenkyouin] ご苦労! その爆弾は無害化された!他の場所に回ってくれ!

[Narration] 『は……はいィ!』

[Narration] ヘレナは、ホワイトボードに処理済の文字を書き加えた。

[Narration] その後、コンピュータールームと、大廊下にて、立て続けに爆弾が発見され、それぞれ無事にミキサーが解除された。

[Narration] 第二爆弾:〜処理済み〜第三爆弾:〜処理済み〜第五爆弾:〜処理済み〜

[Narration] 第一爆弾:───未発見第四爆弾:───未発見第六爆弾:───未発見第七爆弾:───未発見

[Narration] 以上4つの爆弾がまだ発見されていない。

[Helena] トラックボールマウスとナツメヤシの植木鉢にミキサーって、どういうことなのよ……

[Narration] またぼやきながらヘレナがホワイトボードに処理済みの文字を書き加えていく。

[Tenkyouin] まずいな。意外に順調だが……第一爆弾がまだ発見されていない。

[Helena] 予想爆発時刻は、もうそろそろなのよ?みんな、警戒してっ!

[Narration] ヘレナがせっぱ詰まった調子で、通信機に呼びかける。

[Tenkyouin] 奴の言うことを信じるのか?案外そのあたりに仕掛けてあるかもしれないぞ。

[Helena] お、脅かさないでよ!

[Tenkyouin] ……時間だ。秒読み。5、4、3、2……

[Narration] 予想時刻きっかりに、生活区画の方角から轟音が響いた。

[Helena] 右舷側! 近いわ!

[Narration] 『うッわぁ──────ッ!!』

[Narration] 悲鳴と爆音、そしてゴウゴウと風の吹き抜ける音がスピーカーから響く。

[Tenkyouin] その声は……杏里かっ?

[Narration] 『ボクの部屋がっ!! マイ・バスルームがぁ───ッ!!!』

[Helena] 杏里! 杏里ィッ! 返事をして!

[Narration] ヘレナは半狂乱になって通信機に呼びかける。

[Helena] 杏里! 杏里ったら!

[Narration] 『………………だ、大丈夫……』

[Narration] 『……ふぅー、落っこちるかと思ったァ。 ボクの部屋、海まで吹き抜けに なっちゃったよ!』

[Narration] どうやらたいした怪我は無いらしい。ヘレナは、ふにゃふにゃとくずおれた。

[Tenkyouin] なるほど、杏里の部屋か。挑戦状を御指名で叩きつけたわけだな。

[Narration] 『どうもここ最近、見慣れないボディブラシがオフロ場に置いてあるなあ、と思ってたんだよね』

[Helena] バカ! 気がついてよ!

[Tenkyouin] ふぅ……杏里らしい。まったく強運だな。次の爆発は、15分後か。

[Helena] 逃げたレイチェルも全く見つかつてないし。気がかりだわ……

[Tenkyouin] 脳が疲れた……

[Tenkyouin] あたしは一眠りする。発見者が出たら起こしてくれ。

[Helena] そんな呑気な!

[Narration] ミィー ミィー

[Tenkyouin] ん……? しまった。ヤーンが起きた。

[Helena] こんな時までネコを連れてくるなんて……

[Tenkyouin] 仕方ないだろう、すぐ腹を空かせるんだから!

[Tenkyouin] 何にせよあたしは寝るから、ほい、頼んだ。

[Narration] ぽいと放り投げられた子猫を、ヘレナは慌てて抱きとめる。

[Helena] えっ、ちょっと、どうすればいいのよ!?

[Tenkyouin] そこに立派なタンクが二つもついてる……だろ…………

[Helena] ええ? ミルク?で、出ませんっ!

sapphism_no_gensou/1392.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)