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okujou_no_yurirei-san:3111

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気が付くと、視界の中で彼女を捜している自分がわかる。

2年C組の剣峰桐さん。私が顧問を務めている数理部のただ一人の部員。

教師として、特定の学生のことばかり気にしていてはいけない、とは思うのだけど。

それでもどうしても、彼女のことが気になってしまう。

今日だって、休み時間の移動中、廊下を過ぎていく学生たちの中に、つい捜してしまうのは剣峰さんの姿だ。

だって。これまでなら。彼女が一年生の時から。私を見ればかわいいって連呼しながら、なにかとスキンシップを求めてきていた剣峰さんなのに。

ここしばらくというもの、そういうことをしてこない。それどころか、私を見ると、逃げ出してしまうくらい。部室でも会うこと、できないし。

……心配にならない方がおかしいわよね?

なにかあったのかしら。お家のこととか、校内での友人関係のこととか。

学校には来ているし、逃げたりしないで、顔を合わせて話をさせてくれれば、それが一番いいんだけれど、と、やっぱり剣峰さんの姿を捜している自分がある。

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古場陽香

おわっ!? っととぉ!

園生月代

あ……!

けれど、剣峰さんのことばかりで、ちょっと他への注意が散漫になっていたみたい。廊下の曲がり角で、あやうく誰かとぶつかりそうになって。

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古場陽香

ワ、ワリぃ! どっか、ぶつけたりとかしてないよな、園生センセ。

園生月代

……こっちこそ、ごめんなさい、古場さん。大丈夫? どこかぶつかってない?

古場陽香

あ? ああ、ゼンゼンへーき!

この子は一応、先生って呼んでくれる。ちょっと、呼び方が軽いかなって気もするけど。

でも、どうして他のみんな、けっこうな数の子が、私のことちゃんと先生って呼んでくれないのかしら。

まあ、悪気があってそうしてるのじゃないのはわかるから、あまり目くじら、たてたりしたくはないんだけど。

この子はええと、古場さん、そう、古場陽香さん。二年生。音楽……、ロック系が好きな子だって聞いている。

服装もその趣味を反映してなのか、この学校の中じゃちょっとばかり目立つ方、かな。

けれども根は素直でいい子だし、授業だって、ちゃんとマジメに受けてくれる。時々、寝てたりするけど。

いきなり奇声を上げて火を着けたり、頭をすごい勢いで振ってみせたりしない。うん、私、ロックのイメージ、ちょっと間違ってるわよね。

でも……。

園生月代

古場さん、担任の先生が、最近、また遅刻が増えてるっておっしゃってたわ。

どうにもこの子は、遅刻の常習犯だっていうのが、問題。

古場陽香

あー、まぁ、5連続は回避するようにがんばってるぜ!

つまり、ギリギリになるまでは、全然気にしてないってことよね。眉のあたりに困りしわが寄りそうになるのをちょっとこらえる。

園生月代

5連続じゃなければいいってことじゃないのよ。1回だって遅刻はダメよ。そうね……。

園生月代

先生が、毎日、電話で起こしてあげようか?

古場陽香

えー? 園生センセがぁ?

見るからに気乗りしない声と表情で。まぁ、それはそうかもしれないわね。朝から、教師の声で起こされるなんて。

ただ、古場さんの懸念は他のところにあったみたい。

古場陽香

まーでも、園生センセにはメーワクかけたくねーなぁ。だってセンセにメンドーなことやらせっと、桐がすっげーイキオイで怒ってくるしさ。

園生月代

え?

古場陽香

ん?

彼女が気にしていたのは、教師からいちいち連絡を受けることではなく、友達から叱られてしまうこと。友達。誰と、誰が?

園生月代

古場さん、あなた、剣峰さんと仲良かったの?

古場陽香

んー、まあね。桐とは、去年、一緒のクラスだったしさ。あいつ、おもしれーだろ、なんか気が合っちゃってさ。

園生月代

そうだったの? それじゃ、古場さん、聞いてない? 剣峰さんからなにか。

古場陽香

ナニかって、ナニが?

園生月代

その、最近、剣峰さん、ちょっと様子が変なの。なにかあったとか聞いてない? 彼女の身の回りのこととかで。

学生のプライベートなことに踏みこむのは、あれこれと繊細なもので、たずねるにももっと、気を遣わなくちゃいけないんだけど、本当は。

でも、この時、そういうことをちょっとすっ飛ばして、古場さんに聞いてしまったのは、やっぱりそれだけ剣峰さんのことが、気になっていたんだろう。

幸い、古場さんには、私の焦りや迷う胸のうち、あまり気付いた様子はなくて、素直に答えてくれた。のはいいんだけど。

古場陽香

様子が変、かぁ。でも桐のヤツ、カワイイもの前ではたいてー変じゃん。園生センセの前で、桐の様子が変って、フツーのことじゃね?

