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sapphism_no_gensou:1151

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[Narration] 午前の授業を終えたばかりの、まだにぎやかな教室。

[Narration] 軽やかな笑い声をさざめかせ、少女たちは少人数ごとの集団になって散っていく。

[Narration] 杏里は出口わきの壁に寄りかかり、頭のうしろに腕を組んで、そんな少女たちを眺めていた。

[Anri] (楽しそうだな……)

[Anri] (噂ばなしくらいだったら、もう伝わっているだろうに……)

[Narration] またもやレイプ犯による犠牲者が出たばかりというのに、彼女たちの様子はまるで他人事のようだ。

[Narration] 一人の少女が目にとまる。その名は杏里も胸に焼きつけていた。

[Narration] スウェーデンの林業王の娘、アルマ・ハミルトンだ。

[Anri] やあアルマ。えっと、一人?

[Alma] 杏里様……

[Narration] きょろきょろしている杏里をうかがうように、アルマが言った。

[Alma] ウェルズさんでしたら、まだお迎えにいらっしゃってないようです。

[Anri] しめた! 

[Alma] おしめしたのですか?

[Anri] ああいや、ちょっときみに話しが───!

[Narration] 杏里が本題を持ち出す間もなく、当の本人クインシー・ウェルズが顔を出す。杏里はその迫力に思わずあとじさった。

[Anri] し、心臓に悪いよ……

[Wells] 失敬な!

[Wells] さ、お嬢様、お部屋に戻りましょう。昼食のご用意も整っております。

[Anri] すこし彼女と話す時間をいただきたいんですが?ウェルズさん?

[Alma] ウェルズさん。わたしも杏里様にお訊きしたいことが───…………

[Narration] アルマは口をぱくぱくさせながら、ウェルズに引きずられて小さくなっていく。

[Anri] あー…… アルマ…………

[Nicolle] ありゃ。とりつくシマもなし、ってね?

[Anri] ニコル、コローネ。

[Collone] クゥ〜ン?

[Nicolle] 杏里といえども、あのお嬢さまの攻略だけはちょっと無理じゃないか? オバさんがくたばらない限りはさ。

[Anri] そうもいかないよ。彼女だって、犯人に狙われている一人なんだから。

[Nicolle] お、それって初耳。カナエの推理?

[Anri] うん、そうだよ。

[Narration] 「そのうち一人は見事正解したんだ」。そんなセリフを杏里は飲み込んだ。

[Nicolle] でも、あんながっちりガードされているのを知っていて、わざわざ狙いをつける犯人もいるかなぁ?

[Anri] そうだけど、ハードルは高いほど燃えるものさ。ニコルだって、賭け事は大きい方がいいだろう?

[Nicolle] そりゃあ同感だけど。

[Nicolle] ところで災難だったね、杏里。ずいぶん早くシャバに戻れたじゃないか。

[Anri] うん、心配かけた。レイチェル先生のおかげなんだよ。

[Nicolle] へえ。あの、おっちょこちょいで少女趣味のセンセーが? なんでさ?

[Nicolle] あ、わかった。そういやセカンドの担任だったっけ? ふーん、やるじゃん。

[Anne Shirley] おかえり、杏里。おつとめご苦労さま。

[Narration] 杏里は口をとがらせた。

[Anri] みんな意地悪だなあ。

[Anri] おつとめとか、シャバだとか。もっと素直にボクの解放を喜んでくれる、ピュアな心の持ち主はいないの?

[Nicolle] ピュアねえ……あたしにとっちゃ、馬鹿正直と同義語だな。いまどきそんなストレートな感情表現をするのは、ソヨンくらいじゃないか。

[Anri] うん。ボク、ソヨンに逢いに来たんだ。

[Anne Shirley] ソヨンなら、前の休み時間のあいだ中、クマみたいにうろうろしていたわ。

[Nicolle] クマ? あっははは。たしかに体じゅうで心配しているふうだったなあ。

[Anri] ……姿が見えないけど?

[Nicolle] クマさんなら、鐘が鳴った瞬間に飛び出していった。

[Anri] えっ? 行き違っちゃったんだ!?

[Anri] ありがと! ニコル、アンシャーリー。ボク行くよ!

[Nicolle] ハイハイ、おあついことで。

[Narration] 杏里が去るとアンシャーリーは、ニコルの手をくいっと握った。

[Nicolle] なに。なにさ。どういうこと。あたしはノーマルだよ?

