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sapphism_no_gensou:1282

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[Narration] 日曜の日中は、何事もなく過ぎていった。

[Narration] たっぷり休養をとった杏里に対して、一昼夜つきあったクローエは疲労困憊していた。

[Soyeon] クローエ先輩……頭痛、おさまりましたか?

[Chloe] ……ソヨンは元気ね。

[Chloe] 誰よ、レイプ犯の裏の裏をかいて昼間から見張ろう、なんて言ったのは。

[Anri] 大丈夫、クローエ?でも、ゴルフって不思議なスポーツだよね。見ていて最後までよくわからなかった。

[Chloe] ボールを棒でひっぱたくだけじゃないの……ううっ……ちょっと横にならせて……

[Anri] ボクが看ていてあげようか?

[Chloe] あなたは、するべきことがあるでしょう。

[Anri] そうなんだ。そろそろ、ボクは行くよ?えーと、おフロに入ってから。

[Soyeon] あたしもアルマさんの方に戻ります。

[Anri] きみ一人でかい?

[Soyeon] あ、杏里さんだってお一人です。だって、今夜が正念場じゃないですか?

[Narration] 額に乗せた氷嚢を支えながら、クローエがベッドから立ち上がった。

[Chloe] ダメよ、ソヨン……ひとまず天京院先輩の部屋に行くわ。

[Anri] ソヨン、きみは狙われているんだよ。危険なんだ。

[Anri] 迂闊に動いたらいけない。敵の罠に、そのまま飛び込んでいくようなものだよ。

[Soyeon] アルマさんだって危険なんです!

[Chloe] アルマにはウェルズがついているわ。今日だって、ずっと影のように付き添って……痛っっ…………

[Soyeon] それに、杏里さんは……

[Soyeon] 杏里さんだって、ずっと、まるで男の人みたいに振る舞っていますけれど、杏里さんだって女の子なんですよ!?

[Soyeon] 一人でだなんて、危ないことはよしてください!

[Soyeon] PSにすべて事情を話して、あとはあの方たちにお任せしましょう!

[Soyeon] そうすれば……!

[Anri] PSに話してしまったら、ボクらがどれだけ犯人に近づいていても無駄になってしまうよ。

[Anri] かなえさんも言っていたろう?PSの情報は、みんな犯人に筒抜けになっているって!

[Soyeon] でも、杏里さんが……っ杏里さんに何かあったら、誰が助けてくれるんですか?

[Chloe] ……頭に響くんだけど。

[Soyeon] あっ、ごめんなさい……っ

[Chloe] 二人とも落ち着きなさい。

[Narration] 息をあらげて言い争う二人の間に、クローエが割って入った。

[Chloe] ……大丈夫よ、杏里は……。

[Chloe] 杏里はか弱い女の子じゃないし、わたしたちの期待を裏切るようなことは決してしないわ。

[Chloe] 信じなさい、杏里を。

[Chloe] そうすれば……まあ、救われないかもしれないけれど、気分だけなら楽になるわ。

[Anri] 誉めたの?

[Chloe] ええ。手放しの絶賛。

[Anri] ありがとう。でも……なんだか複雑な気分。

[Narration] 杏里は、クローエとソヨンを天京院の部屋まで送ると、部屋に戻って風呂を浴びた。

[Narration] 本当はそのまま目的地であるプールに向かっても良かったのだが、気分を落ち着けたかったのだ。

[Narration] ソヨンと言い合った時の興奮が、いまだに収まらないでいる。

[Narration] こんなふうに時々、ソヨンとぶつかってしまうのは何故なのだろうか。

[Narration] ソヨンは決して我が儘な子ではない。ただ時々とても強情になる。

[Anri] よしっ。

[Narration] 杏里は決心を声にして、浴槽から立ち上がった。

[Narration] もう一度、アルマに逢いに行こう。

[Narration] いつぞやの夜以来、自分はアルマを自然と避けてしまっていたような気がする。

[Narration] ソヨンの気持ちをムダにするわけにはいかない。

[Narration] 付き人のウェルズに何と言われようと、アルマ本人にどう思われていようと、そんなことは問題じゃない。

[Narration] 彼女たちに警告を発して足りないということは無いのだから。

[Narration] 部屋を出る直前、天京院の部屋へと電話を入れた。

[Narration] 『何を言ったんだ、杏里? ずいぶん、しょぼくれているぞ』

[Narration] 杏里は、ソファに沈むソヨンの姿を思い浮かべた。

[Anri] そっか……

[Anri] ……ねえ。伝えてほしいんだ、かなえさん。ボクが間違っていた。

[Anri] ソヨンはか弱い女の子なんかじゃない……ボクはソヨンを護ろうとして……本当は、何かを押しつけようとしていたんだ。ごめんね……って。

[Narration] 『…………』

[Anri] それだけ……

[Narration] 『わかったよ……』

[Narration] ゴッ…ゴッ……

[Narration] アルマの部屋を訪れた杏里は、扉にかかった重いノッカーを打ち鳴らした。

[Narration] きっとすぐに、ウェルズの渋い顔が現れるに違いない。

[Narration] ところが、いくら待っても反応は無い。

[Narration] 不審に思った杏里は、またノッカーを持ち上げた。

[Anri] 留守……かな?夕食とか……?

