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okujou_no_yurirei-san:3032

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狛野比奈

ん……?

部活に行く途中、大座敷のそばを通ったら。

狛野比奈

聖苗ちゃん?

大座敷の机の前に座ってうつむいてる背中、見覚えがある。というより、このところよく見ている。

あんなふうに、うつむいてる姿。隣の席で。だから、憶えていた。

ちょっとだけ、近くに寄ってみる。あ、やっぱり、聖苗ちゃんだ。

あたしが近寄ってるのに、気付く様子もない。どうしたんだろう、ここのとこ、ずっとあんな感じで。

ちょっと前まで、毎日、すごい機嫌がよかったのに。

整美委員会に入って、毎日、いろんな仕事があって忙しいって言いながら、とても楽しそうだったのに。

先週の終わりくらいから? あんなふうに机に突っ伏してばっかりになってしまった。

それまでのテンションから急転直下だったから、あたしもちょっとびっくりした。

どうしたの? って聞いても、うーんとか、どうしようとか、そんな返事ばっかりで。言いたくないことがあったのかなって思って、それ以上聞かなかったんだけど。

明るくて前向きで、時々びっくりな行動力があっておもしろい人だなって思ってたのに。

よくクラスで話すようになって、友達になって、いろいろ聖苗ちゃんのことも知った。

おうちは工務店で、そのせいでちょっと人より力持ちなのが少し自慢で、家族みんな明るさが取り柄だって笑ってるくらいだったのに。

でも、あれってどう見ても、落ち込んでるんだよね?

狛野比奈

んー……。

ここには、お気に入りのドリンクを買いに来たんだけど……。

あたしは一度、回れ右して、大座敷を離れて、階段の方へと向かった。

ん、よかった。まだ、聖苗ちゃん、いた。

どっかに行っちゃったらどうしようかと思った。せっかくいっぱい買ってきたのに、あたし一人で食べるのもつまらないし。

もう一度、まだ机の前、うつむいたままの聖苗ちゃんに近寄る。そして、今度は声をかける。

狛野比奈

聖苗ちゃん。

牧聖苗

あ……。

聖苗ちゃんがゆっくりと顔をあげた。よかった、泣いてるわけじゃないんだ。でも、なんだか泣きそうな感じ。

あたしは、持っていたビニール袋の中味を、机の上に広げ始めた。

狛野比奈

聖苗ちゃん、パンをあげる。食べよ。

牧聖苗

えぅ!?

……びっくりした時の声なのかな、今の。ま、いいや。

狛野比奈

………………。

牧聖苗

………………。

えぇと、カレーパンとアンパンと三色パンとサンドイッチとチョココロネとポテサラロールと焼きそばパンと……。これだけあれば、聖苗ちゃんが好きなのもあるよね。

あたしがパンを並べてる間、聖苗ちゃんは黙ったままで。

狛野比奈

ん、どれでもいいよ。好きなの食べて。

牧聖苗

なんで……?

狛野比奈

んー……。

なんでって言われても。特に他に思いつかなかったから。

狛野比奈

とにかくなにか、食べるといいよ、こういう時って。なんだか、元気なさそうだから。

牧聖苗

あ、ありがとう……。

聖苗ちゃんは、しばらく、並んだパンを見ていたけど。

牧聖苗

でも、ちょっと今、揚げパン系はキツイかな……。なんだか、胸がいっぱいで入っていかなくて……。

狛野比奈

そう? でも、そういう時って、油モノ、いいんだって。

牧聖苗

……そうなの?

結奈ねぇがそんなこと、言ってたような気がする。……言ってたかな? 言ってた、たぶん。

結局、聖苗ちゃんが最初に手に取ったのはカレーパンだった。あたしは、焼きそばパンを手に取る。

そのまま、二人で向かい合ったまま、パンを食べて。半分くらい、聖苗ちゃんが食べたくらいで、聞いてみた。

聞かない方がいいかなって思ったけど、聞いてみた方がいいかなとも思ったし。どっちにしようか迷ったら、言ってみた方がいいかもって思った。

狛野比奈

どうしたの?

牧聖苗

ど、どうって……。

えっと、なんで落ち込んでるの、かな? どうしてこんなとこにいるの、かな? なんで泣きそうなの、かな? どれでもいいか、どうしたの?

答えてくれなくてもいいんだけど。そう思ってたんだけど、あたしがそう言う前に、聖苗ちゃんの方から、言葉が出てきた。

牧聖苗

ちょっとね。大事な……、うん、大切な人のことを……、きっと傷つけてしまったの。

狛野比奈

大切な人? 聖苗ちゃんが?

