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okujou_no_yurirei-san:3171

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遠見結奈

ただいま。

狛野比奈

……ただいま。

結奈ねぇのあとに続いて、結奈ねぇの家に入っていく。

自分の家じゃないのに、ただいまって言うのも変なのかもしれないけど、結奈ねぇの家は小さいころから自分の家みたいに出入りしてるし。

でも、なんだか今日は落ち着かない。理由はわかってるんだけど。

着てる服がいつもとぜんぜん、ちがうから。感覚が慣れなくて、だから、落ち着かない。朝からずっとこの服なのに、まだ慣れない。

遠見結奈

もう、まだそんな顔してるの?

狛野比奈

んー……。

結奈ねぇがあたしを振り返って、顔を見て、笑う。そんなに顔に出てたかな? 出てるような気はしてたけど。

ちゃんと、写真、撮れてたのかなぁ。

遠見結奈

おばあちゃんに送るための写真だったんでしょう? もっと、ちゃんと笑った顔で写ればよかったのに。

狛野比奈

笑ってたと、思うけど。

遠見結奈

そうね。でも、ちょっと引きつってた気もするわ。

狛野比奈

そかな。

遠見結奈

ちょっとだけ、ね。

明後日の入学式を前に、田舎のおばあちゃんに写真を送ってあげようってことになって、今日、写真屋さんに撮りに行った。

お父さんとお母さんは仕事だったから、結奈ねぇに付き添ってもらって。

入学祝いももらったし、おばあちゃんも楽しみにしてるって聞いたから、制服、着たんだけど……。

やっぱり、スカートってヒラヒラしててきらい。今までほとんど、はいたことなかったし。

さっきまで着てたブレザーもちょっと大きめで、ごわごわしてる感じがするし。

遠見結奈

でも、似合ってるわよ、制服。お人形さんみたいに大人しくしてる比奈も、めずらしかったし。

狛野比奈

んー……。

遠見結奈

かわいかったわよ。写真、できたのがきたら、私にも見せてね。

狛野比奈

ん。

まぁ、結奈ねぇがかわいいって言ってくれたから、いいや。似合ってるっていうのは、たぶん、あたしの顔色を見ながら言ってたから、多めにほめてくれたんだろうけど。

狛野比奈

城女って、制服はそんなに、うるさくないって聞いてたのに。

遠見結奈

そうね。でも、入学式とか卒業式とかは、ちゃんとみんな、着てくるわよ。

遠見結奈

そういう時くらい、ちゃんと正装しましょうってことね。

狛野比奈

そっか。

だったら、明後日の入学式の時だけ、ガマンすればいいか。次の日からは、どうしよう。スカートはかないですむ方法ってないかな。

そう言えば、ジャージで登校してる人、いるよね。そっか、部活入っちゃえばいいのかな。

遠見結奈

そんなに制服が嫌なら、私服の学校に行けばよかったのに。

狛野比奈

んー……。

狛野比奈

でも、城女、行きたかったし。

遠見結奈

そうね、いきなり城女に行くって言い出した時は、驚いたわ。もう、願書も出したって言うし。

進路、どこの学校に行くか、あんまり考えてなかったのは確か。

決めなくちゃ行けない時期になって、いちばん最初に頭に浮かんだのは、結奈ねぇとおんなじ学校がいいなって思ったから。

だから、城女を選んだ。ちょっと成績が危なかったけど、一生懸命勉強したらなんとかなった。結奈ねぇにも見てもらったし。

どうして、結奈ねぇと一緒のとこがいいって思ったのかな?

自分でもよくわかんない。今までずっと一緒だったから、離れるのがイヤだったのかな?

そんなにべったり結奈ねぇについていきたいって思ってるつもり、なかったんだけど。

でも、あの時は、結奈ねぇと一緒の学校がいいと思ったし、他に行きたい学校もなかったし。

遠見結奈

まぁ、なんだかんだで受かっちゃうのが、比奈のすごいとこね。

遠見結奈

さ、おやつにしましょ。比奈、そろそろお腹空いてきたでしょ?

