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sapphism_no_gensou:1071

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[Anri] ふふーん、ふんふーん♪

[Narration] 陽気なメロディを口ずさみながら、杏里は乱雑に服を床に落としていく。

[Narration] バスタブには、水音はげしく、お湯が全開で注がれている。

[Anri] こんにちは、新しい日々!新しい顔ぶれ、新しい恋!

[Anri] ボクも生まれ変わって、新しい自分になろう!昨日までのボクを脱ぎ捨てて!

[Anri] こんな日は、新品の封を切るべきだね。うん。

[Narration] 杏里は下着姿のまま、浴室の棚をひっくりかえす。

[Narration] 色とりどりのバスグッズの山から、真っ青な液体の入った小瓶を見つけて、杏里はにんまりとした。

[Anri] うん、これがいい。夜明けの霧の味? ……あ、霧の香りか。

[Narration] 小瓶の中味をバスタブにあけると、勢いよく泡が立ち、爽やかな香りも広がる。

[Narration] 一日の汗をシャワーで流すと、待ちこがれたようにバスタブに体をうずめた。

[Anri] ん───っ! いい香り。

[Narration] 思い切り背伸びしてから息を吐くと、杏里は今日の出来事へと思いをはせた。

[Anri] ファン……ソヨンかぁ……

[Soyeon] ここがあたしの部屋です。

[Soyeon] わざわざ送ってくださって、ありがとうございます。杏里さん。

[Soyeon] ちょっと寄られます?

[Anri] いや、今日は遠慮しておく。

[Anri] ファーストクラスの部屋って、ぼくたちセカンドの反対側なんだぁ。同じ船内なのに、こんなに遠いなんて、不運だなあ……

[Anri] ……いいかいソヨン。今夜からは、これまで以上に戸締まりに気をつけて。とにかく厳重に。

[Soyeon] はいっ。

[Anri] 本当は一緒に泊まってあげたいけれど、寮長の目があるから、そうもいかないし、内線電話はすぐ届くところに置いて寝て?

[Soyeon] はい。何か異常があれば、すぐ杏里さんに報せます。

[Anri] うん。その時は、世界中のどんなヒーローよりも早く駆けつけるよ。

[Anri] それから、授業のことなんだけれど───

[Soyeon] ええ、それなら。

[Soyeon] あたし、決して成績はよくありませんけれど、これまで、出られるだけの講義にはぜんぶ出席して、単位はじゅうぶん足りているんです。

[Soyeon] ちょうど試験のシーズンも終わったばかりだし、しばらくのあいだお休みをとることは、もう先生にもお伝えしました。

[Anri] そっか。つきあわせてしまって悪い。

[Soyeon] いいえ、杏里さん。あたし自身の望みなんですよ。

[Anri] でも、クラス全員が出席する合同授業にだけは、ちゃんと顔を出した方がいい。

[Soyeon] そう……ですね。杏里さんがそう言われるのでしたら。

[Anri] うん。講師だけじゃない。きみの笑顔が見られなくなって、寂しがる人はたくさんいるさ。

[Anri] ぼくは正直、きみと一秒でも一緒にいたいところだけどね。

[Soyeon] あ、杏里さんっ。

[Narration] ソヨンはきちんと足を揃え、杏里を真正面に見た。

[Soyeon] 杏里さん。

[Anri] うん?

[Soyeon] 杏里さん。こんな行き届かないあたしですけど、どうぞよろしくお願いいたします。

[Soyeon] あたしは若輩者です。まだまだ知らないことばかりです。お近づきになるきっかけは、確かに残念なものでしたけれど───

[Soyeon] でも、杏里さんのように経験豊富な方に、色々なことを教えてもらう機会ができて、幸せです!

[Soyeon] 杏里さんの足を引っ張ってしまわないよう、あたしがんばります! ですから、どうぞよろしくご指導願います!

[Narration] ソヨンは、いつにもまして背筋を伸ばし、しゃっちょこばった敬礼を送った。

[Anri] くすっ……それは?

[Narration] ソヨンはあたふたと掲げた手を戻す

[Soyeon] あっ……やっちゃった。ずっと我慢してたのに……あの、つい昔からのクセで、そのっ。

[Anri] 気にしないでいいよ。とてもチャーミングだ。

[Anri] ソヨン、きみは今でもじゅうぶんに頑張っているさ。だから、もっとリラックスしていい。

[Soyeon] は、はいっ。

[Anri] それじゃあ、おやすみ、ソヨン。

[Narration] 杏里は自分からも敬礼とウインクをソヨンに送り返した。

[Soyeon] あはっ!はい! おやすみなさい、杏里さん!

[Anri] …………

[Anri] ……幸せです!

[Anri] ……よろしくご指導ねがいます!

[Anri] …………

[Anri] ……………………ああっ!なんてキュートなんだ!ファン・ソヨン!

[Narration] ソヨンの敬礼を真似てみた杏里は、自分の肩を抱きしめて、バスタブの中をぐるぐるばしゃばしゃと泳ぎまわる。

[Anri] ハァハァハァッ……

[Anri] だめだ、我慢できなくなっちゃうのは、ボクのほうだ。なるほど、犯人の気持ちもよくわかるな。

[Anri] あ、いやいや。こりゃまずいぞ。ど、どうしよう。

[Narration] 両の頬に手をあてると、どんどん熱を帯びてくるのがわかる。

[Anri] ハァハァハァ……えーとえーと……そうだ! こんな時は───!

[Narration] 杏里はバスタブにつかったまま、浴室専用の電話に手を伸ばした。

[Tenkyouin] 『あたしだ』

[Anri] こんばんわ。かなえさんの心の友、杏里・アンリエットだよ。

[Tenkyouin] 『ぶばっ───げほげほっ!』

[Narration] 受話器の向こうで、おおいに天京院はむせている。

[Tenkyouin] 『何だっ、事件に進展があったのか!?』

[Anri] 大変な進展だよ。

[Anri] どうしよう、かなえさん。ボク、今すぐにでもソヨンを押し倒してしまいそうだよっ。

[Tenkyouin] 『はァ、何いってる? きみが送りオオカミになってどうする! 頭を冷やせ!』

[Anri] でも、このままじゃ、どうにかなってしまいそうなんだ!かなえさん、助けて!

[Anri] ハァハァハァ!

[Tenkyouin] 『知らん! バカと惚れっぽい奴につける薬は無い!』

[Anri] じゃあせめて、このほてった体を寝つけるように、しずめてくれる発明品を───

[Tenkyouin] 『世話がかかるなァ!』

[Tenkyouin] 『だったら、オナ……じ、自慰行為でも してねむれっ!』

[Anri] ……あ、そっか! うん、ぜひそうする。終わったらまた電話していい?

[Tenkyouin] 『馬鹿っ! 切るぞ!』

[Anri] うん、おやすみー……って本当に切っちゃったのか。

[Anri] かなえさんたら、お茶目さん。

[Anri] ……おっと、しまった。そういえば聞き忘れたぞ。

[Anri] 自慰行為って……一体なんだろう?

[Anri] ………………

[Anri] ……なんてね?

sapphism_no_gensou/1071.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)