User Tools

Site Tools


okujou_no_yurirei-san:3062

Place translations on the >s

こんなのは、いつものこと。

誰かから仕事を頼まれて、それを終えて教室へ戻ろうとしたその足で、また頼まれ事されて、それが運び仕事だってことも、いつものこと。

今日はその頼まれ事が、二重三重にも重なってないだけでも、ずいぶんと気楽な方。

相原美紀

とはいっても、これは……、ね、ちょっと……。よいしょ……!

手の中からすっぽ抜けそうになる、ダンボール箱をどうにか支え直せば、今度はその重みで中身の方が抜けそうになってしまう。

ダンボールの中身は、生物の資料の冊子。上質紙の冊子は、同じかさのプリントの束より、はるかに重い。

これを二階まで運べっていうのは、まあ確かにいつものことなんだけど、さすがにこの重さは大変かも。

一度下ろして、ひと休みしようかしら、と心が折れそうになった時、ふっと箱の重みが軽くなる。

稲本美夕

手伝うわよ、美紀。

誰かが対面から支えてくれてるのだと気付いて、顔を上げれば、そこにはよく知った顔。

相原美紀

美夕! あ、いいのよ、わたし一人でも運べるから……。

稲本美夕

強がらない方がいいわよ。これ、そうとう重いじゃない。運動部の人間だって一人じゃきついと思うわ。

ダンボールを支えてくれる手はしっかりとしていて、遠慮しても離してはくれそうにない。そして、確かに二人だとずいぶん楽になって。

美夕。二年の時から同じクラスの、わたしが友達と、そう素直に口にできる人。

稲本美夕

これ、どこまで?

相原美紀

2階の第一理科室の準備室までなんだけど……。お手伝い、お願いしていい?

稲本美夕

もちろんよ。

それなら、と少しだけ、箱の重みを美夕に預ける。このくらいなら、いいよね?

美夕は、二年の時から、こうしてわたしのことを気にかけてくれる一人。

それだけじゃない。きっとわたしの内心のこと、いくらかは見抜いているって思える。どこまでかはわからないけど。

友達になってから、ずっとそう。わたしの胸のうち、わかって、心配してくれていて。

だからかしら。彼女の事、他の人よりも、よく見るようになったのは。観察しているって言ってもいい。

稲本美夕

相変わらずなのね。美紀、生物の授業なんて、とってないでしょう? それなのにこんなこと、引き受けて。

相原美紀

ん……、でも、相変わらずのことだから。そう言う美夕の方こそ相変わらずなんでしょう?……でも、なんだか少し、元気ないみたい。

だからかしら。わたしには見える。箱を挟んで、間近で、美夕の顔が。息遣い、声、足取りも、美夕が普段より、消沈しているのが見てとれる。

稲本美夕

……美紀、そんなごまかし方じゃダメよ。少しやつれたみたいよ。

ああ、やっぱり。悟られてしまってる、みたい。美夕はそういう人。でも、ごまかしも半分あったけど、もう半分は本当にそう思ってるんだけど。

陸上部の、短距離の全国クラスの選手で副部長。部長の茉莉さんの代わりに、部員のトレーニングのメニューまで決めてるんでしょ?

そんなコーチみたいな役割、でも、美夕らしい。わたしは美夕のこと、自分自身よりも誰かの育成に向いているって思うこと、あるもの。

冷静沈着に。観察と分析に長けている、美夕。

そういえば近ごろ、記録の方、伸び悩んでいるって聞いたけど、美夕が浮かない様子なのは、そのせい?

ううん、それは聞かないでおこう。

わたしがそうされるのを望まないように、きっと彼女もそれを望まない。

お互いに判っている、そういう呼吸がある。求められない限りは、人を甘やかさない主義。それが美夕のタイプ。

だから、わたしが甘えようとしない限りは、美夕は手を出してこないでしょうね、こっちのことには。

性格や考え方に差はあっても、そういうところはお互い似通っている。

苦労性っていうのかしら。そんな共通項。きっと、他人に頼る事を避けるという点まで似てる。わたしは頼るのが下手なだけなんだけど。

ああ、だからなのかな。わたしが彼女と友達でいられるのは。

こうして段ボールの箱越しでなくっても、間合いを取りあって付き合っているのね、わたしたちって。

相原美紀

まぁ、きっとお互い様なのかしらね。しかたないかも、こればっかりは。

そういう本音に近いことを言えるのも、美夕が相手だからこそ。

稲本美夕

そうね。お互いに、好きこのんで苦労したがってるのね、私たち。

相原美紀

そうかもね。あとちょっと、がんばりましょ。

稲本美夕

ええ。

とは言っても。いざことに当たるとなると、手を抜けない性分なのもお互い様。

なにもかも、難儀なところばかりが共通した友人というのは、これはこれで得がたいものなんでしょうね、きっと。

あとちょっと。

でも、それは資料室まで、このダンボール箱を運ぶことなのか、それとも、部活と委員会、引退するまでの時間なのか。

自分で口から出た言葉だけど、どっちの意味なのか、あとから思い返してもわからなかった。

二人して、笑った言葉だったのに。そんなとこまで、似てるのね、わたしたち。

grpo

grpo_ef

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

grpo_bu2

grpo_bu1

grpo_bu0

okujou_no_yurirei-san/3062.txt · Last modified: 2018/05/22 17:15 (external edit)