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sapphism_no_gensou:1301

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[Soyeon] あ、杏里さん…………っ

[Anri] ソヨン…………

[Narration] 朝食を済ませたソヨンと、これからとろうかという杏里は、大廊下でばったり出逢うと、たがいに顔から火を出さんばかりに赤面した。

[Anri] (わっ……うわぁ……っ こんなの久しぶりだよ……)

[Anri] (顔も正視できない……なんて…… まるで子供じゃないか……)

[Anri] (ソヨンもあんなに恥じらって……)

[Narration] 杏里は、それなりにベテランとしてのプライドが揺らがないでもなかったが、それよりもこの新鮮な感覚を喜んだ。

[Narration] それほどまでに二人の交わりは深く、情熱的なものだった。

[Narration] 今朝方───薄明の中、眠るソヨンを抱いて部屋へと送り届けてから、天京院の個室へと立ち寄った。

[Narration] ソファに仮眠していた天京院とクローエのとがめるような視線が痛い。しかし、半ば予想していたように、呆れてもいた。

[Narration] 自室に戻る前に、わざと遠回りしてアルマの部屋の前を通ると、ちょうど反対から部屋を目指してやってくるウェルズと鉢合わせした。

[Anri] (……なぜ、こんな時間に外出を?)

[Narration] ───と奇妙に思えたものの、それは自分にしても同様で、PSを呼ばれでもしたら面白くない。

[Narration] なにより、情事のけだるい疲れが、眠りの世界へ自分を引きずり込もうとしている。

[Narration] ばったりとベッドに倒れ込み、今しがたようやく寝ぼけまなこをこすりこすり、起きてきたところだった。

[Soyeon] お……おはようござい……ます……杏里さん…………

[Anri] おはよう、ソ、ソヨン……い、いい朝だね……?

[Soyeon] あ、はい……

[Narration] 通りがかった露店で、杏里はドーナツと、カフェオレを求める。

[Narration] 二人はゆっくりと歩きながら、中庭へ向かった。天気のことや朝食のことなど、あたりさわりのない話で、なんとか気持ちを落ち着ける。

[Narration] ソヨンはまだすこし表情に朱色を残しながら言った。

[Soyeon] さ、昨夜は、すみませんでした……

[Soyeon] さきほどクローエ先輩とお会いして、あの、部屋まで運んでいただいたって聞きまして……

[Anri] いいや、ボクがお礼を言いたいくらいさ。

[Anri] 眠ってるソヨンは可愛いかったよ。あどけなくて。小さな寝息を立てて。

[Soyeon] は、恥ずかしいです……ホントにあたしったら……

[Anri] いや、本当に可愛かったんだってば。

[Soyeon] あ、杏里さん、お食事はそれだけでいいんですか?

[Anri] うん。朝もちゃんと口に放り込むほうだけど、軽くでいいんだ。

[Anri] それにさ……

[Soyeon] は、はい?

[Anri] いや…………

[Anri] (もうきみでお腹いっぱいさ! ボクの愛しい子猫ちゃん?)

[Narration] そんなふうに、軽口を叩こうとした杏里は、ソヨンのきまじめな性格を思って、言いよどんだ。

[Soyeon] えー?何て言おうとしたんですか?気になりますよー。

[Soyeon] ……あっ。

[Narration] ソヨンは、かくっと膝を折って転びそうになる。

[Narration] とっさに添えた杏里の手にすがって、ソヨンは笑った。

[Soyeon] アハハ、ちょっと体がヘンなんです。

[Soyeon] ちょっと力が入らなくって、でも、なんだかぽわんとして気持ちいいみたいな……

[Anri] そっか、うん。ボクにとって最高の賛辞だよ。

[Soyeon] ?

[Narration] そのまま中庭までやってくると、噴水に寄りかかって新聞を開いていたニコルが顔あげる。

[Narration] 朝の光がまぶしいらしく、畳んだ新聞をバイザーのようにかざして、こちらを見た。

[Nicolle] やあやあ、ご両人。

[Soyeon] おはよう! ニコルさん。

[Anri] 朝からご機嫌だね。ニコル。

[Nicolle] いんや、これから寝つくところ。

[Nicolle] 完徹だもの……この充血した目見てわかんないかなぁ?……ふぁーあ……

[Collone] フォーン……

[Narration] ニコルに合わせ、コローネまで大あくびする。

[Anri] なるほど。でも嬉しそうじゃないか。さては随分かっぱいだ?

[Nicolle] まあね。

[Nicolle] 杏里みたいな、ツキが服着て歩いているような奴以外なら、あたしだって全然イケるんだよ?

[Nicolle] ところで杏里。こんなところでウロウロしていていいの?

[Anri] ん? どういうことだい?

[Nicolle] おや、まだ号外をご覧でない?ほら。

[Narration] ニコルは丸めた新聞を、杏里にポンと投げてよこした。

[Anri] ポーラースター・アドバタイザーか……競馬とゴルフくじの記事ばっかりで、読む所が無いんだよね。

[Nicolle] 中はいいから、一面を見なって。

[Anri] そうそう。このマンガのオチが、いっつも分からないんだ。どこが面白いのか、解説してくれないかなあ。

[Soyeon] シュールですよね……

[Nicolle] ああもう! 返しなよ!あたしが読むから。

[Nicolle] えー、おほん。

[Nicolle] 『またまたまたまたまたレイプ事件発生! 被害者はファーストクラスの アルマ・ハミルトン!!』

[Anri] な、何と!

[Soyeon] ええっ!

