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sapphism_no_gensou:1154

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【00:07:00】

[Anri] えっと、仕事中だったかい? イライザ。

[Eliza] そう言っても差し支えありませんけれど……ニキ様の付き添いです。

[Anri] え……ニキ?

[Narration] イライザの背後から、サウナ室の扉に体重をあずけるようにして、ニキが顔を出す。

[Niki] …………

[Narration] びくびくと見上げるような視線を、蒸気のこもる室内に向けると、寄りそって腰かける杏里とソヨンの姿が視界に入った。

[Narration] と、開きかけた扉はまたすすすと閉じてしまった。

[Anri] ニ、ニキ!

[Narration] 思わず立ち上がった杏里の背に、ソヨンが声をかける。

[Soyeon] 杏里さん、もう出られるんですか?じゃあ、あたしの勝ちですね?

[Anri] うっ!

ど、どうしたらいいのさ!

ニキを追いかけるとも!

[Anri] わかった!ソヨン、くやしいがきみの勝ちだ!

[Eliza] 杏里様どこへ?

[Anri] ごめんね、ソヨン、イライザ。失礼するよっ! おやすみ!

[Soyeon] ハイ、おやすみなさい! 杏里さん!

[Narration] 杏里の姿が消えて、パタンと扉が閉まると、イライザはやれやれと腰に手をおいた。

[Soyeon] ニキさん……やっぱりまだ、人前にあがるのが苦手なんですね。

[Narration] ソヨンが入学して以来、クラスメートのニキ・バルトレッティの顔を見たのは、数えるほど。このサウナで見かけたのも、はじめてだった。

[Eliza] ……ええ。

[Narration] ソヨンの勘違いをイライザは特に訂正もしない。

[Soyeon] 杏里さんやイライザさんみたいに、あたしもニキさんと仲良くなれればいいのにな。

[Narration] イライザはまぶたを降ろし首をふった。

[Eliza] ……私にもまだニキ様は遠くに見えます。

[Eliza] 心を通わせるというのは、難しいことですね。近づいたと思った心も、振り子のようにまたすぐ離れていきます。

[Eliza] 好かれるより、好きでいつづけるほうが、ずっと、うまずたゆまずな努力が必要なのかもしれません。

[Soyeon] あの……失礼ですけれど、イライザさんは、杏里さんとは元クラスメートだったと、お聞きしています。

[Eliza] はい。

[Soyeon] お二人は以前から親しかったんですか?

[Eliza] 杏里様ですか?いいえ? 大嫌いでした。

[Soyeon] ……嫌いだったんですか?

[Eliza] ええ、それはもう。不愉快でなりませんでしたわ。

[Narration] そう言って、イライザはくすりと微笑んだ。

[Eliza] なにしろあの方ときたら───毎日、何かしら相手の良いところを見つけては、それはもう誇らしげに、語って聞かせるものですから……

勝負続行

[Anri] あ、あああ……ニキ……行ってしまった……。

[Narration] ゆもじ姿のイライザが肩をすくめる。

[Eliza] ニキ様は気が変わられて、シャワーになさるようですね……。

[Eliza] どうぞ杏里様はご心配なく。私におまかせください。

[Eliza] こう見えても、私たち気が合うんです。

[Narration] 職業的な微笑とも、本心からのものともつかぬイライザのほほえみ。杏里は戸惑いつつもうなずいた。

[Anri] う、うん。お願いするよ、イライザ。

[Eliza] どうぞ、ごゆっくり。のぼせすぎにご注意くださいね?

[Anri] は〜い……

【00:11:30】

[Anri] …………むわむわむわ。

[Soyeon] …………むわむわ。

[Anri] ……むわわわわわ。

[Soyeon] ………………むわ。

[Soyeon] どうしたんです、杏里さん。言葉少なになって。

[Anri] 死んだおばあちゃんが、おいでおいでしてる……

[Narration] また少女が二人、サウナルームに姿をあらわす。

[Soyeon] わ……

[Narration] 思わずソヨンは息をのんだ。少女はどちらも異なる魅力をそなえている。

[Narration] かたや、白磁のごとく透き通る、すべらかで豊満な肉づきの体。

[Narration] かたや、鍛えられすらりと細く引き締まった、若鮎を思わせる肢体。そして、無造作にかきあげられた黒髪。

[Helena] あら、先客かしら?