狛野比奈

ん。

お昼食べたあと、ずっと出かけてたから、ちょっと空いてる。

当然だけど、ここのとこ、部活もないし、あまり走り込んでないから、あんまりお腹も空かないんだけど……。

やっぱり、夕ご飯までまだ時間があるし、この時間になると、ちょっとお腹空いてくる。

遠見結奈

クッキー、焼いてあるの。お茶の用意しておくから、一度、おうちに戻ってきなさい。

遠見結奈

制服、しわになっちゃうでしょ。もういいわよ、着替えてきても。

狛野比奈

ん。

やった。やっとスカートが脱げる。

台所に入って、お湯を沸かしたり、クッキーをお皿に移したりし始めた結奈ねぇをちょっと見てから、あたしは立ち上がった。

狛野比奈

ふぅ。

部屋着代わりのジャージに着替えてから、ベッドに座った。

やっぱり、慣れないスカートはいてたから、ちょっと緊張してたみたい。ジャージの方が気持ちが楽。

ジャージ登校のために、早く部活決めちゃおう。絶対、運動部。

ひと息ついてから、さっき、出てくる直前の、結奈ねぇの様子を思い出す。

おやつの仕度をする結奈ねぇは、やっぱり楽しそうだった。

結奈ねぇ、やっぱり料理とかを作ったり、一緒に食べたりするのは好きなんだ。楽しいんだ。よかった。

ちょっと前から、結奈ねぇの様子がおかしいことには、気付いてた。結奈ねぇが城女に行く前から。

料理してる時、ご飯食べてる時、あまり笑ってくれなくなった。ご飯は相変わらずおいしいんだけど。

料理部の大会で優勝した後くらいだと思う。優勝したのに、なんでだろう。お祝いした時も、あんなにうれしそうだったのに。

優勝した大会の賞状とか、記念のトロフィーとか、部屋にしまいっぱなしなの、知ってる。なんでかな? あたしだったら、うれしくて飾っちゃうのに。

どうしてかな、なにかあったのかなって思ってた。聞いてみようかと何度も思ったけど、結局、聞けなかった。聞かなかった。

もしかしたら、あたしがそういうふうに気を遣うの、結奈ねぇがいやがるかもしれないって思ったから。

結奈ねぇ、いつも自分でなんとかできることは、自分で解決してきたから。

結奈ねぇはすごいもの。自分でできることなら、絶対、自分でなんとかしちゃうもの。

そういう時、あたしが手伝うとかえってこんがらがっちゃうかも。そう思ったから、黙ってた。

でも、自分でもどうにもできなかったら、きっと、話してくれるよね。

ああ、そっか。だから、あたし、城女に行こうと思ったのかな。

結奈ねぇがなにか話してくれる時、すぐに聞きにいけるように。結奈ねぇのそばにいられるように。

できる限り、近くにいられるように。結奈ねぇがなにか、助けてほしいことがあった時、すぐに行けるように。いちばんに駆けつけられるように。

結奈ねぇが助けてほしい時は、いちばんに結奈ねぇのとこにいきたい。結奈ねぇが自分で解決しちゃって元気になった時も、いちばんに。

ずっと結奈ねぇのそばにいて、いつでも見ていられるように。声が届くように。

狛野比奈

同じ学校だったら、一緒にいられることも多いもんね。

だから、入学式くらいは、スカート、ガマンしよう。壁にかけた制服を見て、そう思った。

狛野比奈

結奈ねぇんち、もどろ。

でも、なるべく早く、部活に入ろ。やっぱり、ジャージの方が楽だし。

スカートだと、気になって、速く走れないかもしれないし。

遠見結奈

おかえり。ちょうどいいタイミングね。今、紅茶淹れてあげるからね。

狛野比奈

ん。

結奈ねぇんちのテーブルの、いつもの椅子に座る。結奈ねぇんちでご飯を食べる時、いつも座ってる椅子。

テーブルの上には、手作りのクッキーが山になってる。早速、手を伸ばす。

遠見結奈

手は洗ってきたの?

狛野比奈

出てくる時、洗ってきた。

遠見結奈

出てくる時って……。まぁ、いいわ。

狛野比奈

いただきます。

遠見結奈

召し上がれ。はい、紅茶。

狛野比奈

ん。

クッキーを頬ばりつつ、紅茶を受け取る。言わなくても結奈ねぇはわかってくれてる。ミルクティー。きっと、砂糖も入ってない。うん、やっぱり。

遠見結奈

そう言えば、阿野が、入学祝いはなにがいいって聞いてたわよ。

狛野比奈

アノちゃんが?

遠見結奈

うん。後輩になるんだから、なにか奢ってあげたいんですって。……食べ物限定みたいね。まぁ、比奈のこと、よくわかってるからなんだろうけど。

アノちゃんは結奈ねぇの友達。城女に入ってからの。

結奈ねぇのうちにも何度か遊びに来てるし、あたしも遊んでもらったこともある。

おもしろくて楽しい人。いつでも明るくて、ゲームとかマンガとか、よくわかんないけど、いろんな話をしてくれる。

遊びに来る時、いっつもなにか忘れ物してくる人。結奈ねぇも話してたけど、ほんとに忘れ物が多い人みたい。

アノちゃんが友達になってから、結奈ねぇは少し、元気になったみたい。アノちゃんの話をしてくれる時の結奈ねぇはいつも笑ってる。

アノちゃんの忘れ物にはほんとに困らされるって言いながら、笑ってる。

だから、あたしもアノちゃんのことは好き。結奈ねぇを元気にさせてくれるから。

でも、時々、あたしの知らない、城女での話を結奈ねぇと二人で盛り上がってしてる時は、ちょっとつまらないんだけど。

そういう時は、結奈ねぇより年下で、一緒のクラスになれないのが、悔しくなる。仕方ないことなんだけど……。

早く、一緒の話をしたいなって思ってたから、この一年はちょっと長く感じた。城女に合格してからは、一日さえ長く感じて。

明後日から、また、結奈ねぇと同じ学校に通えるんだな。うれしい。

狛野比奈

ねぇ、結奈ねぇ。

遠見結奈

なに?

