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okujou_no_yurirei-san:3131

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昼休み、食事を終えて、いつもの通り見回りに出る。

風紀委員の仕事の一環ではあるが、腹ごなしの散歩というのが実際のところ。

グラウンドの隅、プールや体育館の裏側。人目につかない場所を、日陰を選んでゆっくりと巡るのは、それはそれで楽しいものだ。

有遊愛来

ん?

人気のない校舎裏で人影を見つけ、私は足を止める。

有遊愛来

(一年生が、こんなところに来るなんて。めずらしいこともあるな)

牧聖苗

うーん……。

その一年生は、木陰をのぞいたり、背伸びしてフェンスの向こうをうかがったりとせわしなく動き回っている。……なにか探し物だろうか。

と、ふと思い当たった。小柄ながら元気よく駆け回るこの姿には、憶えがある。

有遊愛来

(……確か、相原先輩に懐いて、整美委員会に入った一年生だったかな?)

毎日多くの雑事をこなし、学園を支えている相原先輩。尊敬すると同時に、負担を抱え込みすぎてはいないか、少々心配もしている。

だから、そんな先輩を手助けする一年の話を聞いた時は、ほっとするとともに、その人となりに興味も抱いたものだが。

有遊愛来

……君、探し物か?

牧聖苗

え……!

声をかけると、振り向いた彼女は、身を強ばらせて立ち尽くす。「鬼の風紀委員」「学園の門番」である私と相対した時の、平均的な反応だ。

牧聖苗

あ……、ええと、……こ、こんにちは。有遊先輩。

しかし、緊張に肩を強ばらせたまま彼女が最初にしたのは、きちんと頭を下げての挨拶だった。

牧聖苗

わたし、一年の牧っていいます。

有遊愛来

知っている。相原先輩の友人だろう。

牧聖苗

友人……!

鸚鵡返しにしたその頬が、ぱぁっと紅潮する。恐れ多い、でもうれしい、といった印象だ。

有遊愛来

それで、さっきからなにか探しているようだったが?

牧聖苗

あっ、はい。えっと、その……。

牧聖苗

有遊先輩は、静かで人気のない場所って、ご存じですか?

有遊愛来

人気のない場所?

牧聖苗

は、はい。……妙なこと聞いてすみません。

有遊愛来

ふむ……。

確かに妙な質問ではあったが、私は見回りの続きがてら、思いつく限りの場所を案内することにした。

牧さんの人となりを探るにはいいきっかけだろうと思ったし、なにより、物怖じしない態度に好感を持ったからだ。

道すがら、色々な話題を振ってみる。この学校の印象、授業の感想、好きな科目。いまだ緊張が残る口調ではあったが、しっかりとした受け答えが返ってきた。

牧聖苗

……整美委員って、本当に色々引き受けているんですね。おかげで、一年生なのに学校にうんと詳しくなりましたけど。

整美委員の話題に踏み込むと、表情を緩めて楽しげに語りだす。他の学生たちになにを頼まれたのか、それをどのようにさばいてきたか。

有遊愛来

(ふむ。かなり意欲的に活動しているようだな)

熱っぽいやや早口からは、まっすぐで真摯な姿勢がうかがえた。やや気持ちが先走っている危うさは感じるものの、あふれる熱意はやはり好ましい。

牧聖苗

……とはいっても、まだまだ不慣れで、うまくいかないことも多いんですけどね。相原先輩みたいに、テキパキと片づけられるようになりたいです。

有遊愛来

相原先輩か……。ああなるのは、なかなかに難しいと思うが。

美徳が高じて多くを抱え込んでいる先輩の姿を思い浮かべ、私は思わず水を差すようなことをつぶやいてしまう。

が、牧さんはむしろ声を弾ませてうなずいた。

牧聖苗

そうなんです! 本当に、どうしたらあんなふうになれるんだろう。なにを頼まれても、文句ひとつ言わないで、当たり前のように引き受けて。

有遊愛来

……確かに、よくできた人だと思う。

牧聖苗

ですよね!

