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okujou_no_yurirei-san:3113

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ICレコーダーをいじっている、三山さん。マイクのつもりか、私の指示棒を取って口元に寄せてきてるのが、一木さん。双野さんもその隣に。

放送部の子たち。いつも一緒にいる三人組。

この子たちが、各クラブの部長さんたちにインタビューして回っていたのは知っていたけど、なんで、ここに?

一木羽美

音七、レコーダーの方、準備OK?

三山音七

だいじょぶだよ~。

一木羽美

じゃあ本番、いってみよー! 人気教師インタビュー、今回は古文担当の園生月代ちゃん先生でーす!

なんで、私のところに来てるのかしら。そういうことをやります、って連絡も受けていないんだけど。

園生月代

あの、一木さん? これっていったい、どういう……。

一木羽美

まあまあ、今度から部長さんたちばっかじゃなくて、先生にもインタビューしてみようかなって。トップバッターが月代ちゃんってことで。

なんて、言われても。ちょっと困ってしまう。一木さんの隣に控えてる双野さんを見れば。

双野沙紗

『単に、合宿中ヒマになっただけ』

とかなんとか、わざわざスケッチブックにさらさら書きだしていた。

どうして口で言わないのかしら、とか首を傾げた私へ、続けてまた書きつづる。

双野沙紗

『もうレコーダー動かしてるんで、そのまま答えて』

……暇になったからって。先生はいろいろやらなくっちゃいけないこと、あるんだけど、とは思っても。

せっかく来てくれた子たちに、お断り、するのも気がひけるし。

園生月代

もう。インタビューって、先生、どんなことを話せばいいのか、わからないわよ?

一木羽美

あ、それはこっちで質問するんで。月代ちゃんはそれに答えてくれるだけでいいですから。

私の指示棒を、唇に触れてしまいそうなくらいに寄せてくる一木さんの目は、おもしろそうな玩具を見つけたときのそれ。

きらきら輝いて、好奇心一杯で。ダメ、私はこういう年ごろの子の、こういう目にはどうしても弱い。つい、うなずいてしまう。

一木羽美

えーと……、沙紗、なに聞こっか?

双野沙紗

『そんぐらい考えとけよ。まずは身長体重とか誕生日とかそのへんからでいいだろ』

双野さんは裏方に徹するつもりのようで、どこまでも声にはしない。

一木羽美

そだね。そしたら月代ちゃん、身長体重は?それから誕生日は?

質問役の二人からすれば、それは無難な質問の入り方のつもりなんでしょう……。でも、ね。

先生には、それが最初からって、ちょっと、いいえ、かなり難易度高い質問なのよ?

ためらいが私の答え、一拍遅らせてしまう。

園生月代

……ええと。身長は、156cmです。

一木羽美

え?

双野沙紗

……は?

一木さんだけじゃなく、双野さんまで、スケッチブック手にしたまま、きょとんって目をみはってる。

園生月代

それで、体重は42kgです。前に計った時からはちょっと間があいてしまっているけれど、そんなに変わってないと……。

一木羽美

ちょ、月代ちゃん、ないない、それはないってば。そんなのあるわけないじゃん!

双野沙紗

うん、ない。ちょっと有り得ない。先生、それ、いくらなんでもサバ読み過ぎだよ……。

三山音七

だうと~。

はい、厳しい指摘ありがとうね。双野さんなんか、もうスケブのことなんて忘れて、しっかり声出しちゃってるくらいだしね。

一木羽美

だって156って言ったら、わたしとちょうど同じくらいだよ? 並んでみよっか、月代ちゃん?

双野沙紗

身長でサバ読むなら、体重の方もそれにあわせなよ、先生。ちょっとバランス悪くて、すぐバレるだろ。

園生月代

……誕生日は、7月15日。星座なら蟹座で、7月のお盆です。あと、中元ですね。

一木羽美

あー、月代ちゃん、ごまかしたまま、進めようとしてる!

双野沙紗

なんかもうどうでもよくなってきた……。

と、こんな雰囲気で、序盤はちょっとふざけ半分だったけど。

一木羽美

そう言えば、月代ちゃんはどうして先生になろうって思ったの?

この質問が出たあたりで、流れが変わってきたのがわかった。

園生月代

ああ、それね。先生の学生時代の恩師って呼べる人が、この学校の出身だったからよ。

一木羽美

へえー……、城女の?

園生月代

そう。とにかく豪快で、学生のことには真剣で熱心で、あなたたちから見たら古いタイプかも知れないけれど、熱血教師って言い方がぴったりの人だったのよ。

一木羽美

わたしは嫌いじゃないよ、そういうタイプ。なんの先生だったの? やっぱり体育?

