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sapphism_no_gensou:1241

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[Soyeon] 夜だとこの部屋も雰囲気がずいぶん変わりますね……

[Anri] 夜の学園の風景というのは、得てしてそういうものだよ。

[Anri] こういった人の思いが交錯する場所には、いろいろなものが染み込んでいるからね……

[Narration] 彼女がまだ京都にいた頃も、よく夕焼けの教室が暗闇に染まるまで、誰かと一緒にいたものだ。

[Narration] もちろん、ただ一緒に夕日を眺めていただけではないが───

[Narration] 二人は、暗闇の中でブラウン管の照り返しだけを頼りに、ハッキングの準備をする。

[Narration] PSの巡回は、たった今やりすごしたばかりだ。次の巡回までは、おそらく15分から30分……

[Anri] よし、天京院式電脳ミキサー取り付け完了。

[Soyeon] あの杏里さん……でもこれってやっぱり犯罪行為……

[Anri] より大きな犯罪を防ぐ為には、まず小さな犯罪から!

[Soyeon] ……何かヘンです。やっぱりやめましょう!

[Anri] しぃーっ! きみの声はよく通るから気をつけて……

[Soyeon] ごめんなさい……

[Narration] なし崩し的に杏里はハッキング作業を押し進めてしまう。

[Anri] よし、プログラムスタート!

[Narration] ディスクを読み出すドライブが唸りをあげた。

[Narration] 『お父様っ! ああんっ、 いいです!』

[Narration] 『そんな深くまで……っ、 凄いです!』

[Anri] !

[Soyeon] ……きゃっ!

[Narration] ソヨンと杏里は大慌てで、ディスクの取り出しボタンを捜した。

[Narration] 『もう絢は、ああっ───  (ブツッ)』

[Narration] 取り出したディスクが、また手から滑り落ち、取り落としそうになるところを何とか掴まえる。

[Soyeon] ……ハァ……ハァ……口から心臓が飛び出るかと思いました……

[Anri] ごめんごめん。昼間のゲームを入れっぱなしだったよ。

[Anri] かなえさんから、預かったのはこっち。

[Soyeon] あ、杏里さん……もう……っ。念のためスピーカーの電源、切っておきますよ?

[Anri] ウィ。

[Anri] なんだか、夜中に大人の番組をこっそり見てる気分だね。

[Soyeon] 知りませんっ。

[Anri] さて、今度こそ……プログラムスタート!

[Narration] プログラムは順調に読み込まれ、動作を開始したようだ。

[Narration] 画面には、進行度合いを表す画像が表示された。

[Narration] どうやらデータの塊をあらわすらしい果物やら野菜やらが、画面上から次々と降ってくる。

[Narration] 下に待ちかまえて、次々とそれらを粉砕するのは当然ミキサーである。

[Soyeon] なんだか、すごいですね……

[Anri] かなえさん、凝りすぎ……

[Narration] 画面が赤くフラッシュした。

[Narration] なにか硬そうなものがミキサーに引っかかっている。

[Narration] 蟹

である。

[Anri] とれとれぴちぴちの蟹が……

[Soyeon] ミキサーの中で暴れて……

[Narration] ウィーン……

[Anri] あ?

[Soyeon] え?

[Narration] マシン側面に取り付けたミキサー(本物)が突然、駆動しはじめた。

[Anri] わあっ、何だこれ!こんなの聞いてないよ!

[Soyeon] 大変です、と、止めないと!

[Anri] 止まれ止まれっ!

[Narration] ウィーン! ウィンウィーンッ!!

[Anri] 仕方ない、えいっ!

[Narration] 杏里がマシンからミキサーを引っこ抜くと、騒音は鳴りやむが、画面上のカニはぞろぞろとあふれ出してしまった。

[Soyeon] 杏里さん、蟹が! 蟹が!

[Narration] ミキサーをマシンに再び装着すると、画面上のミキサーもブレードをフル回転させて、カニを木っ端微塵に粉砕する。

[Narration] ウィ───ンッ!ウィウィウィウィ───ンッ!!

[Narration] 絶好調である。しかし、

[Anri] ど、どうしたらいいんだ!?

[Soyeon] な、何かで音を消しましょう!

[Anri] それだ!