[Anne Shirley] 杏里をのぞいて……?一緒にランチにしましょう? ニコル。あたしのおごり。

[Nicolle] アンからクスリ以外のものを貰うだなんて、珍しいな。ま、いいけど?

[Nicolle] このところ負けが込んでて、いいもの喰ってないんだ。昨日もおとついもコンビーフサンド。

[Collone] ウォウ……

[Anne Shirley] ……彼の食費までつぎ込んでいたの?困ったご主人ね。じゃあ、あなたにもおごってあげるわ。

[Collone] ウォーウ!

[Narration] 授業中もずっと付き添っていたコローネと、二人が教室を離れようとすると、今度はソヨンがその場に顔を出した。

[Soyeon] ハァッ……ハァッ……アンさん、ニコルさん……!

[Nicolle] ん? どうしたいメロス?息切らせて。

[Anne Shirley] アテナイならまだ先よ?

[Nicolle] コラコラ、死ぬまで走らせる気か。

[Soyeon] ハァ……ハァ……えっと、あの、杏里さんはこちらにいらっしゃいませんでしたか?

[Narration] ニコルとアンシャーリーはちらりと目を見合わせた。

[Anne Shirley] 杏里なら、ソヨンを捜しに行っちゃったわ。廊下でバッタリしなかった?

[Narration] アンは鼻先でぱちんと手のひらを合わせる。

[Soyeon] ええっ!?

[Nicolle] うん、たった今。自分の部屋にでも戻ったんじゃない?ソヨン目当てに。

[Soyeon] あーん、おっかしいなぁ……

[Narration] 二人に頭を下げると、少女はあわてて飛び出していった。

[Nicolle] なにやってんだ、あの二人は?

[Anne Shirley] 初々しいわ。そう……例えるなら、ラブラブ。

[Nicolle] ラブラブ。

[Anne Shirley] うらやましいのでしょ? ニコル。

[Nicolle] うるさいな、それよりメシ!メシにしよーぜ!何おごってくれるのさ?

[Anne Shirley] 日本の伝統料理なの。『セップク』の店主おすすめ。

[Nicolle] なにそれ。

[Anne Shirley] ヤキモチ。

[Narration] 合流した二人の足は、落ち着く場所を求めてさまよい、やがて乗馬場へと向いていた。

[Soyeon] 杏里さん?

[Anri] ボンジュール、ソヨン。マドモアゼルをお迎えに…………

[Anri] ………………

[Soyeon] どうしたんですか、黙ってしまって。

[Anri] いい……すごくいい……っ

[Anri] ボクが間違っていたよ!トレビアーン! もひとつトレビアーン!

[Anri] チョゴリだけじゃない!制服だって、とおっても似合ってる。すこしもちんちくりんなんかじゃないよ!

[Soyeon] そ、そうですか? どうもこの格好だと落ち着かなくて……でも、そう言ってくださると嬉しいです。

[Nicolle] なに言ってんだい、杏里。下ばっかり向いてるじゃないか。

[Soyeon] 下? 足に何か付いてますか?

[Nicolle] おおかた、普段チマに隠れてるナマ脚を見られて感激してるのさ。

[Anne Shirley] どれどれ。じぃー…………

[Soyeon] ひゃっ、アンさん。そんなところに座り込んで!……あ、杏里さんまで!

[Anne Shirley] ふーん、これが若さというものなのね。

[Anri] ぴちぴちして、お肌の張りが違うよね?

[Anne Shirley] 若い子はうらやましいわ〜。歳はとりたくない。

[Anri] あ、糸くず発見!

[Soyeon] ひゃああああ…………っ!くすぐったいですよ!

[Anne Shirley] 内股にサソリのタトゥーもはっけ〜ん。

[Soyeon] きゃはははは!

[Narration] しゃがんで囲み、ソヨンをすくみあがらせたり、くすぐったりしている二人の首根っこを、ニコルが強引につまみあげる。

[Nicolle] あんたたち、校内セクハラで訴えられたいかぁ?

[Narration] 猫のようにぶらさがった杏里が、唇をとがらせた。

[Anri] ……またすぐに常識ぶるんだから。

[Nicolle] じゃあ、誰が止めるんだ。ったく。

[Narration] ニコルやアンシャーリーと一緒の昼食を済ませると、二人の足は、落ち着く場所を求めてさまよい、やがて乗馬場へと向いていた。

sapphism_no_gensou/1151.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)