園生月代

ううん。英語の先生でした。

双野沙紗

熱血英語教師……。なんか想像がつかない。単語とか間違えるたびに竹刀でケツビンタとか。

一木羽美

ブートキャンプの人かもしれないよ?

園生月代

そこ。そんな言葉は使わないでね。その先生は、体罰とかはなさる先生じゃなかったけれど、とにかく二言目には気合いだーっ、て性分で。

園生月代

先生も、一晩でペーパーバック一冊分の和訳とかやらされたっけ。広告まで……、全部……。気合いがあればできるって……。

園生月代

あんなに……、朝日が黄色いなんて……。先生知らなかったのよ……、瞳がね……、きゅーって縮まるのが……、自分でもわかるの……。

一木羽美

つ、月代ちゃん、目がどんよりとしてきてるよ!?

園生月代

でも、その後でおごってもらったフルーツ牛乳のおいしかったことって言ったら。甘味が脳にしみわたる、あの感覚は忘れられないわ。

園生月代

それでわかったわ。この先生は厳しいだけじゃないんだ、学生のことを気にかけてくれているって。

双野沙紗

やっすい甘味で懐柔されてるよ、この人。てか、洗脳って言わないかそれ。

双野さん、なにか言っていたみたいだけれど、そこはあえて聞き流して。

園生月代

厳しいだけじゃなくて、けれど甘やかすだけじゃなくて。私は、その先生を見て、ああ、自分もこういう風に、人に教えられる人間になれたならなって、そう思ったのよ。

園生月代

それが、先生の、先生になったきっかけ。

園生月代

それで、その方の母校がここ城女だったから。こんな人が育った学校で働いてみたいなって考えて、ここへの赴任を希望しました。

一木羽美

わぁ……、いいな、それ。なんかそういうの、わたし、すごく憧れるな……。

双野沙紗

羽美、マジ!?

ああ、一木さんには伝わった。素直な、感受性の豊かな子。私はあなたたちのような子に教えるために、この学校へ。

いいえ、教えるなんておこがましいわね。私のほうこそあなたたちからいつも教えられてる。その心、その眼差しに。

……双野さんはなにか、真夜中に手拭いを被って踊り狂う猫の集団でも目の当たりにしたような、ぎょっとした目で一木さんを見つめてたけど。

うん、それは見なかったことにしよう。

一木羽美

それでそれで、月代ちゃんの目から見たこの学校はどう?

園生月代

ええ、なるほどねって思いました。いかにもあの先生の母校だなって。

園生月代

みんな、この学校に入って、学校生活を過ごして……。逞しくなっていくみたい。

一木羽美

たくましくって。

園生月代

そう、あの先生みたいに、逞しく立派な女性になっていく感じ。

双野沙紗

それ、女子校へのコメントとしてありなのか。というか褒め言葉としてもどうなのさ……。

そんなこんなで、お話もいい雰囲気に熟して、一木さんたちも満足してくれたのか、そろそろおしまいにしようというころ合いを迎えたあたりで、唐突に。

一木羽美

あ、そだ、月代ちゃん、最後に一つだけ。

園生月代

はい、なあに?

一木羽美

いま、好きな人はいますかっ!?

質問があんまりにも直球で、明解だったから。だったら私も即答しよう。

園生月代

います!

一木羽美

え!?

双野沙紗

マジ……?

三山音七

ほぅ……。

むしろたじろいだのは三人のほう。そんな三人に私が継いだ言葉は。

園生月代

先生は、みんなが大好きです!

心からの、嘘偽り無しの、それが私の本音。

一木羽美

……あー……。

双野沙紗

……ああ、うん、そんなとこだよね。

三山音七

なんだぁ~。

三人の見合わせた顔の、なんともしょっぱい表情って言ったら。

双野沙紗

先生、ここでいい話で落とすとか、そういうの、要らないです。

園生月代

先生はみんなのことが大好きで、だから、なにか困り事とか悩みがあったなら、いつでも相談にきてね。

やがて帰っていった三人の、なんだか疲れたような顔つきを見送りながら、思う。

この学校のみんなが大好き。

ええ、それは間違いのない、先生の本音。

けれども。

大人になると、本音は一つとは限らないし、時にはそれらを使い分けることだってあるのよ。

あの子たちには、それはまだわからないことかもしれない。

それとも、あの子たちなりに理解していた上で、私に合わせてくれたのかも知れない。

どちらにしても、私の本当の気持ちは、誰にも明かしてはいけない。少なくとも、今はまだ。

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okujou_no_yurirei-san/3113.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)