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sapphism_no_gensou:1284

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[Soyeon] はい……あたしの考えたこと、感じたこと、正直に杏里さんにお聞かせします……

[Soyeon] あたし……あたしは……杏里さんが好きです……

[Soyeon] 夜、杏里さんと別れたあとでも、杏里さんのことで頭がいっぱいになって、眠れない時もありました……

[Soyeon] 杏里さんのことを想いながら……その……あの……指で、自分を慰めたりも……して……うひゃぁぁ……ひぇぇっ……どうして……こんな事言えちゃうんだろっ……

[Narration] 杏里は真っ赤になるソヨンを、ほほえましく見つめる。

[Soyeon] ……で、でも……その時もずっと、いけないことをしてるって想いが離れませんでした……こんなのおかしい……あたしおかしくなってしまったんだ……って……

[Soyeon] わからないんです……どちらが本当の自分なのか……

[Soyeon] 友達や後輩に、なにより家族に、誇らしく思われたい自分……杏里さんを好きになってしまった……自分……

[Soyeon] この好き……は……先輩や友人への好きとは違います……

[Narration] ソヨンを押しとどめている何かを、杏里は必死に模索し、そしてある一つの単語へと思い当たる。

[Anri] ねえソヨン……ヤーンって誰だい……?きみの……恋人……?

[Soyeon] ……えっ……どうして……それを……

[Anri] ごめん、キミの寝言で聞かせてもらったんだよ。あの馬屋で。

[Anri] ……もし、キミがその恋人のことを気にしているんだったら……ボクは……身を引くよ。とても悔しくて、切ないけれど……忘れるように努力してみるから……

[Soyeon] ち、違うんです……っ! ヤーンは、あたしの恋人なんかじゃありません!

[Anri] えっ、でも……

[Soyeon] ヤーンは人じゃありませんっ、ヤーンは、あたしの猫なんですっ!

[Anri] えっ……ネコ……?

[Narration] ぽかんと口をあける杏里の前で、ソヨンはこくんと頷いた。

[Soyeon] ヤーンは、あたしが拾った捨て猫なんです……ご存知ですか、杏里さん? あたしの国では、ネコは不吉の象徴とされていて、飼っている人はほとんどいないんですよ。

[Anri] いや、知らなかったよ───ヤーン…ニャーン…そうか鳴き声か───それでもキミは……?

[Soyeon] はい……あたしがまだ小さくて、とても我が儘だったころです。ネコを連れて帰ったあたしは叱られました。でも決して、手放そうとはしませんでした……

[Soyeon] それが一番いいと思って……

[Anri] いいじゃないか。ネコの一匹くらい。

[Soyeon] ……弱っていたヤーンに、何を食べさせたらいいのか、どのくらい暖かくしておけばいいのか、何もわかりませんでした……それでもヤーンはだんだん元気になって……

[Anri] ……うん。

[Soyeon] ……ところがある日、元気になったヤーンは部屋から抜け出して、家族に見つかってしまったんです。

[Anri] じゃ……それまでずっと隠し通して……?

[Soyeon] はい、どうしても飼うことは許してもらえませんでした……

[Soyeon] 父はとても怒りました。国民のために命を張って、軍の仕事をしている兄たちや、父自身のことを、どう思っているんだって……

[Anri] ツキが悪くなるから……だって?そんな、そんなの迷信じゃないか!?

[Narration] ソヨンはさびしげにほほえみを浮かべた。

[Soyeon] 杏里さん、それでも……あたしの国では大事なことなんですよ……?

[Soyeon] 確かに迷信です。でも、それよりも父の気にさわったのは、あたしが家族を騙し、家族のことも軽んじて考えていたという、その気持ちなんです。

[Anri] …………っ……

[Soyeon] 父の激しく怒る様子におびえたヤーンは、その場を逃げ出しました。そして、勢い余って、庭のプールへと落ちてしまったんです……

[Soyeon] ……猫が泳げないなんて、あたしたちの誰も知りませんでした……あたしは必死にヤーンを追いかけて、プールに飛び込もうとしました……

[Anri] 以前は泳ぎも得意だった……

[Soyeon] はい……当たり前のこととして、厳しくしつけられましたから……

[Soyeon] でも、だめだったんです……ヤーンが溺れ死んでしまうと思ったら……全身がすくんで……もう、一歩も動けなくなってしまいました……

[Soyeon] ……ヤーンを死なせてしまったのは……この、あたしのせいなんです……

[Soyeon] あたしが……あの時、あたしが助けられていれば……そもそも家族の言うとおりに、ヤーンを拾って、育てたりなんかしていなければ……あの子は……ヤーンはっ……

[Soyeon] ぜんぶ……あたしの我が儘が引き起こしたことなんです……

[Narration] 消沈したソヨンに、杏里はかける言葉が見つからなかった。

[Narration] 杏里の心には、彼女の家族への怒りがうずまいていたが、それを口にしたところで、ソヨンをまた過敏に反応させるだけとわかっていた。

[Narration] ほんとうは猫が大好きなはずなのに、それを堂々と口にすることが無かったのも、合点がいった。

[Narration] なんども逡巡しながら、杏里はようやく気持ちを落ち着ける。

[Anri] …………ソヨン……それでも、きみは自分の愛をちゃんと貫いたんだ。誰がどう考えようとも、ボクはそんなソヨンが好きだよ……

[Soyeon] ありがとう……杏里さん……あたし……

[Soyeon] あたしも……そんな杏里さんなら……

[Soyeon] ……杏里さんになら……………………

[Anri] …………

[Anri] ………………ソヨン……?