[Narration] 三人はニコルの読み上げる新聞に、くいいるように見入った。

[Nicolle] 『ハミルトン嬢の保護者代理人である、クインシー・ウェルズさん(ババア)は、犯行予想時刻の直後、部屋近くから逃げるように立ち去った学生───』

[Nicolle] 『杏里・アンリエット(セカンドクラス・自称レズの王子様)を目撃したと証言している』

[Nicolle] 『PS当局は、杏里が退学を控え謹慎処分中であったにも関わらず、無断で外出し、現場付近を徘徊していたことを重く見て───

[Nicolle] 『先週に引き続き、再度事情を聴取する予定である。これに関して学園長は「朝はやっぱりトーフでしょ」とコメントした』

[Nicolle] ───だそうだよ?

[Anri] じょ、冗談じゃない!

[Soyeon] ア、アルマさん……っ……

[Narration] ソヨンは杏里にしがみつき、がくがくと震えている。

[Anri] だってアルマの部屋には、ウェルズさんがずっと……部屋を離れたとしても、わずかな時間のはずで……

[Nicolle] そんなことないって。

[Nicolle] えーと。ここにも『ウェルズさん(オバン)は事件当時・急な腹痛のため、第三医務室で休養しており』ってあるし。

[Nicolle] ちなみに「第三医務室」ってのは隠語の一種でね……って杏里? ちょっと、聞いとるかい?

[Anri] …………

[Anri] ボクは……ボクはなんてバカなんだっ!また……またなんの罪もない………くそっ…………どうして!

[Narration] ソヨンもまた歯をくいしばりながら、うつむいている。

[Anri] きみとプールで互いのぬくもりを確かめ合っている間に、そんな時に、アルマは……

[Soyeon] えっ……?

[Narration] ソヨンは杏里をぎょっとして見つめている。

[Soyeon] どうして杏里さんが、あたしの見た夢のことをご存じなんです?

[Anri] ……夢? きみとプールで愛を交わしたことが、夢?

[Soyeon] は、はい……

[Narration] そう言いながら、再びソヨンは赤面した。

[Nicolle] ワ、ワーオ……それもまた号外ものだ。

[Anri] ……まさか。夢なんかじゃない! 現実だよ!あんなに、しっかりと抱き合ったじゃないか!

[Narration] ソヨンは血色がみるみる引いて、蒼白になってきた。

[Soyeon] い、いえ、違いますっ。

[Soyeon] あれは、あたしの夢の中の出来事です。杏里さんが、あんなふうに……や、優しくしてくれたのは、みんなあたしの妄想なんです!

[Soyeon] あたしは、天京院先輩の部屋を飛び出してから、杏里さんに助けてもらって、それで……それだけです。

[Anri] 妄想だなんて……っ!お願いだソヨン! わかって!なぜボクの言葉が信じられない?

[Soyeon] どうして……っ……

[Soyeon] ではどうして、そんな事をしたんですか?

[Soyeon] あたし……あたしはそんな事しちゃいけないんです! わ、忘れてくださいっ!

[Anri] そんな事って……なんだい?ボクがきみの体を、舌と指でときほぐして、気持ちよくさせてあげたことかい!

[Anri] きみの望むままに、何度もイカせてあげたことかい?

[Anri] ボクはソヨンを愛しているんだよ?キミだってボクを好きだと言ってくれたじゃないか!

[Anri] 確かにボクは、キミへの愛を焦るあまり、早まってしまったかもしれないけれど……

[Anri] それが……そうして互いに望んでした事が妄想だなんて……忘れろだなんて……っ

[Anri] ひどいじゃないか!

[Soyeon] ……う……ううっ…………

[Narration] ソヨンは顔を覆い隠しながら、嗚咽の声を漏らしている。

[Nicolle] あ……杏里さぁっ……?もうちょっと、穏やかにいこうよ?

[Nicolle] アルマがあんな事になって、ソヨンもショックなんだ。もうすこし落ち着くの待ってからさ……

[Anri] ボクだって、胸が張り裂けそうだよっ……!

[Narration] ニコルは頭を抱えてうめく。

[Nicolle] あーあーあー、どうしたものやら。

[Nicolle] あたしゃ、こういう雰囲気だめだぁー。

[Nicolle] 誰かヘルプに来てよ〜

[Narration] そしてソヨンは無言のまま、カリヨン広場を去ろうとした。

[Narration] その手をはっしと杏里は掴む。

[Anri] ……聞いてくれ、ボクらは何処からか、ボタンを掛け違えてしまった。それだけなんだ。だからっ……

[Soyeon] …………

[Narration] しかし、その杏里の言葉にソヨンは答えず、瞳を燃やして睨みつけた。

[Narration] 杏里はその迫力に気圧されて、思わず手をゆるめてしまった。

[Narration] ソヨンが去って、杏里とニコルがその場に残った。

[Narration] 杏里はよほどショックだったのか、ソヨンを追いかけるどころか、立ち上がる気力すら生むことができず、地面に膝をついたまま呆然としている。

[Nicolle] あ、杏里……?

[Narration] ニコルが肩をゆすっても、まるで抵抗がない。そうこうするうちに、白と赤の制服がちらほらと集まってきた。

[Nicolle] うわっ、やっば……PSじゃんか。

[Chloe] 杏里! 捜したわよ!アルマ・ハミルトンが───

[Narration] PSよりも先にその場にかけつけたクローエは、そのかぎなれない空気に、怪訝な顔をする。

[Chloe] ……ニコル? どうしたの?

[Nicolle] い、いいところへ、クローエ!杏里がグニャグニャになっちゃったよ!逃げるの手伝ってよ!

[Chloe] ああもう、仕方のない人ね!

sapphism_no_gensou/1301.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)