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sapphism_no_gensou:1132

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[Narration] 翌朝。

[Narration] 霧を割いてうっすらと朝日が差し込むなか、ソヨンは、船内時間6時00分00秒きっかりに飛び起きた。

[Narration] 両瞼をつり下げたまま、はしはしと干し草を叩き、ちょうど手に当たった杏里の鼻を、しきりに押し込む。

[Narration] 結局一睡も出来ないまま、うつらうつらと船をこいでいた杏里は、なにごとかと目を見開いた。

[Anri] 痛い、痛いってば、ソヨン!それはボクの鼻!

[Soyeon] …………

[Narration] 無言のままソヨンは馬房から出ると、ちょうど馬が喉を潤していた水桶の前にかがみこみ、じゃぶじゃぶと顔をゆすいだ。

[Narration] さっぱりして意識を取り戻すかと思いきや、その場で服の帯をほどきはじめ、呆然としていた杏里も、慌ててソヨンを押さえ込んだ。

[Anri] おはようソヨン! ところで、ここはキミの部屋じゃないんだ!

[Soyeon] ですよ……?

[Anri] 着替えるのは、戻ってからにしよう!ね!?

[Soyeon] ……ですよ。

[Anri] だめだこれは。

[Narration] どうにかこうにか、ソヨンを自室へと連れ戻し、扉を出てばったり出会ったのはクローエだった。

[Chloe] 杏里……?

[Chloe] ここは確か……ソヨンの部屋じゃない?あなたまさか───

[Narration] クローエはさっと杏里を一瞥し、その充血しきった眼や、ほつれた髪、寝乱れた衣服の様子を見てとると、それ以上追求することなく無言で戦闘態勢に移行した。

[Anri] ちょ、ちょっと、待った! きっと何か勘違いしていると思うよ!

[Chloe] …………杏里・アンリエットらしからぬ往生際の悪さね。

[Narration] 聞く耳もたず迫るクローエを、杏里は必死に説得した。

[Anri] だ、だったら、ソヨンに聞いておくれよ。中にいるから。今、制服に着替えてる。

[Chloe] いいでしょう……確かめさせてもらうわ。逃げたら……

[Anri] 逃げない。逃げません。

[Narration] 部屋の中に消えたクローエは、しばらくして、眉間を指で支えながら顔を出した。

[Chloe] ……意味不明な返事だったけど、一応無事のようだったわ。

[Anri] ふぅ……だろ?ボクも部屋に戻ってもいいかい?

[Chloe] ……それなら杏里?あなたどうしてそんなにやつれているの?

[Chloe] ポーラーベアとでも闘った?

[Narration] 船名にひっかけ、ポーラーベア(北極熊)は、学園内で一番手強い教師や、試験を指して、学生たちが使う言葉だ。

[Anri] どうして、強敵だったよ。

[Narration] 杏里は自室へと帰還する道すがら、昨夜から朝にかけての顛末を、かいつまんで説明した。

[Anri] というわけでね───

[Chloe] ……あまり面白くなかったわ。

[Anri] いや、ジョークじゃないんだ……っと───

[Narration] 足がもつれ、つんのめった杏里を難なくクローエが支えた。

[Chloe] まったく一晩夜を明かしたくらいで、だらしないったら……ホラ、肩を貸すから。

[Anri] ありがとう。ボクの愛しいクローエ。

[Anri] ……あ……花の香りがするね。

[Chloe] くすぐったいって……

[Narration] 襟元に鼻梁を寄せる杏里を、クローエはそのまま好きにさせている。

[Anri] ……クローエはきっと花の生まれ変わりなんだね。

[Chloe] シャワーを浴びただけよ。トレーニングの後だから。

[Anri] まだやってたんだね……そういや、いつも朝早くから頑張っていたっけ。

[Chloe] ええ。続けなければ意味がないでしょ?

[Anri] ……そっか、ボクもまた一緒にやろうかな。

[Chloe] お断りです。あんなにいいかげんなあなたが、あたしよりずっと上達が早いんだから。たまらないわ?

[Anri] ハハ……ずっと続けてるクローエにはかなわないさ。

[Narration] そんな軽口すら、上すべりして身が入らない。よほど消耗の激しい一夜を過ごしたようだ。

[Chloe] ……朝の船内はいいわ。静かで、森には霧が立ちこめて……

[Anri] そうだね……

[Narration] だが、通路の角を通り過ぎてしばらくすると、そんな静けさはうち破られてしまった。

[Anri] …………?

[Chloe] あれは……何かあったのかしら……

[Narration] 学生の一室にPSの制服がせわしく出入りしている。

[Narration] そのすぐ脇には数名のメイドと共に、イライザが神妙な面もちで待機していた。

[Narration] 二人に気づくと、イライザは必死に目配せして合図する。

[Chloe] あ……杏里っ

[Narration] しかし、杏里はクローエを引きずるようにして構わず騒ぎの渦中へと踏み込んだ。

[Anri] どうしたの?

[Eliza] 杏里様……!

[Eliza] 杏里様……アイーシャ様が……!

[Anri] ……アイーシャが?あれ? ちょっと!

[Anri] 何だよ? 離せって!

[Chloe] あっ……

[Narration] 訓練されたPSの動きは素早かった。杏里はクローエから突き離され、腕を掴まれて、背中へねじりあげられた。

[Anri] 痛たたたッ! ひどいよ!ボクにはあいにくそっちの方の趣味は無いんだ!

[Chloe] やめなさい!彼女は、何も抵抗してないでしょう?

[Narration] PSは構わず、杏里を拘束する。

[Narration] その後、杏里には、ゆっくりと睡眠をとる時間など与えてはもらえなかった。

sapphism_no_gensou/1132.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)