User Tools

Site Tools


okujou_no_yurirei-san:3132

Place translations on the >s

最近の私は機嫌がいい。

ふと窓ガラスに映りこんだ自分の顔に気付くと、あまりに緩んだ表情に思わず目を逸らしたくなるほど。露骨に上機嫌だ。

とはいっても、まわりの人間には、なかなかわからないようだが。

古場陽香

あっ……、あ、有遊サン!

休み時間、廊下で古場さんと出会った。

きょろきょろと挙動不審で誰かを捜しているふうだった彼女は、私を見るとパッと顔を輝かせ、駆け寄ってくる。

有遊愛来

廊下は走るな。……そこの貼り紙にあるだろう。

古場陽香

お、おう!

突進、といってもいいスピードに、身を引きながら制すると、古場さんは踵でブレーキをかける。

古場陽香

スンマセン、有遊サン!

有遊愛来

……気をつけろよ。

ビシッと敬礼しながらの、満面の笑顔。苦言しながらも、私は胸が熱くなるのを感じる。

本当におもしろい……、興味深い人だ。

古場陽香

あの、さ。有遊サンってお昼、学食行く?

有遊愛来

時々、かな。購買でお昼を買った時に、利用している。

古場陽香

あ、学食のは食ったことねぇの? けっこうウマイぜ。食わないなんてもったいねー。

私たちが「友達」となってから、そう時間はたっていない。

だから、こうして顔を合わせるたび、話をするたびに、お互いをより深く知っていくことになる。それはなんとも新鮮な感触だった。

有遊愛来

そういう古場さんは、学食派か。

古場陽香

あー、オレはもう常連だな! メニューなんて片っ端から食い尽くしてっから、なんでも聞いてくれよ。

古場陽香

あっ、つうか……。今度お昼一緒に食わねぇ?

有遊愛来

ああ、いいよ。

古場陽香

おっしゃ!

古場さんはガッツポーズをとりながら笑う。

それだけのことで満面に笑みを浮かべる彼女も彼女なら、その無邪気な表情をいちいちかわいいと思ってしまう私もどうかしている。

有遊愛来

(……こういう付き合いになるとは、思わなかったな)

もともと、彼女のことは単なる遅刻常連者として認識していた。

夜更かしに慣れてきた生活習慣に油断が加わって、朝はギリギリに行動してしまう典型的な遅刻者だ。悪気はないだけに、厄介なタイプといえる。

ただ、一生懸命考えてきた言い訳を、えーと、と前置きして、しかも新ネタを披露するかのように勝ち誇った顔で言い放つあたり、興味をひかれる。

風紀委員として「許す」のとはまったく別の思考回路で、一人の人間としておもしろいと思っている。

古場陽香

そんじゃ、そん時はオレのオススメメニューを教えてやるぜ。てか、そもそも有遊サン、なんか好きなもん、あんの?

有遊愛来

そうだな。お昼はパンですませることが多いかな。朝、近所のパン屋で買ってくるんだ。

古場陽香

あ、そーなんだ。なんか、イメージ的に和食って感じがしてた。アジの開きとか食ってそーな。

有遊愛来

和食も好きだよ。

古場陽香

あ、そう? へへっ、当たった。なんとなくだったんだけどさ。

彼女の視線を感じ始めたのは、新学期になり登校チェックの責任者として正門に立つようになってからのことだ。

朝の正門でだけではなく、廊下で、校庭で。

もの言いたげな、もどかしげな、食い入るような……。なんとも切ない熱量を伴った、まっすぐな視線。

その意味を、私はなんとなく理解できた。彼女は私に好意を持ったんだと。

私にも憶えがあったから。あんな目をして、誰かを見つめていたことがある。

幼稚園の先生だったり、友達のお姉さんだったり、中学のクラスメイトだったり。なにもはっきりと自覚しないままでいたけれど。

今なら、わかる。

古場陽香

あっ、そう言えば……。なんか最近、妙な定食ができたんだよな、学食。

有遊愛来

妙な定食?

古場陽香

お好み焼き定食。お好み焼きに、ごはんと味噌汁がついてくるんだぜ。マジありえねー。お好み焼きってごはんの代わりになるだろ?

有遊愛来

それは……。関西の方ではよくあると聞くが。

古場陽香

ゲッ、マジで?