自分が褒められたかのように、いやそれ以上にうれしげな笑顔。心底惚れ込んでいるらしい。

有遊愛来

(……それにしても、この心酔ぶり。ただの憧れなのか……)

牧聖苗

わたしに対しても、すごく優しいんですよ。疲れてないの、休んでいいのよって、いつも気を遣ってくれますし。先輩が、一番大変なのに……。

牧聖苗

………………。

牧聖苗

……あんな人、初めて出会いました。

熱っぽく語った後、ぽつりと付け加えられた一言。その独り言のようなつぶやきで、抱いていた疑いが確信に変わった。

彼女は、人として後輩としての憧れを超えて、もう一歩深くまで踏み込んでしまっているのだと。

有遊愛来

(……相原先輩の方は、どうなのだろうな)

この想いには気付いているのか、気付いていたとしたらどうするつもりなのか。

有遊愛来

(決して、平坦な道ではないだろうな……)

無粋を承知で、私はあれこれと想像してしまう。

有遊愛来

……ここは校舎からは離れているけど、その分静かだ。校舎の窓からも死角になっている。

牧聖苗

へぇ、こんな場所があったなんて。ありがとうございます!

牧聖苗

……うん、いいかも。これからの時期だと蒸し暑いかもだけど……。

無人スポットにたどり着くたび、牧さんはあたりを眺め回して検分する。

有遊愛来

(人気のない場所を探しているのは、やはり恋のためなのか)

一帯を歩き回り、眺めを確認し、居心地を調べてはなにやらメモまでとる。その姿は真剣そのものだ。

有遊愛来

(あまり、風紀を乱すことはしてほしくないのだが)

微笑ましく思うと同時に、そんな懸念が頭をよぎる。

有遊愛来

……私が知っている場所は、こんなものかな。

牧聖苗

充分です。すごく参考になりました。ありがとうございました!

牧さんは深々と頭を下げる。無人スポットのいくつかはお眼鏡にかなったのだろう、口の端を綻ばせている。

そんな牧さんに釘を刺すのは、なんとも心苦しいものだが……、まあ、仕方ない。というか、事実は事実だ。

有遊愛来

大した知識でも手間でもない。私が案内してきたのは、風紀委員である私の巡回ルートだからな。

牧聖苗

え。

有遊愛来

一日に何度か、風紀委員が見回りにくるわけだから、正確に言えば全く人気がないわけではないんだが……。

牧聖苗

あ、あー……。

牧さんは一瞬固まった後、目に見えて萎んでいった。

牧聖苗

そ……、そうですよね。有遊先輩は風紀委員で、風紀委員は風紀を守るのがお仕事で……。

牧聖苗

……そっか。むしろ巡回ルートだから、絶好の場所でも人気がないんだ……。

……何か少々失礼なことをつぶやかれたが、私は、やはりその落ち込みようの方が気になってしまう。

無理もないか。あんなに一生懸命に、はりきって検分していたのに、最後の最後で覆されたのでは……。

ちくりと、罪悪感が胸を刺す。

有遊愛来

いや、風紀委員でも知らない場所は多いよ。

有遊愛来

広い校内だ、すべてを把握している者は少ないだろう。この私にだって、なじみのない場所があるくらいだ。

思わず口走っていることに気付き、私は自分自身の口に驚いた。

……なにを言っているのだろう。職分からすれば、問題発言といってもいい内容だ。

牧聖苗

ほっ、ほんとですか!?

しかし、牧さんの表情がパッと晴れ渡ったのを見取り、安堵してしまう私もいる。

有遊愛来

ま、まあ……。そんな場所を見つけても、だ。よからぬことには使わないようにな。

鬼の門番ともあろうものが、随分と手ぬるい忠告だ。

案の定、わかりました、とうなずく牧さんの表情は、忠告を胸に刻むというより、ただひたすら「人気のない場所」の獲得を夢見て輝いているようだ。

有遊愛来

(……まあ、いいか)

きっと、本気で咎める気になれないのは、牧さんの人柄だろう。

喜怒哀楽が素直に出るせいか、一途な熱意が伝わってくるせいか。彼女には一風変わった牽引力があるらしい。

有遊愛来

(……興味深い子だ)

有遊愛来

(彼女なら、もしかしたら……)

学生たちの怠惰を己の労働として抱え込む相原先輩の姿が、頭をよぎる。

この相原先輩への敬意と愛情にあふれた、情熱的な後輩ならば。

最近、ますます悪化しつつある相原先輩の現状を……、いや、それに異を唱えない相原先輩自身を変える、きっかけになるかもしれない。

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okujou_no_yurirei-san/3131.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)