それは、そうなんだけど……。いや、そういう意味じゃなくて……。

私の方は真剣に聞いているつもりなのに、そういうふうに返されると、脱力すればいいのか、ちょっとは怒ってみせた方がいいのか、わからなくなってくる。

怒ったりはしたくないんだけど。

園生月代

ううん、そうじゃなくってね、そういう変じゃなくて、その、なんか先生、剣峰さんに避けられちゃってるみたいで……。

古場陽香

桐が? センセを? 確かにそりゃ変かも。ん~……、あ、そういや、この前、なんか変なこと、言ってたな。

古場陽香

えっと、「私、大変な事実に気付いてしまったの」とかなんとか。

園生月代

え?

なにそれ、いきなり。なんで、大変な事実、なんて大げさな言葉が出てくるの?

ご家族の関係のなにか? それとも危ない事件に巻きこまれたり……? この年ごろの女の子たちは、危なっかしいところもあるから……。

体中の血が、急に勢いよく巡っていくような気がする。目の奥に重苦しい圧力がよどんでいく。

あ。だめ、これ。ちょっとめまいまでしてきた、ような……。

足元が沈みこんでいくような感覚に耐えているうちに。

古場陽香

つってもあまぁ、桐のことだからさ。なんかカワイイもの絡みじゃね? アイツが変になるってことだと……。あっ、センセ!?

古場さんが、こっちをみて、ひどく驚いた声をあげる。そんなに私、ひどい顔を学生の前で見せてるのかな……、と。

とろり、と。

古場陽香

園生センセ、鼻血、鼻血!!

鼻の奥からつたう感触の、そのむず痒さに我に返る。

園生月代

あ……、え……、あら。

ゆるい鼻水が止まらずに流れていく感覚は、私にしてみれば慣れたもので、服は汚さないように、バッグからティッシュを引っぱり出して。

適当にちぎって鼻に詰めこむ。この際、体裁なんて気にしてられないし。

古場陽香

センセ……、大丈夫か?

園生月代

ええ、平気よ。ちょっと、時々こうなったりするの。でも大丈夫。本当にたいしたことないから。

古場陽香

お、おう……。

心配そうにのぞきこんでくる古場さんに、鼻声だけど、つとめて何事もなかったように答えて、笑ってみせる。

ここしばらく、いろいろと忙しかったからかな。

でもだめだなあ、もともと丈夫な方ではないけど、ちょっとのぼせただけで、こんな姿、見せてしまうなんて。

古場さんも、心なしかしゅんってなってしまってる。

古場陽香

悪かったよ園生センセ。オレ、遅刻とか減らすようにするからさ。

古場陽香

シンローってやつだろ、それ。鼻血はやべーよな。ライブでもよく、いきなり噴き出すヤツいるけどさ、あれ、マジ、ビビるんだよな。

園生月代

え、ええと、そう、そうなの。

やっぱり。この子、服装や遅刻のことは難だけれど、気持ちが優しい、人のことを思ってあげられる子だな。

それはうれしかったし、あらためて彼女のことを見直したものの。私にも先生って立場があるから、口では古場さんの言葉に乗ってみたりね。

園生月代

遅刻、なるべくしないようにね。

これでこの子の欠点が少しでも改善されるなら、私の虚弱気味な体質も、ちょっとは役に立つってことかしら。

古場陽香

ああ! 3連続くらいに押さえてみせるぜ!とりあえず、来週限定で!

……まあ、何事も一歩ずつということで、ここは目をつぶりましょう。

園生月代

ああそれと。ついでっていうのもちょっと変だけど、剣峰さんに伝言をお願いしたいの。

園生月代

なにか心配事があるのなら、先生とお話ししましょう、って。よろしくね。

古場陽香

オーケイ。園生センセが会って話したがってたってことだろ? 桐に会ったら、伝えとくぜ。

古場さんには変な印象、与えちゃったかもしれないけど、友達からの伝言なら聞いてくれるかもしれない。

しっかりお願いして、古場さんと別れてトイレに向かうことにする。鼻血はもう止まってるけれど、鏡を見て血とかは拭いておきたいし。

それにしても剣峰さん……。

『大変な事実』って、ほんとになんなのかしら。

あの子のことだから、そんな危ないことじゃないだろう、とは思う。

それでもどうしたって、胸にもやもやしたつかえは残ってしまったわけで。

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okujou_no_yurirei-san/3111.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)