狛野比奈

城女って、楽しい?

遠見結奈

え? うーん……。

結奈ねぇ、ちょっと考え込んでるみたい。

なんでだろう。結奈ねぇとアノちゃんの話を聞いてると、楽しいとこだと思ったんだけど。

遠見結奈

そうね……、いい学校だと思うわよ。

うん、それは知ってる。結奈ねぇからもいろいろ聞いたから。あんまり校則、厳しくなくて、おおらかなとこだって言ってたし。

遠見結奈

比奈は、また、陸上やるの?

狛野比奈

んー……。

運動部には入りたいと思ってたけど、どうしよう。やっぱり、ずっとやってきた陸上がいいのかな? 走るの、好きだし。

遠見結奈

うちの陸上部、けっこう強いんじゃないかしら。

狛野比奈

そなの?

遠見結奈

ええ。確か、全国大会の本選まで進んだ人、いたと思う。

狛野比奈

そなんだ。

全国大会の本選……、すごいな、それ。そんなに強い人がいるなら、やっぱり陸上部にしようかな。

どうしよう、やっぱり見学とかしてからの方がいいかな。でも、それだと入部が遅くなっちゃうかも。

早くジャージ登校したいから、すぐに入部したいんだけど、できるかな?

遠見結奈

ええ、夏休み前に、そんなこと、聞いた憶えがあるわ。

狛野比奈

ふぅん……。

結奈ねぇも、あたしが陸上続けると思ってるのかな? だから、憶えていてくれたのかな。絶対って決めてたわけじゃないけど、やっぱり陸上の方がいいかな。

入学したら、すぐに聞いてみよう。うん、ちょっと楽しみになってきた。

遠見結奈

うちの学校、山の方だから、朝は坂を上るの、大変なのよね。まぁ、比奈には関係ないでしょうけど。

狛野比奈

なんで?

遠見結奈

走るの、好きでしょう? 昔から、坂道見ると駆け上がってくような子だったから。

狛野比奈

ん。

うん、やっぱり走るのは好き。決めた、陸上部に入部しよ。入学式が終わったら、すぐに先生に聞いてみよう。

遠見結奈

……まぁ、楽しい学校だと思うわ。あ、そうね。

狛野比奈

ん?

遠見結奈

今年からは比奈が一緒だから、もっと楽しくなるわね。

狛野比奈

!?

遠見結奈

ちょ、ちょっと比奈、大丈夫!?

思わず、紅茶を変なとこに飲み込んじゃった。

狛野比奈

けほっ、けほ!

遠見結奈

ほら、布巾。服は汚してない?

狛野比奈

けほ、ん、へ、平気……。けほ、けほ!

びっくりした。結奈ねぇ、いきなりそんなこと言うんだもん。一緒だからうれしい、なんて。

遠見結奈

なにをそんなにビックリしたんだか……。ほら、大丈夫?

狛野比奈

ん……。

結奈ねぇが背中をさすってくれる。紅茶をむせちゃうなんてかっこ悪いけど、ちょっとうれしい。

一緒だと楽しい、なんて。さすったり、ぽんぽんと叩いてくれる結奈ねぇの手が、気持ちいい。すごい、あったかくなる。うれしいのに、なんだかドキドキする。

そっか、あたしと同じ学校になれて、結奈ねぇもうれしいんだ。よかった。

なんだか、結奈ねぇに待っててもらえたみたい。今の言葉だけでも、城女を選んでよかったって思える。

結奈ねぇは明日から新学期。あたしも、明後日の入学式から城女に通える。

これから、結奈ねぇが卒業するまでの二年間は、ずっと同じ学校に行ける。また、結奈ねぇのそばにいられる時間が増える。

できるだけ、結奈ねぇのそばにいたい。

まだちょっと、元気のない結奈ねぇに、なにかあった時、すぐそばに行けるように。

そして、結奈ねぇが元気でいっぱいになった時、すぐそばにいられるように。

狛野比奈

結奈ねぇ。

遠見結奈

なに?

狛野比奈

あたしも、同じ学校に行くの、楽しみ。

遠見結奈

……そう? よかった。

結奈ねぇが笑ってくれる。あたしも、笑う。

これから、また、よろしくね、結奈ねぇ。

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okujou_no_yurirei-san/3171.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)