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sapphism_no_gensou:1064

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[Narration] 杏里は汗だくになってニキの部屋の扉を叩いた。

[Anri] ニキ!ボクだよ、杏里・アンリエットさ!

[Anri] ねえ、ニキ!聞こえてるよね?あけてくれないか?

[Anri] どうか、話を聞いてくれ!きみを怒らせるつもりは、毛頭なかったんだ!

[Anri] ごめんよ! きみと一緒の時間を台無しにしたりして……ボクに配慮が足りなかった!

[Anri] 本当にごめん……この通りだ!

[Anri] ニキ! お願いだよ!

ドアをあけておくれよ!

頼むよ……ニキ。

[Narration] 杏里は息を切らせながら扉に腕をついた。鼻先から、ぽたぽたと汗が落ちる。

[Anri] ハァ……ハァ……本当に……バカだなあ……ボクは……

[Narration] ───ニキという少女は、あまりに寡黙なため、自分の殻に閉じこもったまま、外世界に一切の関心を持たずにいるように見える。

[Narration] しかし実際はその逆に、周囲のごくささやかな物事にまで、並々ならぬ集中力を注いでいるのだ。

[Narration] ひとたび部屋から外出するだけで、たいへんな精神的負担を強いられる。

[Narration] 出逢ったのが他人であれば、それはなおさらだった。未知の恐怖は何倍にも増幅されて、彼女を押しつぶそうとする。

[Anri] ……ねえ、ニキ……?

[Anri] 頼むよニキ……いったいどうしたら、この扉は開くんだい……

[Narration] 悲嘆に暮れた杏里の前に、カードキーがすっと差し出される。

[Anri] ───え?

[Narration] 振り返ると、そこには他ならぬニキ本人が立っていた。

[Anri] へ、部屋の中にいたんじゃ?

[Niki] …………

[Anri] 扉は……これで開きます?

[Anri] 途中、ギャレー(調理室)に寄ってイライザさんに会おうしたけど、いなかった?

[Anri] そっか……

[Anri] ……ニキ、馬鹿なボクを許しておくれ。きみを一人にしたりして、本当に悪かった。

[Narration] ニキはジェスチャーの動きを止めて、じっくりと考えた。

[Narration] しばらくして、ニキはめずらしく杏里の目を見つめ返しながら、こう応えた。

[Niki] …………

[Anri] ……え。そんなことはない?

[Anri] 今わたしには杏里がいる……から?一人じゃない?

[Anri] ニキ……

[Anri] ありがとう。そうだね。ニキ。

[Anri] ボクらはいつまでも一緒だよ。

[Narration] ニキは肯くと、何度かカードの挿入に失敗しながら鍵を開け、部屋の中へと消えた。

[Narration] 一人残された杏里は、腰に手を置きながら深い溜め息をついた。

[Anri] やっぱり、怒ってたのかなあ……

[Narration] 扉がまたすぐに開く。

[Anri] え……?

[Niki] …………

[Anri] 明日から、ボクの捜査を手伝います?自分一人でやってみるので、気にしないでください?

[Anri] そ、そんなっ危ないよニキ……

あららら。

[Narration] 杏里が反論する間もなく、またニキは扉の向こうへと消えてしまった。

[Anri] そんな事いったって……不安だなあ……

sapphism_no_gensou/1064.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)