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okujou_no_yurirei-san:3134

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晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、朝の空気は気持ちがいい。

櫓の中、和太鼓を前にして、私は撥を握る。すう、と息を吸いこむと、澄んだ気配に自然と背が伸びる。

朝の開門太鼓で定刻を報せるのは、風紀委員の最初の勤め。個人的には、とても好きな役目だ。

有遊愛来

(……時間だな。よし)

ゆっくりと、片手を振りかぶって、最初のひと打ち。

どん。

重々しい音を聞きながら、開いていく正門を確認する。

とうに日が昇り、職員も働き始めている時間帯ではあるものの、なんとなく学園の目覚めを見届けている気がする。

有遊愛来

(やはり心地いいな。この役目は……)

有遊愛来

(最近は、特に)

撥の先から伝わる震動を握りつぶしながら、またひと打ち。

どん。

有遊愛来

(……いい音だ)

大気だけではなく、私の腹の底に響く音。そこに眠るなにかを揺り起こすような音。

いや、もしかしたら、逆かもしれない。私の内から生まれるリズムが、撥を伝って表れているだけなのかもしれない。

有遊愛来

(世界との共鳴、か)

有遊愛来

(なんて味わい深い。なんて、……楽しい)

ふと、そんなことを考えている自分自身に気付き、私は苦笑した。

自分らしくない詩的な表現だ。陽香の口ぶりが移ったのだろうか。

有遊愛来

(それはまた、迷惑なような、嬉しいような)

櫓の窓から見下ろせば、ちらほらと登校する学生の姿がうかがえる。

この時間に登校してくるのは、大体、朝練をする運動部だ。

今は学園祭前だから、準備のために早めに来る者も多いかもしれない。

有遊愛来

(陽香は、あと40分後くらいだろうな)

昨晩も、『明日も遅刻しないぜ!』というメールが来ていた。きっとその通りに、気合いを入れて起きるだろう。

余裕を持って、というところまではいかず、ギリギリはギリギリだろうが。

有遊愛来

(それだって、最初のころを考えれば上出来だ。……陽香は、ああ見えて律儀なところはあるし)

有遊愛来

………………。

撥を持つ手が緩んだ気がして、私は意識して力を入れ直した。

最近、陽香のことを考えるといつもこうだ。

私の内面が、優しく、甘いもので一気に満たされてしまう。それは、なんともいえない快感で身体の芯を震わせる。

有遊愛来

(学園祭のステージで、陽香は……)

連想がそこに及ぶと、頬が熱くなってくるのがわかる。

その相手に自ら予告をしてしまったサプライズ告白……。なんとも締まらないものだが、そこが陽香らしくていい。たまらない。

むしろ、知ってしまったからこそ、こうして日々意識しなくてはならないのだ。それはそれで、効果的な作戦といえるのかもしれない……。

有遊愛来

(どんな声で、どんな曲で、伝えてくれるんだろうな……)

有遊愛来

(きっと陽香のことだ。愚直なまでにまっすぐな歌詞なんだろう。体当たりのような歌い方なんだろう……)

わかりやすいようでいて、容易に想像はできない。気恥ずかしさだけが残って、自分の頬が緩むのがわかる。

陽香は、私がこんなにも喜んでいるなんて、知らないだろう。楽しみにしているなんて、気付いていないだろう。

なにひとつ見抜けもせずに、今日もいつものように。ギリギリに学校に来て、学園祭のステージのための準備に熱中するにちがいない。

有遊愛来

(ああ。もう、ほんとに……)

……愛しい人。

有遊愛来

…………はっ。

と、突然、私は甘い夢から覚めて動きを止めた。

有遊愛来

(……今、何回打った?)

目の前の太鼓と両手の撥を見つめながら、無意識的に聞いていた太鼓の音を思い返す。

有遊愛来

………………。

有遊愛来

(12回ほど、打ってしまった気がする……)

通常は10回で、それは日々の勤めで充分身体に染み込んでいるはずなのに。

恋とはかくも我を忘れさせるものなのか。

有遊愛来

(……あまり、浮つきすぎないようにしないとな)

そう、自らに言い聞かせながら撥を置き、櫓から降りる。

それでも、身体の内にふわふわとした感触が残ってしまうのは、私自身の意志ではどうしようもない。

有遊愛来

(ああ。どうしようもない)

有遊愛来

(……恋とは、いいものだな)

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okujou_no_yurirei-san/3134.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)