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sapphism_no_gensou:1112

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[Anri] あとは、サードクラスのアイーシャ・スカーレット・ヤンか……

[Narration] 杏里は、残る一人の部屋へ向かおうとした。ところが、またもや部屋の場所がわからない。

[Narration] 一日の仕事を終えて自室に戻ろうとしていたイライザに、案内を頼み込んだ。

[Anri] 勤務時間も終わったのに、悪いね。

[Eliza] 構いませんわ。

[Eliza] 私たちは、皆さんに快適な暮らしを送っていただくために24時間、学園に尽くしておりますから。

[Anri] 立派だよ。以前のイライザからは、とても考えられない言葉だけど。

[Eliza] あら、そうですか?

[Narration] 少女は、つんとすまし、おどけてみせた。金色の巻き毛が揺れる。

[Eliza] でも、私は今こそ、本当の自分でいられるような気がします。

[Anri] そうだね。素敵だ。

[Eliza] 杏里様に見つけていただいたんですよ?

[Anri] ……うん。

[Anri] イライザも、ボクも、近頃は忙しくて、ゆっくり話す機会がないね。

[Eliza] そうですか? ……ですね。

[Anri] ちょくちょく顔は合わせるけどさ。

[Anri] いくら遠慮のないボクでも、仕事の邪魔しちゃ悪いかなって思うし。

[Eliza] 杏里様……

[Eliza] 私の心は、いつも、杏里様のおそばに。

[Anri] ……イライザ。

[Narration] 杏里は廊下の陰に隠れるようにして、イライザを片腕で抱き寄せ、もう一方の指で耳の裏をくすぐった。

[Anri] ボクもだよ、イライザ。

[Anri] 暗い霧に閉ざされた海だろうと、針のごとき薄氷に凍てつく海であろうと、ボクの愛はずっときみの傍らにある。

[Eliza] …………はい。

[Narration] 杏里は廊下の陰に隠れるようにして、イライザを片腕で抱き寄せた。夜の静けさが二人を包み込んでいく。

[Narration] しばらくの間イライザは、杏里の指先が自分の耳を心地よくくすぐり、愛撫させるに任せていた。

[Anri] …………

[Eliza] ……………お悩みですか? 杏里様

[Anri] …………うん。

[Eliza] ……ソヨン様のことですね。

[Anri] …………うん。

[Anri] わかってたんだね、イライザ。

[Eliza] ええ。だって、私と一緒ですもの。今のソヨン様は。

[Narration] イライザはいっそう杏里に身をあずけ、体全体で杏里の存在を感じ取ろうとした。

[Eliza] 私にも、漠然としていて、はっきりとは言えませんけれど……

[Eliza] でも、同じなんです。あのころの私と。

[Eliza] どうか杏里様、彼女の中の、本当のソヨンを見つけてあげてください。

[Anri] ボクがかい?

[Eliza] 他にいらっしゃいまして?

[Anri] かなえさん曰く、彼女を助けられるのは、ボクだけなんだそうだ。

[Eliza] 私も同感ですわ。

[Anri] ……うん。ありがとう。

[Anri] だけどイライザは……

[Eliza] それ以上はおっしゃらないでくださいな。

[Narration] まぶたを伏せ、上向いて求める唇に、杏里は感謝のたけを込め口づけした。

[Narration] やがて自分から身を離したイライザは、振り向いて、巻き毛をふるんと跳ねさせた。

[Eliza] さ、まいりましょ。アイーシャ様の部屋へ。

[Anri] うん。

[Narration] 部屋にやってきた二人だったが、どうやら不運にも彼女はいないようだった。

[Anri] 弱ったな……

[Eliza] この時間に外出される方は珍しいですね。

[Anri] 夜の散歩かな……?甲板に出てるとか。

[Eliza] PSに見つかったら、連れ戻されてしまいますわ。といっても、それは杏里様も一緒ですわね。

[Anri] 仕方ない、書き置きを残しておくか……

[Narration] イライザの差し出したポーラースターの校章入りのレターヘッドに、杏里は流麗な筆記でペンを走らせた。

[Anri] ……繰り返し、ご用心なさることを、申しあげます……あなたを案ずる後輩、杏里、アンリエット、と。

[Narration] 杏里は、インクにふっと息を吹きかけると、二つにたたみ、扉の下から中に紙片を滑らせる。

[Eliza] 少々、不安ですわね。

[Anri] 本当は、もう少しここで待っていたいんだけど。

[Anri] 見回りのPSに、変に疑われて尋問されたりするのは嫌だなァ……

[Eliza] そんなことになったら、正真正銘の謹慎処分にされてしまいますわ。

[Anri] えっ。そりゃまずい。

[Narration] と言っているそばからPSの制服が目に入る。

[Narration] 二人はそそくさと部屋の前を離れ、それぞれ自室へと退散した。

sapphism_no_gensou/1112.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)