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sapphism_no_gensou:1332

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[Narration] すれ違う学生に笑顔で話しかけながら、教師レイチェルは教員室へ向かっていた。

[Narration] 廊下の曲がり角からその様子を見るのは、ポーラースター少女探偵団。

[Mirriela] ……あの先生が、実は男か女かもわからない怪人なんて……。

[Coe] 男か女かわからないって、どーいうことなんだろ?

[Mirriela] だから、下にもついてるかもしれない……ってことなんだろ?

[Coe] なにが?

[Mirriela] だから、ナニが……コー、へんなこと聞くなよっ!

[Coe] あーん、ミリエラがぶったーっ!

[Clare] ほら、静かに。わたし達は、これから先生を尾行するんだから!

[Narration] レイチェルが怪しいと聞かされた彼女らは、自分たちにできる唯一のこと──すなわち尾行をして、様子をさぐることにしたのである。

[Narration] 天京院はこれまでの経過と情報を惜しみなく説明してくれ、ただいくつか念を押した。

[Narration] ふたりきりにならないこと。直接、問い詰めないこと。人のいないところまで尾行しないこと。

[Narration] もしレイチェルが本当に犯人で、自分が疑われていることに気がついたなら……。どんな行動に出るかわからない。

[Narration] この犯人が相当危険な人物であることは、天京院も重ねて忠告した。

[Narration] 身の安全だけは常に確保すること──それが彼女たちに課せられた義務だった。

[Coe] でも、尾行してなにを見つければいいの?

[Clare] それは……だから、怪しいところを。

[Coe] どうしたら怪しいの?

[Clare] 男子トイレに入っていくとか……。

[Mirriela] ないよ、この船に男子トイレなんか。

[Clare] え……と、それじゃあ……。

[Narration] 3人がごちゃごちゃ言い合っている間に、レイチェルは意気揚々と歩き去っていた。

[Narration] あわてて後を追う。

[Mirriela] だから、ナニがあるかどうかが問題なんだったら、トイレとか風呂を覗けば一発なんだよ。

[Clare] の、覗くの?

[Coe] コー、そういう趣味ないよ?

[Mirriela] あ、あたしだって覗きの趣味なんかないよ!?

[Narration] 言ってから、何を思い出したかミリエラは赤くなって黙ってしまった。

[Narration] クレアとコーはそれに気づかず、会話を進める。

[Coe] 誰かじゃんけんで負けた人が、むぎゅってつかんでくるのはどーお?

[Clare] ダメよ、天京院先輩に、直接問い詰めちゃいけないって言われたでしょう?

[Coe] うーん、じゃあねぇ……。

[Clare] ──あっ!?

[Narration] クレアが短い叫び声を出した。

[Narration] 見ると、レイチェルが化粧室に入っていくのが見える。

[Clare] チャンスよっ!

[Coe] ノゾキするの?

[Clare] せ、正義のためよっ!

[Mirriela] ……これで捕まったら、杏里先輩よりひと足先に退学になったりするのかな……。

[Clare] ……こわいこと言わないでよぉ……。

[Narration] そろそろと、はたから見れば完璧に怪しく、3人は化粧室に入っていった。

[Clare] 他に人はいないみたいね……。

[Coe] あの奥のところにはいってるみたいだよ。

[Mirriela] 足音をたてるなよ……。

[Narration] そろり、そろりと3人は足を踏み入れる。

[Narration] 絨毯のしかれたゴージャスな化粧室は、幸いにも彼女たちの足音を殺してくれた。

[Narration] ようやく、3人が個室にたどりつこうとしたところで──。

[Narration] ジャ──────ッ、と水の流れる音がした。

[Narration] 3人はあわててぶつかり、押し合いながら近くの個室に逃げ込む。

[Rachel] ……ふぅ。

[Narration] わずかな差で、レイチェルが個室から出てくる気配がした。

[Narration] すたすたと歩き、洗面台で手を洗い、化粧室を出て行く。

[Narration] それからしばらく待って、個室から転がるように出てきた3人は、ようやく安堵のため息を漏らした。

[Clare] あぶなかったー。

[Mirriela] 間一髪だな。……覗くのは失敗したけど。

[Coe] えっちだー。

[Mirriela] うっさい。

[Coe] あー、またぶったー!

