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sapphism_no_gensou:1171

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[Narration] 杏里。ソヨン。そしてクローエ。

[Narration] 三人は固唾を呑み、広場の中央に立つ一人の少女に注目していた。

[Narration] ───少女ニキ・バルトレッティは、目をとじて、じっと耳を澄ましている。

[Narration] ほかに人の姿もなく、広場は噴水の水音と4人の心臓の音だけが支配する。

[Anri] (……そういえば 大丈夫かい……? 噴水……)

[Narration] 緊張にかたまっているソヨンに、杏里は小声で語りかけた。

[Soyeon] (は、はい……なんとか……)

[Soyeon] (本当は怖いんです……けど…… ちょっと大きめのお風呂だって 思って……)

[Anri] (うん。偉いね)

[Narration] じょじょに噴水の勢いはゆるみ、完全に停止する。

[Narration] 入学以来、彼女たちの経験したことのない静けさが、ベールとなって広場を覆った。

[Anri] ありがとう、クローエ。

[Chloe] ───別に。

[Chloe] 顔なじみの船員に、水質点検の時間をちょっとずらしてもらっただけ。

[Chloe] あまり長くは止めらていられないから。

[Anri] たぶん平気さ。カリヨンの鳴る間だけだもの。

[Chloe] カリヨンのゴースト?

[Anri] ニキはそう言っているんだ。確かに聞こえるって。

[Chloe] 初耳ね。

[Soyeon] か、カリヨンを鳴らす……?まさか子供の幽霊たちが鳴らしているんじゃ……

[Anri] ふふっ……かもね?

[Anri] ニキは、ずっとこの音をさぐっていて、たまたまこの前はゴルフ場のコローネに行きついたらしい。

[Soyeon] そうだったんですか。ニキさんって、本当に耳がいいんですね。

[Chloe] 良すぎよ。船を半分またいでいるじゃない。

[Anri] 来てくれるかい、クローエ。

[Chloe] そうね。いいわ。

[Chloe] たとえゴーストといえども、わたしの知らない設備がこの船にあるなんて、落ち着かないもの。

[Niki] ……………………

[Narration] 杏里とニキが肌と肌を重ねた夜。船内をめぐっているうちに自分で見つけたものを、ニキはぽつぽつと語って聞かせた。

[Narration] ニキは唐突に杏里のもとにやってきて、自分の見つけたものを、語って聞かせた。

[Narration] カリヨンが鳴り終わったあと、どこからか、山びこのようにその響きを送り返してくるものがある、と───

[Narration] すぐに噴水の音に紛れてしまう、ごくかすかな音なのだが、それはとても素晴らしい音色に聴こえる、と。

[Narration] 以前は、そんな音、聞いたことが無い。正体は何なのか……

[Narration] 杏里にも原因を察することはできなかったが、どこかクローエの話と符合する部分があるのでは───そう、直感した。

[Narration] 杏里は手の中の懐中時計に目をやった。

[Anri] (そろそろだ)

[Narration] ───時刻ちょうど。自動演奏装置が最初のCの鐘を叩いた。

[Narration] 天から降りそそぐ太陽の光と鐘の音を、ニキは一身に浴びている。

[Narration] 杏里はそんな少女の姿を、目を細めて見つめた。

[Narration] メロディは終わりに近づき、最後にひときわ強く鐘が打たれると、広場にはふたたび静寂が戻った。

[Niki] …………

[Narration] 少女はぴくりと瞼をふるわせた。胸元で手を握り合わせたまま、いっそう強く集中する。

[Anri] ……なにか聞こえる?

[Chloe] ……いえ。

[Soyeon] …………

[Narration] やや離れた場所に立つ彼女たちには、やはり何も聞き取ることはできなかった。

[Narration] 大廊下のアーチをくぐり抜けていった鐘の音も、しまいには外の波間へと旅立ち、どこかに反響を隠しているようには思えなかった。

[Narration] 耳に手を当て懸命に耳を澄ますソヨンも、同様らしい

[Anri] …………ふぁーあ。

[Narration] 思わずあくびが出る。ニキがおずおずと振り向いた。

[Anri] あ……ごめん。静かにしなきゃね。

[Soyeon] 杏里さん、ニキさん……呼んでいるのでは?

