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okujou_no_yurirei-san:3044

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阿野藤

うう……。

あたしは、今、困っていた。

正確には今日ずっと困っていた。今日という日。それはあたしの……。

……誕生日、なのである。

それなりに交友関係を広くしてるあたしだから、こういうイベントの日はいろんな人がお祝いをしてくれる。そのことに去年は気付かなかった。

だから、もう、なんだろ、去年は……、すっごいすっごい恥ずかしかった!

あたしは目立ちたくないんだ。誰かから注目されてると思うと、それがみんなからだと思うと、いっきに顔が赤くなる。

もうこれは、生まれつきだよ。そういう体質なんだよ。

阿野藤

(ともかく!)

阿野藤

(授業終わりまでは、こうしてなんとかステルスに成功したわけだし!)

阿野藤

(このまま無事に、なにもなく一日を終える!)

去年は、本当に恥ずかしくて恥ずかしくて、困って、困って、大変だった。

マイフレンズのどいつもこいつも祝ってくれやがって! おまけに誕生日プレゼントだとぉ? うれしかったさ! でも、恥ずかしかったさ!

とにかく、誕生日だろうがなんだろうが、まわりを囲まれておめでと~なんて、ごめんこーむる。あたしを恥ずか死させる気か!

阿野藤

(脱出作戦、ミッション受領確認! 作戦開始は授業終了後、すぐ!)

阿野藤

……よし、終わった!

遠見結奈

阿野、今日は……。

阿野藤

ごめん! 今日はちょっと急ぎの用事っていうかアレコレだからひとりで帰るね!

遠見結奈

え、でも……。

阿野藤

また明日ね!

……ミッションスタート!

阿野藤

こちらスネーク。周囲に警戒対象は存在しない。繰り返す。警戒対象の気配はない。

ちょっと腰を低く落として。ステルスゲームばりに、壁にぴたりと身を寄せて、あたしは廊下をそろそろと進む。

ああ、心臓に悪い。下駄箱へ到着するまで、知り合いの顔にどうか出会いませんように。

あたしは心の中で神さまに祈る。かっこよく、想像の中で十字を切ったりしてみる。

阿野藤

任務を遂行しろ。あたしは戦士だっ。

一木羽美

せんし?

三山音七

あ、いたいた~。お~い、阿野~。

阿野藤

あっ!

一木羽美

お?

三山音七

ん~?

阿野藤

発見されたっ。一時撤退、一時撤退!

阿野藤

なんでよりによって最初にうみちゃんに! 見つかるかな!

廊下は走るな。廊下は静かに。そんなのおかまいなしにあたしは走る。走る。

今は意表をついてなんとか距離取れてるけど、その気になられたら、あの元気なうみちゃんに追いつかれるのは確実っ!

ねなだってそう。普段ぐったりして体力温存してるせいか、滅多にないけどその気になった時のねなの運動能力は、そりゃあ、すごいんだから。

阿野藤

(どどどどうしよう)

なんとか1階の廊下まで降りてきたけど、このまま走ってても追いつかれるし、なにより走ってる姿は目立っちゃう!

阿野藤

ん……、あ、そうだっ!

廊下掃除用に、階段近くの壁際にひっそりと佇むロッカーにあたしは飛び込む。うわぁ、ワックスくさい~。

阿野藤

(ロ、ロッカーは諜報活動の必需品! ほんとはダンボールの方がいいんだけど!)

一木羽美

……あれ、確かにこのへんに来たと思ったんだけど……。いない?

来た! で、でも、大丈夫。息を殺しておけばまさかロッカーに隠れてるなんて思われないはず……。

三山音七

ロッカーは~。

三山音七

諜報活動における必需品だ~。

一木羽美

えー。ロッカーはさすがにないでしょ。

阿野藤

(ひぇぇぇぇぇ、ばれてるぅぅぅぅ!)

さ、さすが同じゲーマー同士、考えることは同じ……。うみちゃんの目とねなのカンの合わせ技なんてそんなの、かなうわけない!

うう、さんざん走っちゃったし、これはなんと言い訳しても……。

遠見結奈

どうしたの。誰か探してるの?

あれ。この声。結奈?

遠見結奈

……それで。阿野はどうしてあんなところに隠れてたの?

遠見結奈

見つかりたくないのかなって思ったから、ああしておいたけど、それでよかったの?

阿野藤

うう、ありがとぉ……。

深々とあたしは結奈にお辞儀する。うう、ほんとに危ないところを助けてくれてありがとう、結奈……。

あの後、結奈は「阿野なら3階に上がっていったけど」とふたりに言って、絶対絶命のあたしを助けてくれた。

まさか、結奈に助けてもらうなんて。夏休み前にも増してなんだか最近、大変そうな結奈に、気まで遣ってもらって。

阿野藤

……その、いろいろ、あって。今日は、今日だけは誰とも会わないほうがいいかなっていう日で……。

遠見結奈

そういう日、なの?

阿野藤

うん……。

遠見結奈

なら、余計なことは聞かないけど。明日、二人にはあやまっておいた方がいいと思うわよ。悪いことして逃げてたわけじゃないんでしょう?

阿野藤

……うん。

ちょっとチートしちゃった感じだけど、これでなんとかミッションコンプリート。あとはここからさっさと脱出するだけ……。

遠見結奈

それと。はい、これ。

阿野藤

え。

ポケットをちょっと、ゴソゴソってした結奈が、かわいくラッピングされた小さな包みを、あたしに。

遠見結奈

帰っちゃう前に会えてよかった。クッキー、焼いてきたの。

阿野藤

え……?

えっと、これ、もしかして……。

遠見結奈

ごめんね。去年は、誕生日知らなかったから。

遠見結奈

誕生日おめでとう、阿野。

阿野藤

え、あ……。

阿野藤

あ……ありがとう……。

………………。

……え、あ、あれ……。

あたしは、ぽつねんと佇んで、笑って、バイバイってしながら、教室のほうへ戻っていく結奈を見つめて。

ぽつねん、と。

渡されたかわいい包みを両手で持って、ああ、ぽつねん、ってマンガや小説でよく見かける表現ってこういう感じなんだな、って……。

あたしは……。

阿野藤

な……。

阿野藤

な……、なん……。

阿野藤

なんだよもー、なんだよ、もー! こ、これじゃ、あたし。なんだかっ!

阿野藤

去年より……!

う、うわわ! 顔が真っ赤になってるのが自分でもわかる。去年より、ぜんっぜん!

みんなに囲まれて、いっせいにおめでとうなんて言われた瞬間より、ずっと!

今の、ヒーローみたいに颯爽とあたしを助けてくれて、その最後にさりげなくポイってクッキーパスしてきた結奈の方が、はるかに!

恥ずかしいぞ、これっ!!

阿野藤

不意打ち、反則だよ、結奈ぁ~。

あーもう、かっこういいな、もう!

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okujou_no_yurirei-san/3044.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)