牧聖苗

うん。だからわたし、どういう顔でその人に会えばいいのか、わからなくなっちゃってるんだ。

狛野比奈

んー……、会いたくないんだ?

牧聖苗

……ううん、そんなことない。会いたい。でも会ったらいけないなって。そう思うと、なんだかもう……。どうしていいかわからなくて……。

狛野比奈

んー……、相手の人はなんて言ってるの?聖苗ちゃんに会いたくないって?

牧聖苗

そんなこと、言ってない……。言ってないけど……、どうなのかな……、よくわかんない。

牧聖苗

わたし……、きっと、ひどいことしちゃったし……。

そっか、それで落ち込んでたんだ。ん、理由はわかったけど、どうしよう。とりあえず……。

狛野比奈

ん、次のパン。

牧聖苗

え? あ、えっと、わたし、もうけっこうお腹いっぱいで……。

狛野比奈

もう一個だけ、食べてこ。

牧聖苗

う、うん……。

狛野比奈

そしたら、その人のとこ、行った方がいい。

牧聖苗

え……。でも行ったって、話なんてできない……。

狛野比奈

別に話とかしなくてもいいよ。でも、近くにいないとダメ。

牧聖苗

……ダメ、かな? もしかしたら、わたしが近くにいると嫌な思いをさせちゃうかもしれないのに?

狛野比奈

わかんないよ、そんなこと。そうかもしれないけど、もしかしたら、許してくれるかもしれないし。

狛野比奈

でも、どっちにしたって、近くにいないと、わからないでしょ。

牧聖苗

それは、そうだけど……。でもそれって、けっこう、つらくって……。

その気持ちは、わかる。あたしだって、結奈ねぇとケンカしたこと、ある。お互い口をきかないでずっといたことだって。

でも、仲直りできるきっかけは、近くにいないとわからない。ごめんなさいって言ったって、近くにいないと聞こえないんだから。

だから、近くにいた方がいい。つらくても、それは。

狛野比奈

それは、ガマンする。

牧聖苗

ガマンするの? ずっと?

狛野比奈

ん。だって、大切な人なんでしょ? 近くにいるのもガマンできない、人なの?

牧聖苗

あ……。

ちがうんでしょ? つらくてもそばにいたいから、こうしてここで迷ってたんでしょ? ガマンがイヤなら、さっさと帰っちゃえばいいんだから。

牧聖苗

うん……。そう、だね……。

ね、そうでしょ?

牧聖苗

……比奈ちゃんも、そうやってガマンしたこととか、あるの? つらくても、近くにいて、ガマンしたこと……。

狛野比奈

んー……。

あるよ。でも、あたしのことは関係なくて、聖苗ちゃんのことだし。あたしと結奈ねぇのこと話しても、あんまり参考になんないだろうし。

狛野比奈

内緒。

牧聖苗

内緒、かぁ……。

ごめんね、でも、なんとかしなきゃってがんばるのは、聖苗ちゃんなんだし。うん、がんばって。もっとパン、食べていいから。

狛野比奈

ん。はい、もっと食べて。

牧聖苗

え、ええ!? も、もう、さすがに入んないよ。

狛野比奈

そう? それじゃ、お土産にする?

牧聖苗

ええ! い、いいよ、悪いから! 残りは比奈ちゃんが食べて!

狛野比奈

んー、わかった。そうする。

部活、終わったら食べよう。あたしは、残ったパンを袋に戻す。あ、そろそろ、部活に行かなきゃ。

狛野比奈

聖苗ちゃん。

牧聖苗

なに?

狛野比奈

がんばってね。

牧聖苗

……うん。ありがと。

狛野比奈

ん。じゃ、部活行く。これだけ、お土産ね。

三色パンの一つだけ、千切って自分の口に放り込んで、残りを聖苗ちゃんの前に置いていく。

元気、出してくれるといいな。早く、その大切な人と仲直りできるといいね。

そしたら、そのパン、半分こにして食べられるしね。でも、あんまり時間がかかると、ダメになっちゃうか。

大座敷を出る時、一回だけ、聖苗ちゃんの方を振り返った。

まだ、聖苗ちゃんは座ったままだけど、もう顔はしっかりあげていて。あたしが残してきたパンをじっと見ていた。

もうちょっとしたら、立ち上がるのかな? そしたら、その人のところに行くのかな?つらくても、近くにいられるように。

……がんばってね、聖苗ちゃん。

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okujou_no_yurirei-san/3032.txt · Last modified: 2013/06/01 22:49 (external edit)