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sapphism_no_gensou:1161

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[Nicolle] やあ、アンリエットくん。

[Collone] オン!

[Narration] いつもなら天京院鼎が高々と脚を組んで座っているはずの椅子には、亜麻色の髪の少女が座っていた。

[Narration] 背もたれに寄りかかるように、椅子に逆さまに座っている。

[Anri] あれ、ニコル? と、コローネ。

[Anri] かなえさんは……?それに、ソヨンも来るはずなんだけど?

[Nicolle] カナエには留守番を頼まれたよ。

[Nicolle] ソヨンだったら、ビジターズにつかまってた。しばらくは遊ばれてんじゃない?

[Nicolle] で、あたしはといえば、ちょっと、琥珀色の飲み物をご相伴させてもらおうと思って来たんだけど……

[Narration] 少女はカップを見て、顔をしかめた。

[Nicolle] カナエのコーヒーは、変なこだわりがある割に、味はめちゃくちゃだなとは、思っていたけど……

[Nicolle] いつにもましてひどい!

[Nicolle] 砂糖が頭を出すほど入れないと、飲めたもんじゃないよ。

[Anri] それじゃ砂糖水だ。

[Nicolle] あたしが本場のエスプレッソを布教してあげなきゃ。

[Narration] ニコルはぴょんと椅子から飛び降りると、壁ぎわに積み上げられた、発明品の(なれのはての)山へ登頂をはじめた。

[Nicolle] ええっと、モカはどこだい……なんだいミルばっかりじゃないか。それともミキサー? 見分けがつきゃしないよ。

[Narration] ガラクタの山に昇って乱雑に機械類をかきわけるニコルを、杏里は心配そうに見あげた。

[Anri] 部屋のものをいじると、怒られるよ?ボクも暇だとついやるけど。

[Nicolle] どうせガラクタの山じゃん。

[Narration] あれでもない、これでもない、とかきまわしているうちに、待ち人が現れる。

[Narration] ガチャ、と扉をあけた天京院の背後から、ぴょこりとソヨンも顔を出す。

[Soyeon] お待たせしました! 杏里さん!

[Tenkyouin] あたしの部屋を、待ち合わせの喫茶室にするんじゃないと言ったろ。

[Anri] どうも、かなえさんの顔を見ないと落ち着かないんだよね。あとコーヒーも。

[Nicolle] 日本人の味覚はどうなってんだ。いったい。

[Tenkyouin] それからニコル、何してる。

[Nicolle] あきれたよ、カナエー。

[Nicolle] これだけコーヒーミルがあって一つのモカもないの?

[Narration] ソヨンがきょとんとする。

[Soyeon] モカって、コーヒーの種類ですか?

[Anri] ううん。ニコルの言ってるのは、エスプレッソ・コーヒーを湧かすポットのこと。

[Soyeon] あっ、あのシューッて鳴る、二階建てのポットですね。

[Anri] うん。

[Tenkyouin] モカならそっちの棚だ!そもそも、きみの忘れ物だぞ。困るじゃないか。整理整頓しておいたのに。

[Nicolle] どこが? 整理整頓に失礼だよ。

[Tenkyouin] とにかくこの部屋にムダなものは一切ない! ちゃんと場所を覚えているんだから、勝手に動かさないでくれ。

[Nicolle] わぁかったよ。ごめんよ、カナエ。……わわっ、わっわ!

[Narration] そう言いながら、ニコルが降りようとすると、突然どこかのミキサーが回転を始め、ガラガラと山崩れが起きた。

[Tenkyouin] うっぐ……っ

[Collone] オンオンッ!

[Soyeon] ニコルさんっ!

[Narration] 顔をしかめる天京院をよそに、ソヨンと杏里は、埋もれたニコルを助け起こした。

[Anri] ケガない?コローネがここ掘れワンワンしてくれなかったら、永久に見つけだせないところだったよ。

[Nicolle] んなオーバーな。ぶぇっ……ぺっ、ぺっ!

[Narration] 四人はニコルの入れたエスプレッソを飲みながら、本だらけの机を囲んでいた。

[Nicolle] コローネに?

[Soyeon] 匂いをたどらせるんですか?

[Anri] うん。そうなんだ。

[Anri] ヘレナがPSから手に入れてくれた証拠品───これには、被害者のアイーシャと、そして犯人の匂いがついてるはずだ。

[Nicolle] 警察犬の真似事か……そんな芸を仕込んだ覚えはないけれど。

[Nicolle] まあ、コロがいいって言うなら、いいけどね。

[Collone] ウォウ……?オンッ!

[Anri] そっか、ありがとうコローネ。じゃ、決まりだ。

[Soyeon] あの……コロちゃんは何て?

[Anri] ウォウ……オンって。

[Nicolle] ちがうよウォーウ……オンだろ?

[Anri] ちがうちがう。

[Collone] ウォウォーウ……ハッハッハッ……

[Nicolle] ウォオウ? オンオンッ!

[Anri] ウウウウ〜、ワウワウッ!

[Tenkyouin] やかましい。野生に還るんじゃない、二人とも。

[Nicolle] クゥ〜ン……

[Soyeon] 天京院先輩はどう思われます?

[Tenkyouin] …………無謀ではある。杏里じゃなければ、思いもよらないアイデアだ。

[Soyeon] す、すみません……

[Soyeon] 実は、あたしもコロちゃんに手伝ってもらえたらなあ……って楽しみに……

[Nicolle] ……頭の中身までお似合いだね、まったく。

[Anri] いやあ、それほどでも。

[Tenkyouin] ……言うまでもないが、こちらはワラでもすがりたい心境だ。言うまでもないが、こと嗅覚や聴覚においては、人間と犬では比べものにならない。

[Tenkyouin] そんなにいい証拠品が手に入ったんだ。匂いが薄れないうちにやってみるといい。

[Tenkyouin] 海風というマイナス要素はあるが、幸い日曜からは一度も雨が降っていない。やるなら今のうちだろう。

[Anri] うん。じゃ、出かけてくるね。

[Soyeon] コロちゃん、お願いします。

[Collone] オンッ!

[Tenkyouin] ふぅ……あたしは、この崩壊した発明の山をどうにかしないとな。

[Tenkyouin] ニコルも、かたづけ手伝ってくれるんだろうね?

[Narration] ニコルは苦笑いして頭を掻いた。

[Nicolle] あ、いや、あたしは杏里とソヨンについてっちゃおうかなーなんて。面白そうだし。

[Tenkyouin] なんだと? 勝手な奴だなあ。

[Nicolle] それにほら、あたしがいないと、コローネも安心して集中できないと思うんだよね。うん。

[Anri] あ、それはあると思うな。

[Tenkyouin] はぁ……わかったわかった。行って来なよ。

[Soyeon] ごめんなさい、天京院先輩。

[Narration] 杏里たちのあとから部屋を出ようとするニコルを、天京院が呼び止めた。

[Nicolle] な、なに?

[Narration] 天京院は、今しがた使用したばかりのモカを手にとり、返すがえす眺めている。

[Tenkyouin] よければ今度、エスプレッソの入れ方を教えてくれないか?

[Tenkyouin] その、なんだ。

[Tenkyouin] ……なかなか美味しかった。あたしは別に味にうるさく言う方じゃないが……エスプレッソも悪くない。うん。

[Nicolle] うん。いいよ。

[Nicolle] カナエの頼みとあれば、おやすい御用だ。まあでも、一番美味しいカフェはね、誰かと一緒に飲むカフェだと思うよ。

[Tenkyouin] ……ああ、そうだな。

sapphism_no_gensou/1161.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)