[Anri] ……あの……ソヨン…さん?もしかして……またかい?

[Soyeon] ……ハッ! ね、寝てなんかいませんっ、今夜こそ、絶対に寝たりなん……

[Soyeon] ……………………かー…………

[Anri] わあっ。

[Narration] 例によって、ぐらりと倒れたソヨンの下に、杏里は間一髪もぐりこむ。蹴立てた飛沫で、二人はびしょぬれになった。

[Anri] いいムードだったんだけど……ふぅ……また、おあずけか……

[Narration] ためいきをつき悲嘆に暮れようとしていた杏里は、腕の中のソヨンが目を見開いたままこちらを凝視しているのを見つけて、ぎょっとした。

[Soyeon] ……杏里さん……あたし……寝てなんか……いない…ですよ……ちゃんと……張り込み……しなきゃ……

[Anri] ソヨン? ソヨン?

[Narration] 目の前で手をヒラヒラさせても、ソヨンはまばたき一つしない。半ば意識を保ったままの、なにやら不思議な状態だ。

[Narration] 杏里に、むくむくとイタズラ心が沸き上がる。

[Anri] ……ね、寝てる?……半分だけ起きてるとか?……さ、催眠術?

[Anri] え、えっと……キミの……名前は?

[Soyeon] ……ファン・ソヨンですよ……

[Anri] 家族構成を教えて?

[Soyeon] 父様と母様、それと、歳の離れた兄様が二人……

[Anri] 好きな食べ物は?

[Soyeon] ほかほかごはんとキムチですよ……

[Anri] ははぁ……あ、杏里のことをどう思ってる?

[Soyeon] ……憧れています…ですよ…………だ……大好きっ…………

[Anri] くぅッ……ボクもさ、ソヨン!……じゃあ。

[Narration] 杏里はぎごちなく咳払いをした。

[Anri] んッ……オホン。

[Anri] ボクを……杏里・アンリエットを……愛しているかい……? ボクに抱かれたいと……心からそう願うかい?

[Soyeon] …………

[Soyeon] ……怖いです……怖いけれど、あたし……

[Soyeon] もっと近づきたい……もっと、心を通わせたい……杏里さんが好きだから……杏里さんの望むあたしに……なりたい……

[Soyeon] 嫌われたくない……杏里さんを……失いたくないんです……もうあんな想いをするのは……あんな……つらい想いは……

[Narration] とつとつと語りながら、ぽろぽろと涙をこぼすソヨンを、杏里は再び強く抱きしめた。

[Anri] ソヨン……っ愛してるよソヨン……

[Anri] きみの胸にともった愛のともしびを、消させやしない……そう、どんな風が吹こうとも、ボクが、盾となって守る。

[Anri] ボクはおバカだし、強くもない。人からは後ろ指さされ、犯罪者呼ばわり。だらしがなくて、いつも口先だけのお調子もの。確かにその通りだ。

[Anri] ……でも、信じてほしい。キミを想い、胸に燃えさかるこの愛の炎を絶やすことだけは、断じて無い。杏里・アンリエットの愛は、永遠に、君と共に在る。

[Anri] ……ボクの心をあげるよ……ソヨン……

[Soyeon] …………杏里さん……

[Soyeon] ……痛い……ですよ?

[Anri] あっ……すまない。

[Narration] 腕をゆるめた杏里は、ふと、近くで小走りに駆け抜ける足音を耳にした。

[Narration] 気づかないふりをしたまま、杏里は周囲に気をくばらせる。ソヨンは人形のように、首を前後にゆっくりと揺らしている。

[Soyeon] ………………

[Soyeon] …………かー…………………………かー…………

[Soyeon] ……ハッ……寝てませんっ…………寝たりなんか……は……はっ……

[Soyeon] ……っくしゅ! ……っくしゅ!

[Anri] ああ大変だっ、ソヨン……風邪を……

[Anri] (こ、困ったな……この場を離れるわけにはいかない……足音の主も気になる……)

[Narration] やがて足音は、近くまで来て、ピタリと止まった。こちらを観察しているようにも見えた。

[Anri] (どういうつもりだ……危険かもしれない……気づいてないフリを続けないと……)

[Soyeon] ……かー…………っくしゅ!…………かー…………っくしゅ!

[Anri] そ、ソヨン……もっとボクに寄って……

[Anri] (ソヨンはソヨンで、面白い状態になってるし……でもこのままじゃ本当に………)

[Anri] そうだソヨン、濡れた着物を脱ごう。そのままじゃ、どんどん体温を奪われてしまう。

[Soyeon] ……っくしゅ……オフロ……ですか……?

[Anri] ……えーと……いや、違うんだけど……ここは元々、ローマ市民の浴場でもあり……

[Narration] 杏里がしどろもどろするうちに、ソヨンはもぞもぞと手を動かして、帯をほどこうとするが、なかなかうまくいかない。

[Soyeon] …………コルンがほどけないですよ……?……このままでは……オフロに入れないですよ……

[Anri] コルンって、この帯のことかい?

[Soyeon] ……ですよ?

[Anri] わかった。まかせて。

sapphism_no_gensou/1284.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)