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sapphism_no_gensou:1111

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[Narration] ──その夜。

[Narration] 天京院の部屋からずっと考えていたことを、杏里は実行に移した。

[Anri] 狙われているのは、ソヨンだけじゃない。アルマ……それにアイーシャ、彼女たちもだ。

[Anri] 知ってたら、やっぱり放っておけないよな。

[Anri] かなえさんには悪いけれど、ここはボクの独断で動かせてもらおう。

[Narration] アルマの部屋近くに来ると、先客があった。

[Anri] (あの遠目にも見違えようのないシルエットは……)

[Narration] 部屋の扉から、チョゴリの少女が押し出される。もちろんソヨンだ。

[Narration] その様子は付き人女性のボンネットスカートに、まるではじき飛ばされたようにすら見えた。

[Anri] (ソヨン!)

[Wells] ああもう、しつこいったら!おせっかいきわまりない!

[Wells] こともあろうに、アルマお嬢様が暴行犯人に襲われるですって?

[Wells] わたくしの目がまだ二つあるうちは、そんなことはあり得ません!

[Soyeon] すみません、ウェルズさん。でもっ、あたし、とにかくお伝えしなきゃと思いまして───

[Anri] (おのオバさんか───)

[Anri] (あの調子だと、授業の合間なんかにもトライして、追い返されたんだな……)

[Narration] ウェルズの背後から、そろそろとアルマが首を出す。

[Alma] お礼を言いましょう、ウェルズさん。

[Soyeon] アルマさん!?

[Alma] ソヨンさんは、わたしのことを心配されて、わざわざ出向いてくださったのですから……

[Wells] しかしながらお嬢様? ファン様については、そうはゆかないのです。

[Alma] あら、どうしてですの?

[Wells] ちかごろファン様は「あの」杏里・アンリエットとグルに、いえ、行動を共にすることが非常に多いと、大変よからぬ風評が届いております。

[Alma] まあ……杏里様と?

[Wells] ともすれば、杏里・アンリエットの尖兵となって、この部屋を伺いにいらしたのやもしれません……

[Soyeon] 杏里さんは犯人なんかじゃないですよっ!

[Narration] 詰め寄り返すソヨンの迫力に、ウェルズはたじろいだ。

[Soyeon] 杏里さんは、違います!みんなあの人のことを誤解しています!

[Soyeon] 杏里さんはっ、杏里さんは……っ、

[Narration] 当の杏里は、すぐにも飛び出していきたい衝動を、やっとの思いでこらえた。

[Anri] (今出ていけば───ソヨンに、もっとばつの悪い思いを味あわせてしまう)

[Anri] (誰のせいでもない。ボク自身のせいで……)

[Narration] 杏里のスラックスに、ぎりぎりと爪が喰いこんでいく。

[Alma] ウェルズさん。ソヨンさんは、わたしの大切なご学友ですよ?

[Wells] お嬢様!?

[Alma] 勉学中でも、至らぬわたしの様子を何かと気にかけてくださって……とても、感謝しているんです。

[Alma] ソヨンさん。真心のこもった忠告、痛み入ります。重々、注意いたしますわ。

[Soyeon] あ、ありがとうございます、アルマさん。

[Soyeon] ウェルズさん。すみませんでした。

[Narration] ソヨンはまたウェルズに向けても、両手を揃え深々と頭を垂れた。

[Narration] その時間があまりにも長く、ウェルズはやがてあきれ気味に肩をすくめた。

[Wells] 元気なのは結構ですけれど、皆さんも寝静まろうという時分に、あまり騒がないで。

[Soyeon] はい、ごめんなさい。こんな夜分に、本当に申し訳ございませんでした……。

[Narration] アルマとウェルズが室内に引き下がっても、まだソヨンは頭を垂れたままだった。

[Narration] やがて、静まり返った廊下を、一人トボトボと歩きはじめる。

[Narration] いつもより、いっそう小さく見えるソヨンの背中に向けて、杏里はつぶやきかけた。

[Anri] ……ありがとう、ソヨン。

[Anri] ボクは地獄行き決定……かな。

sapphism_no_gensou/1111.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)