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okujou_no_yurirei-san:3144

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網島茉莉

(美夕、もう来てるかな……)

少し緊張する。仲直りしたつもりだけど、もしまだ美夕が怒ってて、すっぽかされたら。……なんて不安が頭をよぎったりする。

でも、その心配は無用だった。待ち合わせ場所に美夕の姿が見えた。

網島茉莉

いたいた。おーい、美夕!

稲本美夕

もう、遅かったじゃない。自分で呼び出しておいて。

言葉に不機嫌さは感じない。よかった。いつもの美夕だ。

網島茉莉

ゴメンゴメン。これ、家庭科室で温めてもらってたからさ。

稲本美夕

なに、それ……?

レジ袋を持ち上げるとソースの香りが周りにふわっと広がる。

稲本美夕

それって、もしかして……。

網島茉莉

そ。タコ焼き。学園祭で食べ損ねちゃったでしょ? また冷めちゃったらおいしくないし、ほら、早くベンチ座って。

稲本美夕

う、うん……。

網島茉莉

飲み物も。お茶でよかった?

稲本美夕

あ、うん。

稲本美夕

茉莉。これって……学園祭のやり直し……?

網島茉莉

ん。ま、そんなところかな。

稲本美夕

……ありがとう。

美夕のやわらかい笑顔。やっぱり好きだ。

網島茉莉

(よかった……美夕と仲直りできて)

お互いに意地を張りあって。そのケンカに比奈を巻き込んで。あたしたち二人にとって最後の学園祭も台無しにしちゃって……。

網島茉莉

(ホントあたし、ずっと何やってたんだろ)

もう少しで美夕のこの笑顔、二度と見られなくなるところだったんだな。

網島茉莉

(やばい。ちょっと涙腺緩みそう)

網島茉莉

……っと。タコ焼きタコ焼き。んー、やっぱり温め直しだとぺしゃってなっちゃうよね。

美夕にばれないように慌てて膝の上のタコ焼きに視線を落としてごまかす。……けど、なんとなく美夕にはバレてそうな空気。

稲本美夕

大丈夫よこれくらい。一つ、もらうわね。

あたしを気遣うように美夕は優しく言って。いつもなら自分から先に食べ物に手をつけたりしないのに、率先して手を伸ばして。

稲本美夕

うん……、ちゃんとおいしいわよ。

網島茉莉

ほんと? ならよかった。

よし、もう大丈夫。顔を上げて美夕に向かって笑い返す。

稲本美夕

茉莉も食べれば?

網島茉莉

それじゃ、あーん。

我ながらちょっと調子に乗りすぎかな? でも久しぶりなんだし。これくらい良いよね?

稲本美夕

茉莉。誰か見てたら……。

網島茉莉

だったらなおさら早く。あーん。

稲本美夕

もう、しかたないわね。はい、あーん。

網島茉莉

熱っつ! 中けっこー熱いんだね。ちゃんとふーふーからあーんしてよ。

稲本美夕

もう。赤ちゃんじゃないんだから。

あたしが馬鹿やって、美夕が困った顔でたしなめて。この関係、ずっと続けばいい。そのために、いろいろがんばらなきゃ。陸上も、美夕のことも。

タコ焼きを食べ終えて、ひとしきり馬鹿話して。会話がふと途切れる。

次になにを話そうかあたしが迷っていると、美夕の方から口を開いた。何かを決心したような顔だった。

稲本美夕

茉莉、私ね、やっぱりちゃんとスポーツコーチの勉強もすることにしたわ。大学もそういう勉強ができるとこ、選びたいの。

網島茉莉

そっか……、決めたんだ。

稲本美夕

……がっかりした?

網島茉莉

えっ。なにに?

美夕の声が少し震えてるのに気付いた。何に怯えてるんだろう?