[Anri] ……え?

[Narration] ニキは杏里の足下をじっと見つめている。

[Narration] 三人が近寄ると、少女は首でリズムをとり、指揮者が乗りうつったように指先を動かした。

[Narration] メロディが終曲に達する。ニキは、最後の一打をシンバル奏者へ指示するがごとく、水面を鋭く指さした。

[Narration] ───その瞬間、水面は平坦なままでいながら、水中にあった落ち葉に、ざわめきが生じた。

[Anri] ……!

[Narration] 魔法のように、水中でふわっと浮き上がった葉に、目を見張る。

[Narration] また水音が戻ってきた。

[Narration] 噴水の中に出現した水柱は、たちまち魔法の痕跡をかき消してしまう。

[Narration] しかし確かに彼女たちは見た。

[Niki] …………

[Narration] ニキは物憂げに視線を落とすが、逆に杏里は興奮気味になってきた。

[Anri] なんだろう、今の!見たよね? ね!

[Narration] 問答の必要もなく、ソヨンもクローエもこくりと頷く。

[Narration] クローエは顎に手をやって黙考した。

[Anri] いったいどこで鳴っているんだ。

[Anri] ……どう、クローエ。何かわかった。

[Chloe] …………

[Narration] つい、とクローエは歩き出す。腕組みしながら広場を大股で横切るクローエは噴水からやや離れた場所に立った。

[Chloe] 水が音をつたえやすいのは、さすがの杏里でも知っているわね?

[Chloe] 噴水の配管はこの下を通ってるの。上水がこちら、下水があちらよ。

[Chloe] カリヨンのゴーストが潜んでいるのは、おそらく、このどちらかの方向に違いないわ。

[Anri] よし! それだけ分かれば!

[Narration] 杏里たちは手分けして配水管の先をさぐった。

[Narration] 4人は背をかがめて、真っ暗な通路を進んでいく。背後から差し込んでいた光も、じょじょに薄らいできた。

[Narration] クローエはぶつぶつと愚痴をこぼした。

[Chloe] 手抜き工事だわ。

[Chloe] 徹底的に糾弾しないと。

[Chloe] 現場監督は断罪されるべきよ。

[Anri] まあまあ、クローエ。おかげで発見できたんだから。結果オーライだよ。

[Chloe] まったく……隙間をしっくいで塗り隠すなんて……

[Narration] ゴーストの探索中に、一休みしようとしたクローエが壁に手をつくと、その途端に壁がごっそりと抜け落ちた。

[Narration] 開いた隙間に倒れ込んだクローエは、したたかに頭を打ちつけたのだった。

[Chloe] 別にいいのよ、醜いものは醜いままで。身の程を知らずに取り繕うのって、いちばん醜悪だわ。

[Anri] はいはい。クローエが美しくてよかったよ。

[Chloe] 人の話を聞きなさいよ。

[Narration] 4人はガラガラと瓦礫を踏み分けながら、肩幅ほどしかない隙間へと分け入る。

[Narration] カビくさく、むせかえる程に空気はよどんでいる。誰もこの場所を通ったことが無いのは瞭然としていた。

[Narration] 先頭を進む杏里の足下には、造船時から残っているらしい、瓦礫とも工事中のゴミともつかぬ有象無象の物体が堆積している。

[Anri] (犯人も知らないような場所じゃ、 捜しても無駄かな……)

[Anri] イテっ!

[Narration] 飛び出したパイプに頭をぶつける。

[Soyeon] 大丈夫ですか!?

[Anri] う……ここ、飛び出してるから気をつけてね…………アイタッ!

[Soyeon] 杏里さん!?

[Anri] くぅぅ……っ今度はスネを……ううう……

[Narration] これ以上痛い思いをしたくない杏里は、よぎる不安を追いやって、障害物へと集中した。

[Narration] やがて進む先から、ぼんやりとしたオレンジ色の光がとどいた。

[Anri] これは……

[Soyeon] ……ど、どこなんですか?まだポーラースターの中ですよね?

