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okujou_no_yurirei-san:3133

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合宿5日目の夕方。

陽香がバンドの練習のために下校し、ちょうど抱えていた作業も終わったところ。私はできた暇を持て余していた。

その時、ふと頭に浮かんだのは、この夏合宿に入ってから、いろいろと話すことも増えた人物のことだ。

有遊愛来

(もう少し話をしてみたかったところだ、ちょうどいい)

私は学食へと足を運ぶ。

扉を開いた瞬間、食欲を刺激する匂いが漂ってきた。

遠見結奈

あら、有遊さん。

数理部部室の机に溜まったプリントの山を、見事な手際で片付けてくれた、遠見結奈。

ちょうど手の空いたところだったのか。テーブルの端にもたれて、ペットボトルの水を飲んでいる。

有遊愛来

(……やはり、有能なんだな)

大人数の調理を当たり前のようにやってのける腕前もさることながら、並ぶ寸胴や鍋の配置が、より効率的な配膳のために計算されているのがわかる。

有遊愛来

毎日、園生先生を手伝ってくれて、本当にありがとう。助かっている。

有遊愛来

ただ、あれだけの量だ、結奈の本来の仕事を圧迫していないか、気になっていたんだが……。

遠見結奈

え? ああ、大丈夫よ。こっちの方に支障でないようにはしてるから。

さらりと返されたが、言葉ほど大変でないとは思えない。

合宿対策室の仕事、学園祭実行委員の仕事を手伝いながら、これだけの作業をこなせるとは。本当に、たいしたものだ。

責任感を持って仕事にあたれる人間はなるべく把握するようにしていたつもりだったが……。まさか、結奈のような人物が埋もれていたとは。

有遊愛来

(いや、埋もれていたというより……、自ら、埋まっているのかな)

昨日、風紀委員に誘ってみた。しかし、家事で時間がとれないと断った表情を見た時、直感的に確信した。

どこにも属さず、才能を発揮させる場を作らないのは、彼女が自ら望んでそうしているのではないかと。

数理部の部室で、段取りを提案する時も、作業をこなす間も、その瞬間は、生き生きと楽しそうに動いていた。

しかし、そのあとで、自ら出過ぎたことを詫びてきた。なぜ、自ら力を封じるようなことをしているのだろう。

有遊愛来

……少し、話をしてもいいか?

遠見結奈

? いいわよ。

遠回りに探るのも性に合わない。真正面から切り出すと、結奈はあっさりとうなずいた。

とはいえ、風紀委員に勧誘した時の様子からして、これからする話もはぐらかされるかもしれない。

有遊愛来

ありがとう。ちょっと待っててくれ。今、差し入れを買ってくる。

そう言って、アイスを買うために、すぐ隣の購買に向かう。

アイスを選んだのは、すぐにとけるから受け取らなくてはならないし、その場で食べなくてはならないものだから。

相手を逃がさずにゆっくりと話すために、何度か使ったことがある手だ。姑息だとは思うが。

まあ、単に私がアイスが好きだから、という事情もあるのだけど。

有遊愛来

(残念、ソーダは売り切れか。ここでは一番おいしいのに。……ん、チョコソフトもないのか?)

有遊愛来

(仕方ないな。せっかくだから、なるべくいいものを選びたかったんだけど)

有遊愛来

(まあ、でも、このコーヒー味も悪くはないか)

アイスを受け取るときも、対面に座る時も、結奈に身構えた様子はまったくなかった。

有遊愛来

……結奈。あなたが委員会に入らないのは、目立ちたくないからか?

私は単刀直入に切り出した。

それは、先日勧誘を断られてから考え、思いついた可能性だ。

面倒見がよく、有能で、働き者の人物が、自らの活躍を封じる理由。

「誰かに疎んじられたことがあるから」と考えれば、合点がいく。

遠見結奈

…………。

アイスの端をかじる結奈の動作が、一瞬止まった。

その顔によぎったのは、緊張? 嫌悪? 悔悟? どうにも複雑な色合いで。……昨日と同じものだ。

遠見結奈

……その通りだけど。

返ってきた答えはシンプルだった。逃げる素振りもなく、はぐらかすこともなく。まっすぐ、簡潔に、私の問いに答えてくれた。

私はただうなずいた。……これ以上、深くは聞くまい。これはきっと、他人に深く聞かれたくないことの範疇だ。

有遊愛来

なるほど。……食べよう。これは購買部では、3番目においしいんだ。

そこから話題は、購買部の食べ物や、アイス全般の味に関する、他愛ないものに移り変わった。

正直、結奈の手腕に未練がないとは言わない。だが、無理に引きずり出すこともないと思った。

なんであるにせよ、能力というものは武器だ。わだかまりなく振るえるうちはいいが、一度でも揺らぎが生じると、扱い難いものになる。

自らに与えられた才能なのに、持っているのがつらくなる、発揮するのが怖くなる。汚点のように考え、隠したくなる。

誰にでも起こりうることだ。そして、結奈は今、その状態なのだろう。他人が土足で踏み込んでいい問題ではない。

有遊愛来

そうだ、明日から参加する合宿組の件だが。人数はわかるか?

遠見結奈

確か、3組で7人だったかな。

当たり前のように答えが返ってくる。同時に、ポケットから取り出したメモ帳を確認している。

遠見結奈

布団は、今日、合宿を終わった茶道部のを使うことになってるわ。もう、干したのを取り込んであるはず。シーツはまだ洗濯済みのものがあるし、大丈夫でしょ。

すらすらと、淀みなく報告する声。ああ、ほんとに、未練が出る。

もし結奈が、風紀委員にいてくれたなら、さぞ気持ちよく仕事がこなせるだろう。

有遊愛来

(陽香に会う前なら、好きになっていたかもしれないな。陽香とは別の意味で、興味深い)

そんなことを考えてみる。冗談と本気の配分は、自分でもわからない。

有遊愛来

……それじゃ、明日もよろしく。

アイスを食べきって立ち上がると、結奈はこちらこそと応えてくれた。

有遊愛来

(……ふむ。まあ、希望はある、か)

自分の胸の、未だに未練がましい部分に向かって、そう言い聞かせる。

才能に蓋をしているとはいっても、そこまでがんじ搦めというわけでもない。現に、食堂でも対策室でも、裏方とはいえ本来の才能を奮っているのだ。

これは、彼女が本当の意味で自らの能力を疎んじてはいないということ。また、今の行動がリハビリとなって、いずれもっと積極的になることを望むようになるかもしれない。

有遊愛来

(そうしたら、もう一度誘ってみよう)

有遊愛来

(うん。そろそろ見回りの時間だ。合宿を終えた部の施錠確認、明日の遅刻補習の準備……)

目の前の仕事に意識を集中させることによって、私はすっぱりと頭を切り替えた。

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okujou_no_yurirei-san/3133.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)