[Narration] 部屋を離れてレストランのある区画へと足を向けた杏里は、急な不安にかられてまた扉の前に舞い戻った。

[Narration] 扉を何度も拳で叩く。

[Anri] アルマ?アルマ!?

[Anri] 杏里・アンリエットだ!頼むから!中にいるなら返事をして!?

[Narration] 胸が高鳴り、こぶしを痛いほど扉に打ちつけた。

[Narration] ようやく内側から声がした。

[Narration] 「いま、あけます」

[Anri] ───アルマ!?

[Narration] ようやく少女の声を耳にして、杏里はほっと胸をなで下ろした。

[Narration] 扉を開き、おずおずとアルマ・ハミルトンが顔を出した。

[Anri] こんばんわ、アルマ。

[Alma] まあ、こんばんわ杏里様。

[Narration] 深々とおじぎをするアルマには、寝癖を隠すように、帽子が被さっていた。

[Alma] ……あの、私、仮眠をとっていたものですから……すみませんでした。

[Anri] いやボクこそ。いきなり来て、睡眠を妨げてしまったりして……

[Anri] 疲れたんだね、一日中ゴルフをしていたから。

[Alma] まあ……ご存じなのですか?

[Alma] そうなのです。熱中が過ぎて、それですこし陽に当てられてしまって……

[Anri] 本当だ……熱っぽそうだよ?ゆっくり休んでね。

[Anri] そういえば、オバさ……いや、ウェルズさんは?

[Alma] ビッフェに。まだ夕食を済ませていないものですから、ウェルズさんに適当に見繕っていただこうと……

[Anri] じゃあ……今は一人なんだ。

[Alma] はい。ですが、すぐに戻られますわ。

[Anri] そっか……じゃ、時間が無いか。実は、正直に言うとね、今日───

[Anri] ボクや、ソヨンや、クローエは、きみのことをずっと見張っていたんだ。何者か怪しい人影が近づかないだろうかって……

[Alma] まあ……以前、ソヨンさんがおっしゃられていた、犯罪者のことですのね?

[Anri] うん、何でもいいんだけれど。身の回りで何か変わったこと、無かったかい?

[Alma] ……いいえ? 特には。

[Narration] 杏里は他にもいくつかの質問をしたが、アルマには覚えが無いようだった。

[Anri] ───じゃあ、本当に、何も異常は無いんだね?

[Alma] はい。すいません。

[Alma] これ以上、杏里様とお話ししていると、またウェルズさんが……

[Anri] ああっ、そっかぁ……

[Anri] でも、いい? アルマ。少しでも変わったことがあったら、すぐに連絡してよ?

[Anri] ボクは、このまま張り込みで外に出てしまうけれど、かなえさん……

[Anri] 天京院鼎の部屋にかけてくれれば大丈夫。そこにソヨンもいるしね。

[Alma] はい……承知しました。重ね重ね、ご配慮ありがとうございます。

[Alma] ソヨンさんにも、どうぞよろしくお伝えください。

[Anri] うん……それじゃあ……

[Alma] おやすみなさいまし、杏里様。

[Anri] うん、よい夢をね、アルマ……いや、それも変だね……

[Anri] 考えてみたらさ、こんなふうに二人で話せる機会なんて初めてなんだ。

[Anri] ほんとうなら、朝までついていてあげたいんだけど……ボクは、真犯人を捕まえないといけない。

[Anri] まあ、親切にもあのウェルズさんが見張ってくれているわけだし……

[Alma] うふふ……本当に、すぐ戻られますから。

[Anri] そうだね……うん。じゃあ、とにかく、おやすみ。

[Alma] はい。おやすみなさい。

[Narration] 扉の向こうに消えるアルマを、杏里は微笑みながら見送った。

[Narration] アルマも可憐な微笑を杏里に返す。

[Anri] いい子だなぁ……

[Anri] ちょっとマイペースな気もするけどね。さ、そろそろ行かなきゃ!ボクの使命を果たしに!

[Narration] 杏里は船首方向へと足を向けた。

sapphism_no_gensou/1282.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)