[Narration] ひろがる世界は、まるでカタコンベ(地下墓所)のようだった。

[Narration] 杏里はもちろん、クローエにとっても初めて目にする場所だ。

[Chloe] 石壁に……石畳……?悪い冗談だわ。

[Anri] また学園名所が増えてしまったみたいだねえ。

[Narration] どこから電力が供給されているのか、ところどころにオレンジ灯がともり、かろうじて足下を照らしている。

[Narration] 歩くぶんには問題はなさそうだ。

[Narration] 地下道は一本の大きな通りになっている。自分たちが出てきたのは、その細い枝道の一つだった。

[Narration] クローエは道の奥へ目を凝らして言った。

[Chloe] 広場から進入してきた方向からして、こっちが船首、こちらが船尾ね。

[Anri] また二択かい?

[Chloe] ……手分けしましょう。時間が惜しいわ。

[Anri] 危険だよ。

[Chloe] それはそうね。だったら二人ずつで。

[Anri] うーん、それなら……

誰と組もうか───?

ソヨン、一緒に行こうね?

[Soyeon] ───あたしとですか?は、はい!

[Anri] じゃあ、クローエはニキと頼むよ。

[Chloe] ええ。了解したわ。

[Soyeon] クローエ先輩、ニキさん、気をつけてくださいね?

[Chloe] ソヨンも気をつけてね。特に、すぐ近くにいる要注意人物に。

[Anri] えっ! だだだ誰誰誰?どこに何が隠れてるって?

[Chloe] ……無事をお祈りしておくわ、ソヨン。

[Soyeon] …………だ、大丈夫ですよ?

ボクとおいで……ニキ。

[Anri] (ニキの身振りに一番通じているのは このボクだ……だったらここは……)

[Narration] 杏里が目くばせをすると、ニキはそっと杏里の影に寄り添った。

[Anri] じゃあ、ボクはニキと行くよ。

[Chloe] わかったわ。くれぐれも頼んだわよ。ソヨン、行きましょう。

[Soyeon] はい、クローエ先輩。杏里さんたちもお気をつけて!

[Anri] ウィ。

しょうがないなあ、クローエは。

[Anri] しょうがないなぁ〜、クローエ。やっぱり、きみにはボクがついてなきゃねえ〜。

[Chloe] どこに手をまわしてるの。なれなれしい。

[Chloe] だいたいあなた、本気?ソヨンとニキを二人で行かせるなんて。

[Anri] もちろん、二人にだってボクがついていくよ。なにしろボクは、彼女たちの身を保護すべき先輩なんだもの!

[Chloe] それはわたしも同じ。だったらどうして私と組むの。

[Anri] だって、クローエも好きなんだもの!

[Chloe] そういう問題じゃない!

[Chloe] それじゃあ、4人対0人でしょう。手分けした事にならないじゃない!

[Anri] あ、そうか。

[Anri] ああ、このボクが2人いれば!

[Anri] いやいっそ4人!8人! 16人!

[Anri] えーと16の倍は……

[Narration]  

   

ガンッ

[Anri] ────────がっ!!

[Chloe] 真面目に決めなさい。

[Anri] はーい……

で、誰と組もうか───?

ソヨン、一緒に行こうね?

[Soyeon] ───あたしとですか?は、はい!

[Anri] じゃあ、クローエはニキと頼むよ。

[Chloe] ええ。了解したわ。

[Soyeon] クローエ先輩、ニキさん、気をつけてくださいね?

[Chloe] ソヨンも気をつけてね。特に、すぐ近くにいる要注意人物に。

[Anri] えっ! だだだ誰誰誰?どこに何が隠れてるって?

[Chloe] ……無事をお祈りしておくわ、ソヨン。

[Soyeon] …………だ、大丈夫ですよ?

ボクとおいで……ニキ。

[Anri] (ニキの身振りに一番通じているのは このボクだ……だったらここは……)

[Narration] 杏里が目くばせをすると、ニキはそっと杏里の影に寄り添った。

[Anri] じゃあ、ボクはニキと行くよ。

[Chloe] わかったわ。くれぐれも頼んだわよ。ソヨン、行きましょう。

[Soyeon] はい、クローエ先輩。杏里さんたちもお気をつけて!

[Anri] ウィ。

sapphism_no_gensou/1171.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)