先日の朝、またもギリギリで登校してきた彼女が、「友達になろう」と告げてきた時。

私はただただ、あっけにとられた。好意に気付いてはいても、一足飛びに、なんの虚飾もなく友達になろう、とは。完全に予想外だった。

それも、遅刻を免れた荒い息のまま、裏返った声で、真っ赤な顔をして、目をキラキラと輝かせて。

それまでも、苦しい言い訳をされるたびに笑いを噛み殺してきた私だったが、もうこらえきれなかった。

噴き出すと同時に、古場陽香という学生への個人的な興味と好意が膨れ上がり始め……。

それは、今、こうしている間も、私の胸の内で息苦しいほどの膨張を続けている。

古場陽香

うまいのかよ、粉モンとごはんなんて。

有遊愛来

興味があるなら、食べてみればいいだろう。おいしいかもしれない。

古場陽香

……ん、かもな。有遊サンがそう言うなら、今度チャレンジしてみっかな。

古場陽香

つか、よく考えてみたらけっこーうまそうかも? 前に作ったお好みうどんも、そこそこイケたし。

有遊愛来

なんだ、それは。

古場陽香

や、家で一人でいて、めっちゃ腹減ってて、でもさ、13円しかなくってさぁ。見っけたうどん茹でて、冷蔵庫にあったお好み焼きの切れ端をぶちこんだんだけど。

有遊愛来

それはまた……。味が想像できないな。

かき揚げうどんに近いのだろうか?

古場陽香

オレとしても、見た目ちょっときつねうどんっぽい気がして、そのつもりで食ったんだけどさ。ホラ、お好み焼きには最初からソースがかかってっからさ。

古場陽香

出汁とソースが混じると、ものすっげー不思議な味になんのな! ありゃおもしろかった。超ロックだった!

有遊愛来

ロックな味……?

古場陽香

んー、なんか、うまく言えねぇんだけど、こう、ビンビンくるっつーか。なんの味かわからねぇけど、とりあえずすげぇのキた! ってカンジはするっつーか。

有遊愛来

…………。

大仰なジェスチャーを加えてお好みうどんの味を解説してくる。

まったく伝わらないが、それでも言い表しがたい経験をした彼女の興奮を感じ取って、私は微笑んだ。

友達になった古場さんは、こうしてストレートに、でも時々、妙に距離を計りながら、私との交流を求めてくる。

まっすぐに私に向けられる興味。直感的に過ぎる思考をなんとか伝えようとあがく様子。

体当たりのようなコミュニケーションではあるが、当初、想像していたよりずっと心地良い感触だった。

有遊愛来

(よくいえば純粋で、悪くいえば馬鹿なのだろうな……)

しかし、そこがいい。微笑ましい。

……とてもかわいらしいと思う。

古場陽香

な……、な、なっ!?

有遊愛来

……?

狼狽の声が耳に入って、私は我に返った。

有遊愛来

……!

私の手が勝手に伸びて、古場さんの耳に触れている。自分でも気付かないほど、衝動的に、ただ、手を伸ばしていた。

有遊愛来

(ふふ、これはひどいな……)

動揺を覚えつつも、まだ、手が離せない。耳まで真っ赤にして硬直している彼女の様子を楽しんでさえいる。

その手を離す時には、なんとか平静を装うことに成功していたけど。

有遊愛来

いや……、ロッカーだからピアスとかしてないのかと思ってな。

有遊愛来

(彼女の遅刻の言い訳くらい苦しいな……)

自分でもそう思う。願わくば、彼女が私の動揺や、衝動に気付かずにいてくれればいいのだけど。

古場陽香

え? あ、あぁ……。なんてーかさ、ピアスとか、その、痛ぇのヤだし。

有遊愛来

くっ……! ふふ……。

一応、自分の言ったことが情けないという自覚があるらしい、その少し拗ねたような、恥ずかしそうな言い方。

思わず、噴き出してしまう。

古場陽香

あ、い、いや、その、な? オレのロックは、ピアスとかそんなんでヒョーゲンするもんじゃなくってさ!

慌てて継ぎ足される言葉もまた、私の笑いを誘う。微笑ましさとかわいさから生まれる笑い。

有遊愛来

いや、そうだろうな、そう思うよ。古場さんらしい。

そう言って。

私は引いた指先を自らの頬に当て、あがってくる熱を誤魔化した。

grpo

grpo_ef

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

okujou_no_yurirei-san/3132.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)