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sapphism_no_gensou:1174

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[Narration] そして猫の問題だけが残ったわけだ。

[Narration] 当の小さな生き物は、自分の行く末も知らず、少女の膝の上で眠っている。

[Anri] なんて名前にするんだい?

[Soyeon] えっ……?

[Anri] ソヨンが飼うんでしょ?

[Soyeon] ごめんなさい……わたし……猫は……飼えません……

[Anri] ええっ……? 困ったな……。じゃあ、ボクが飼おう!

[Chloe] だめよ。絶対だめ。杏里に生き物なんか、飼えるわけがないわ?

[Chloe] 子猫に何を食べさせたらいいか、杏里知ってるの?

[Anri] うーん、ネズミかな?捕れたてホヤホヤのイキのいいやつ。

[Chloe] マンガじゃあるいし。いきなりそんなもの、食べられるわけないでしょう。

[Anri] じゃあ、ミルクだ。

[Chloe] ミルクもだめ。

[Chloe] 普通の牛乳じゃ子猫は消化できないし、栄養も足りない。母猫の母乳に代わるものじゃないとダメなのよ。

[Anri] でもボク、おっぱいは出ないよ。

[Chloe] わたしだって出ないわよ。ついでに言うと、わたしはいやよ。

[Chloe] 成猫ならともかく、子猫なんて騒音と騒動のかたまりだわ。

[Narration] クローエと杏里は残るニキを見た。

[Niki] …………

[Narration] 二人の脳裏に浮かんだのは、薄暗い部屋の中で膝を抱えて座っているニキと、その横で、腹を空かせて鳴きさけぶ子猫の姿だった。

[Narration] 時計の針だけがぐるぐると回っていく。

[Narration] 二人はぶるぶると首を振って、想像をうち消した。

[Narration] ニキはだめだ。こと世話のかかりようでは同レベルだ。

[Narration] クローエは、きつい調子にならないよう優しくソヨンに訊ねた。

[Chloe] ……ソヨンは飼いたくないの?この学園では、動物を飼うのは歓迎もされていないけど、一応黙認されているのよ。

[Soyeon] ……すみません。

[Anri] ボク、ソヨンは猫がとても好きなのかと思ってたよ。

[Soyeon] ………………えと……その……

[Chloe] ……ソヨン?

[Anri] うーん、弱ったな。

[Soyeon] ……どなたか、この子を貰ってくださる人はいないでしょうか?

[Narration] ソヨンは悲痛な面もちで言った。

[Narration] ガックリと肩を落とした杏里とソヨンは、天京院の居室兼、研究室へとやってきた。

[Narration] オイルにまみれていた子猫は、タオルで拭かれ、本来の毛並みを取り戻しつつあった。

[Narration] 今は二回目のミルクを飲みおわって、また寝息を立てている。

[Anri] かなえさーん! いるかーい?

[Narration] 室内に天京院の姿はなく、バスルームからはシャワーの音が聞こえる。

[Anri] おや、シャワー中か……

[Soyeon] どうしましょう?

[Anri] 聞いてみよう。かなえさーん!

[Narration] 杏里は、脱衣室へ首を突っ込んで叫んだ。

[Anri] ねえ、かなさーん!ボクだけど!

[Narration] 『なんだ!』

[Anri] あのさぁー!実は子猫を拾ってしまって、飼い主がいなくて、困ってるんだよ!

[Narration] 『なんだって? 今、髪を洗っていて手が離せないんだ! あとにしてほしいんだが!』

[Soyeon] うわぁ……あの長い髪を洗うんですね……大変そうだ……

[Anri] もう、どうしようもなくて……!かなえさんに相談しに来たんだよ!

[Narration] 『またそれか……!』

[Narration] 『ああ、もういいから…… そこに置いていけ!』

[Anri] ホントに!? いいの?

[Narration] 杏里は喜びいっぱいの顔で振り返る。

[Anri] やったよソヨン!なんと、意外なことにかなえさんがOKしてくれた!

[Soyeon] えっ……ホントですか!?

[Soyeon] ありがとうございます! 天京院先輩!このご恩は一生忘れません!

[Narration] 『なんだ? ……ソヨンまで? わかったから、あとで見ておくって!』

[Soyeon] とりあえず当面必要なものも、ここに置いていきます!

[Narration] 『わかったわかった! いいから二人とも出ていけ!』

[Narration] 杏里とソヨンは、室内から清潔なダンボール箱をひっぱってくると、中にカゴを置いて、眠っている子猫をそっと移した。

[Anri] 意外なこともあるものだ。考えてみたら、かなえさんならずっと部屋にいるし、きっと猫の体のことなんかも詳しいだろうからね。

[Soyeon] よかったね……いい人に拾われて。ほんとによかった……

[Narration] 名残惜しむように子猫を抱き寄せたソヨンの目には、喜びの涙が滲んでいた。

[Narration] 二人はそっとその場を離れた。

[Narration] バスルームから出た天京院は、首がまがるほど重くなった髪を、専用のバスタオルに包んだ。

[Tenkyouin] ふう……まったく、あいつらと来たら……

[Tenkyouin] 夜討ち朝駆けで、遠慮も何もあったもんじゃない……

[Tenkyouin] ……ん? なんだこれは。さっき言っていた証拠品か……?

[Narration] 脱衣籠のすぐ隣りに置かれたダンボール箱に目をとめる。

[Narration] 箱に入れられたカゴには、天京院のかえの下着が、ちょこんと乗せられていた。

[Tenkyouin] 杏里だな……?またこういう愚にもつかぬイタズラを……

[Narration] 下着をひょいとつまみあげた天京院は、ぴしりと氷の彫像のように硬直した。

[Tenkyouin] の……のわぁ……っ!!

[Tenkyouin] ……な、なんだ……これ!!

[Tenkyouin] ぎ、ぎにゃぁ〜〜〜〜〜ッ!!

sapphism_no_gensou/1174.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)