[Clare] もーう、ダメでしょふたりとも。いまのわたし達は少女探偵団なんだから!

[Mirriela] ……ノリノリでやんの。

[Coe] クレアって、けっこうそーいうの好きそうだもんね。

[Narration] 3人はいったん化粧室の外に出たが、すでにレイチェルの姿はなかった。

[Narration] 仕方なく、クレアの提案で化粧室の中へ戻る。

[Clare] 何か証拠をさがすのよ!

[Mirriela] さがす? どこをさ?

[Clare] たとえば……。

[Narration] クレアの視線の先には、レイチェルの出てきた個室があった。

[Mirriela] あんなところ調べて、なんかあるか?

[Coe] 人のすぐ後にはいるのってやだよね。

[Clare] いいから、ほら、髪の毛一本でも逃さずに調べるの!

[Narration] ミリエラとコーはしぶしぶといった感じではあったが、3人は個室の中を調べた。

[Narration] ――――が、物証になるものが落ちていることもなく、掃除の行き届いた床にはチリのひとつぶも発見できなかった。

[Mirriela] ……だめだな。やっぱ、すぐに後を追ったほうが良かったんじゃないか。

[Clare] う……。

[Coe] ……あれえ?

[Narration] 個室内を眺めていたコーが、いきなり妙な声をあげた。

[Mirriela] なんだよ、コー?

[Coe] ねえ、へんじゃなーい?

[Clare] なにが?

[Narration] そう言って、クレアもコーの眺める個室内を見まわす。

[Clare] ……なにかおかしい?

[Coe] えー、だってさぁ。

[Narration] コーは最新式シャワートイレの便器を指差した。

[Coe] どうして中フタがあいてるの?

[Narration] クレアとミリエラは、コーの指摘したものをしばらく眺め、おもむろに手を打った。

[Mirriela] そうだ……確かに、掃除するときでもないと、あげる必要ないよな、中フタなんて!

[Clare] 男の人は立っておしっこするから、あれを上げるんだよね!?

[Clare] すごい、これ……大発見かもしれないよ!?

[Narration] 色めきたつ3人。──が、そのすぐ近くで、ガタン、という音が鳴った。

[Clare] ……え?

[Mirriela] 隣りの個室に、誰か入ったのかな?

[Anri] ソヨン〜。

[Coe] ……あー、杏里さんだ。

[Clare] えぇっ!?

[Narration] 杏里は個室のひとつひとつに入っては、ソヨンの名を呼びながら便器のフタをあげて覗きこんでいた。

[Anri] ソヨン〜、どこだ〜い?

[Clare] ……壊れちゃってる。

[Mirriela] それより、杏里先輩が通った後って、みんな中フタもあげられてるぞ?

[Coe] あ、ホントだ。

[Anri] ううう、ソヨン……。

[Eliza] 杏里様、化粧室を出る前に手を洗いませんと……。

[Narration] イライザにじゃぶじゃぶと手を洗われている杏里を、3人は情けない思いで見つめた。

[Clare] ……杏里先輩のせいで、さっきの発見が本物かどうか、疑わしくなっちゃったよ。

[Coe] せっかく見つけたのに……。

[Mirriela] どうしよう、結果を報告しろって天京院先輩に言われてるけど、どうする?

[Clare] ……どうするって……。

[Narration] ポーラースター少女探偵団としては、いきなり成果なしという結果は避けたかった。

[Narration] しょうがなく、3人で知恵を振り絞る。

[Narration] 結局、出たアイデアは「レイチェル先生、トイレ早かったね」という、情報だか何だかわからないようなものだった。

sapphism_no_gensou/1332.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)