稲本美夕

私が、選手としての道を、あきらめたんじゃないかって。

網島茉莉

別にあきらめたわけじゃないでしょ。美夕なりの新しい道を、もういっこ見つけたってだけでさ。

稲本美夕

………………。

網島茉莉

そりゃ、初めは陸上選手だった美夕に惚れたわけだけど。美夕はなにをやってても美夕だからさ。

稲本美夕

……うん、ありがとう。

美夕の声から緊張がすっと解けた。そっか、やっぱり美夕、そのこと気にしていたんだ。

網島茉莉

そっか、それじゃ、ほんと大学、どこにしようか。

稲本美夕

そうね……。私は、勉強したい学部があるとこ、いくつか調べてあるけど。

網島茉莉

あたしもその中から選ぶつもりだけどね。推薦もらえるとこに限るんだけど。

稲本美夕

そうね、もう話、もらってるとこもあるけど。

よかった。一緒の大学に行けるのは本当にうれしい。

網島茉莉

一緒のとこ、行くんだよね?

稲本美夕

ええ。だって、約束したもの。一緒に行こうって。

うん、約束だったもんね。一緒の大学に行って、一緒に暮らそうって。

網島茉莉

まずは、大学決めないとね。でないと、住むところも決められないし。

稲本美夕

そうね。

網島茉莉

寮のないとこだよね。

稲本美夕

当然よ。そのためにガマンしてきたんだもの。

そう。美夕もあたしと同じだけガマンしてたんだ。それなのにあたしときたらガマンさせられてるってダダこねて美夕を困らせてさ。

まぁ、これからもきっとそうだろうな。二人で一緒に暮らし始めれば、今までとはちがう苦労もあるだろうし。ちがうガマンもしなきゃならないかも。

網島茉莉

うちの両親なんてさ、美夕と一緒の方が安心なんて言うんだよね、あたしが一人で暮らすよりも。

網島茉莉

防犯的な意味じゃなくってさ。ほら、あたしって料理も掃除も洗濯もさっぱりでしょ? 一人暮らしなんてできないと思ってるみたいでさ。

稲本美夕

それは私も、ちょっと茉莉のご両親に賛成しちゃうわ。ちゃんと茉莉も家事をするのよ?

網島茉莉

も、もちろん。美夕ばっかりにやらせたりしないって。

稲本美夕

なんだか結婚する前の男の人の言い分みたい。口ばっかりにならなきゃいいけど。

網島茉莉

うっ……。が、がんばるってばさ~。

稲本美夕

はいはい。ふふふ……。

網島茉莉

あは、あはははは。

美夕と二人で、同じことで一緒に笑えるのが、とても幸せ。

バカみたいなケンカの後だしね。部活も引退しちゃったし、なんかほんと、いろいろすっきりしちゃって。そんな気持ちで、二人して空をながめる。

雲一つ無く晴れた秋空に太陽が鈍く輝いてる。

網島茉莉

(冬になって、春になって……、そしたらほんとに卒業かぁ……)

網島茉莉

放課後に部活がないってのも、変な感じだよね。

稲本美夕

そうね。

網島茉莉

みんな、ちゃんとやってるのかな。今日はなにしてるんだっけ。

稲本美夕

今日はグラウンドは使えない日だから……、室内トレね。

網島茉莉

すごい、まだスケジュール、憶えてるんだ。

稲本美夕

まだって……、昨日引退したばかりでしょ?でも、心配なのは確かね。もう、私の見ていないところでも、みんな、部活してるのよね。

網島茉莉

さみしい?

稲本美夕

少しね。でも、それよりもうれしいかな。

網島茉莉

うれしい?

稲本美夕

やっと、自分のこと、茉莉と私のことだけを考えられるから。

網島茉莉

そっか……。そうだよね。

これから、少しずつ。あたしと美夕、二人で将来のことを考えていく。

あのケンカも、その前のちょっとした回り道というか、最終予選というか、そんなものだったのかもしれない。今にして思えば。

網島茉莉

美夕、ずっと一緒にいようね。

稲本美夕

ええ。もちろんよ。

手を握って、一緒に進んでいこう。

ね、ずっとずっと一緒に。

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okujou_no_yurirei-san/3144.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)