[Helena] こんばんは?あの……どなたかしら……?

[Narration] ヘレナはしげしげと目をこらす。

[Anri] 見つめられると照れちゃうなァ。

[Helena] ……!

[Chloe] 誰かと思ったら……それにソヨン?

[Soyeon] こんばんは!先輩たちも、今日はサウナですか?

[Anri] さっきから千客万来だね、いったいどうしたの?

[Chloe] 知らないの? ボイラー室のトラブルで、部屋の浴室ではお湯が出ないのよ。

[Anri] ええ───ッ! そんなあ!

[Soyeon] ほんとに全然、気づきませんでした。

[Chloe] 大浴場のほうも似たようなもので、それでこちらに来たのだけれど。てっきり杏里もそうなのかと。

[Helena] まさか杏里……?ソヨンさんを力づくで連れ込んで……

[Anri] やだなあ。ヘレナじゃあるまいし、そんなことしないよ?

[Helena] 私はそんなことしません!

[Chloe] されるのよね。

[Helena] クローエ!?

[Chloe] ……べつにサウナに同室したくらい、不謹慎にはあたらないわ。

[Anri] そーだよ。裸と裸のつきあいさ。立派なコミニュケーションだとも。

[Chloe] ……ただ、杏里がその場に居るだけで、何もかもがイヤらしく見えてきてしまう。それだけ。

[Soyeon] い、いやらしく……そうなんですか?

[Anri] 知らないけれど、ボクは今、自分がアイスクリームになって溶けてく気分……

[Anri] ……ボクって何味?

[Soyeon] ええっと、チョコミントでしょうか?なんとなく。

[Chloe] グリーンティー。

[Helena] そんなほろ苦いのは、杏里には似合わないわ。安っぽいコーヒーキャラメル味でじゅうぶんよ。

[Anri] ヘレナは紅茶もケーキも甘〜いのが好きだものねぇ〜。

[Helena] ハッ……そ、そうじゃなくて。杏里? 見るからにのぼせ気味よ。

[Helena] いったい、いつからここにいるの?

【00:16:50】

[Anri] そんな昔のことは覚えてないなァ……

[Chloe] 勝手になさい。熱でダメになる頭でもなし。

[Chloe] さ、ソヨン。そのふやけた人は放っておいて、一緒に水につかりましょ。

[Soyeon] えっ、いえその、いまここを出るわけにはっ……

[Chloe] ……なにかまずいことでも?サウナルームに込もりきりじゃ、ムニエルになっちゃうわよ?

[Soyeon] す、すみません! クローエ先輩の頼みでも、そ、それだけはっ!

[Chloe] ソヨンがそんなに薄情だったなんて。飼い犬に手を噛まれるとは、このことね。

[Soyeon] あわ、あわわ。

[Helena] ちょっと、何もそんなに……

[Chloe] いいえ。ここは、わたしとソヨンの信頼関係が試されているのよ。

ソヨンピンチ!?

がんばれクローエ

[Chloe] いくわよ、ソヨン。抵抗しても無駄よ。

[Narration] クローエはソヨンの腕をがっしりと掴んで引きずっていく。

[Soyeon] あ、杏里さん〜〜っ

[Anri] ごめん、ソヨン。ボクも辛いんだっ。村の暮らしを守るために仕方なく……わかってくれっ。

[Helena] ソヨンは牛や馬じゃないのよ。

[Soyeon] 杏里さん、杏里さ〜〜んっ!いやぁ〜〜〜〜ッ!!

[Anri] ああ……あんなに扉に必死にへばりついて……ふがいないボクを許しておくれ。ううう……

[Helena] ……あなたもそんなボロボロ涙を流すくらいなら、引きとめればいいでしょうに。

[Helena] そもそもなあに?二人で暑さ比べでもしていたの?