[Narration] 杏里は部屋の椅子からクッションを拾い集めて、ミキサーの周囲に押しつけた。

[Narration] ブゥ……ンッ……ブゥゥンッ……

[Narration] 機転が功を奏して、なんとか蜂の羽音ほどには収まった。

[Soyeon] あ、杏里さん! 見てください!エビです! 巨大なエビが!

[Narration] あらかた蟹は片づけ終わったが、今度は先ほどの蟹とは比べものにならない、立派な風格をしたエビが出現する。

[Narration] ヴィヴィヴィヴィ───ン!!ヴィッヴヴヴッィ───ン!!

[Narration] ミキサーは相当負けず嫌いな性格らしく、猛然と回転している。かなり本気だ。

[Soyeon] あ、杏里さぁーん!

[Anri] ボ、ボクも手が離せないよ!ええっとぉ、な、何かかぶせる物っ!

[Narration] はたと杏里は、ソヨンを見た。

[Anri] それだよ!ソヨンのチョゴリを!

[Soyeon] ええっ!?ダメです!

[Anri] 一緒にサウナに入った仲じゃないか!

[Soyeon] それとこれとは違います!

[Anri] ソヨンはボクがPSに捕まって、監禁されちゃってもいいのかい!

[Soyeon] そ、そんな!

[Anri] 次に捕まったら、ボクは間違いなく退学になる!頼むよソヨン!

[Soyeon] わ、わかりましたようっ!一度だけですからね!

[Narration] ソヨンは椅子の上に登り、体を折り曲げてチマの裾をつかむ。

[Soyeon] 杏里さん、しゃがんでっ頭を下げてくださいっ

[Anri] えっ? ……

わぁっ☆

[Narration] ふわりと杏里の頭からチマがかぶさる。

[Soyeon] …………

[Narration] 少女は律儀にも、杏里ごと上から抱えこむようにして押さえつけ、すこしでも音が静まるように奮闘している。

[Anri] 着たままでなくても、脱いでくれればよかったんだけどなあ……

[Anri] ああ、でも一度これをやりたかった……シヤワセ……

[Soyeon] あ、杏里さん! 喋ったら……っ!く、くすぐったいです!

[Anri] えっ? 振動でよく聞こえないっ

[Soyeon] ひゃああ、くっ……ぷ……くくっ……

[Narration] ソヨンは顔を真っ赤にして、恥ずかしさと、こそばゆさに必死に耐える。

[Narration] 画面上ではミキサーとエビが最後の激戦を繰り広げている。

[Narration] ヴ……ヴヴ…………ヴヴヴ…………ッ

[Soyeon] はぁ……っ……くっ……ふっ……やっ……ふあっ……ひ……ふむっ……はぁ……っ……

[Anri] (なんだかすっごく暑く……)

[Anri] (酸素もだんだん……ああでも、 いっぱいのソヨンの香りに包まれて 死ねるのならいっそ本望かも───)

[Narration] 二人が意識を失おうかという寸前、画面のフラッシュは停止し、メッセージが表示された。

[Narration] エビは完全にシュリンプペースト状になって、白旗をあげている。

[Narration] 「ご苦労様でした…… ディスクを抜いてお持ち帰りください。」

[Narration] 「なお、ミキサーは証拠隠滅のため、 3分以内に海に捨てましょう……」

[Narration] 「……爆発します。」

[Narration] ディスクをガシュッとイジェクトして、マシンは我関せずとばかりに沈黙した。ミキサーも電源を落とされて、ようやく唸るのをやめる。

[Soyeon] ……あ、杏里さん、杏里さんっ!

[Anri] ん〜ソヨン〜もうちょっとでパライソに行けるんだよ〜

[Soyeon] その前にバラバラになっちゃいます!爆発しますよ!

[Anri] ええっ! かなえさんっ!

[Narration] 二人は、ディスクを取り出すと、なんとか侵入の痕跡を消し、部屋を飛び出した。

[Soyeon] 杏里さん!もっと早く!

[Anri] そんなこと言っても重いんだよ意外と……っ

[Narration] ……………………

[Narration] キィィ…………

[Narration] 二人の姿が消え、入れ替わりに部屋へと入ってきた人影があった。

[Narration] 人影は落ち着いていて、しばらく前から、その場を観察していたようでもある。

[Unknown] ………………

[Unknown] …………ガキどもめ……。

sapphism_no_gensou/1241.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)