[Anri] ううう……そう言えなくもなくないことも……

[Anri] …………あ……れ?

[Helena] なに?

[Anri] ソヨンが……水に……?

[Anri] だ、ダメだよ!ちょっと待ったクローエッ!

[Narration] すでに遅く、サウナ室の曇ったのぞき窓の外で、盛大な水しぶきがあがる。

[Helena] まあ、クローエさんったら……ふざける時も荒っぽいんだから。

[Anri] ソ、ソヨンッ!

[Narration] サウナルームから飛び出し、観葉植物の垣根の向こうにあるプールへに急行した杏里は、その水面にひろがる波紋の中心へと目を注いだ。

[Anri] ソヨ───ンッ!

[Narration] すぐさま水中に飛び込もうと身構えた杏里の動きが止まる。

[Anri] ……あれ……?

[Narration] 水面に黒髪を広げ、くらげのように浮かび上がったのはクローエだった。

[Narration] 半ば沈んだまま、恨めしそうに杏里を見上げている。

[Anri] …………無事かいクローエ?……ソヨンは?

[Chloe] ……一本取られたわよ。

[Chloe] 無我夢中で投げ飛ばされて……あとはあの通りよ。

[Narration] クローエの視線を追うと、プールサイドから出口まで一直線に、椅子やら机やら植物の鉢やらがなぎ倒されている。

[Helena] まるで竜巻でも通り過ぎたようね。

[Narration] ヘレナはあきれ顔で腕を組んだ。

[Helena] ちゃんと後かたづけしておくのよ?

[Anri] やっぱりボクがやるんだね。……わかってるよ。ボクの自業自得さ!ハイ! はーい!

もちろんソヨンをかばう

[Anri] クローエ、悪いね。ボクとソヨンはもう、切っても切れない、かた〜い絆で結ばれているんだ。

[Helena] えっ……? どういうことなの?

[Anri] だってボクは、ソヨンのパートナーなんだから。

[Soyeon] ……そ、そうなんです……その……杏里&ソヨン探偵社の誓いで……

[Soyeon] ……そ、そうなんです……その……杏里&ソヨンリサーチの先輩後輩として……

[Soyeon] ……そ、そうなんです……その……ポーラースター調査委員会の規約で……

[Soyeon] ……そ、そうなんです……その……アソカ団の鋼鉄のオキテと申しますか……

[Helena] あ……そう。

[Chloe] だったらあなたも一緒に来なさい、杏里。その色ボケした頭を冷やすといいわ。

[Anri] うっ……

[Soyeon] じ、じつは、あたしたち強化特訓中なんです! 今日は虎の巻・火の章・湯けむり地獄旅情編の強化メニューを……

[Helena] 今度はソヨンさん? また奇妙なことを吹き込んだわね? 杏里……

[Narration] 杏里は首をぶるぶる振っている。

[Soyeon] ごめんなさい、クローエ先輩っ

[Chloe] ……ちょっとからかっただけよ。悪かったわね、ソヨン。

[Anri] 心配せずとも、ボクの愛は平等だよ?ヘレナもクローエも、ちゃあんと可愛がるさ。

[Anri] なんなら今晩にだって、しとねに愛を運び何度でも夢見心地に───わぷっ!

[Narration] スパーンと音を立て、杏里の顔面に手ぬぐいが張りついた。

[Narration] 見るとヘレナが髪を乱し、胸を隠すのも忘れて仁王立ちしている。

[Anri] むーっ、むぅーっ!!

[Chloe] じゃあね。熱いもの好きも、ほどほどになさい。やけどしない程度に。

[Soyeon] は、はい! 先輩!

[Chloe] ……ソヨン。サウナでくらい、肩の力を抜きなさい?……杏里みたいに年中、オツムがゆるみきっているのも、どうかと思うけれど。

[Anri] むむぅーっ!!

sapphism_no_gensou/1154.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)